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第21話 窓ガラス、震える
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アイリーは父は信じてくれる。
単に親子だからではない。過去の経験からそう確信し、思いを告げた。
「実は…トレッドの記憶喪失は嘘なの」
「ふむ。嘘か…。随分と都合のいい嘘だな」
「疑わないの?私が信じられなくてそう言ってるんだって思わないの?」
「思わないよ。もしそうだったらアイリーはトレッドと一緒に王都に戻ったはずだ。納得が出来るまでトレッドから離れないと思うからね」
確かにそうだ。
あの企みを偶然聞いていなかったらアイリーはトレッドの記憶喪失を信じられないし受け入れられないと納得をするまで一緒に行動を共にすると王都に戻ったはずだ。
「何が目的で記憶喪失を演じているのか判らないけど…私を試そうとしているのかな。色々考えたの」
「答えは出たのかい?」
「ううん。そう言うのを考えることを止めることにしたの」
アイリーも薬を作りながらだったが、1人でいる時間があったので考えた。
もしかしたら他に好きな人が出来たんだろうか。
アイリーに言い寄ってきたのはトレッド。アイリーもトレッドの気持ちを受け入れた。
トレッドが離れると決めたのなら、言い寄ってきた時と同じで一途な思いを否定は出来ないので受け入れるだけ。あれだけ押し切ってきたのだから追いかけても振り向いては貰えないし、気持ちを受け入れて好きになったのだから幸せになって欲しいと身を引くのも厭わなかった。
もしかしたらお婆様をやはり無碍には出来ないと思ったんだろうか。
次期伯爵でもあるので仕方のない部分もある。トレッドの祖母は実の息子であるダリム伯爵にでさえ領地の名義を移していないのだ。誰かに売買をしてしまうとなればダリム伯爵家は収入を得る術を失ってしまう。
家の事を思えば仕方のない判断だとも言える。
その為に記憶喪失を演じたと思いたい面もあったが、だとして「誰かに成りすまし」なんてそこまで言う必要があるのだろうかと考えるとムカムカ。腹も立ってくる。
一番バカげていると思ったのはアイリーを困らせようとした、嫉妬させようとした、そんな考えだった。
あまりに馬鹿げているので考えることもやめた。
最終的にアイリーは導き出した答えをキャメラル子爵に笑って言った。
「トレッドの事を考える時間が勿体ないってなっちゃった」
「そうか。それでいいよ。手紙を出したらどうする?アイリーも一緒に行くかい?」
今回の件が無くてもキャメラル子爵はこの地のまだ先にある領地に届け物があった。
一旦王都に戻っていては約束をした日に行けなくなるので一緒に行くか、帰りにまた迎えに来た方がいいかと問うた。
「シュミット家への届け物?一緒に行っていいの?」
「勿論だ。ただ年寄りの話し相手をせねばならんがな?」
「お安い御用よ」
アイリーは悪戯っぽい顔で問いかける父のキャメラル子爵の腕に絡みついた。
シュミット家は爵位のない家。貴族でもなければ平民でもない。
現国王陛下の叔父にあたる人が当主。現国王陛下の治世になる前は王弟だった人だ。今は王弟も入れ替わり、先大公と呼ばれてはいるが、肩書がつくのはもうこりごりと家名だけを名乗る事を許された家。
残念な事に夫人が病弱で子供が産めなかったので子供はいないし、当然孫もいない。
高齢になって体のあちこちが痛いと注文をしてくるので作った薬をわざわざ届ける事になってしまっているけれど、実のところは年の離れたチェス仲間であるキャメラル子爵と勝負がしたいだけだ。
「じゃぁ一緒に行こうか」
「うんっ!」
(やっぱりお父様、大好き!」
トレッドの事を問い質す事もなく、アイリーの言葉を信じてくれた。
それがアイリーには嬉しかった。
「シュミット家の領地までは直通で幌馬車もあるの。それまで薬を作るの手伝って」
「いいよ。アイリーがお世話になっているからね」
父娘で早速薬を増産しようと器具を揃えている所に扉がノックされ、同時に開いた。
「アイリー。君の父上が到着されたと聞いたいんだが―――」
扉を開けたのはジョージ。
娘が世話になったと数歩歩み寄るキャメラル子爵だったが、アイリーの言葉に硬直した。
「言い忘れてた!お父様。お医者様のジョージ先生です。恋人なんです」
「はっ?!」
「本物じゃないわよ?ここにいる間はそうした方がお互い都合が良かったの」
「え…え?‥」
言葉が上手く出ないキャメラル子爵にジョージが補足と言う名の追い打ちをかける。
「お義父上、これには事情があってですね、寝食を共にしていることも説明できます」
「せっ!せっ!説明なんかいるかぁぁー!!言っておくがお前の父親になった事は1度も無いッ!!」
キャメラル子爵、渾身の怒号に窓ガラスがビリビリと震えた。
単に親子だからではない。過去の経験からそう確信し、思いを告げた。
「実は…トレッドの記憶喪失は嘘なの」
「ふむ。嘘か…。随分と都合のいい嘘だな」
「疑わないの?私が信じられなくてそう言ってるんだって思わないの?」
「思わないよ。もしそうだったらアイリーはトレッドと一緒に王都に戻ったはずだ。納得が出来るまでトレッドから離れないと思うからね」
確かにそうだ。
あの企みを偶然聞いていなかったらアイリーはトレッドの記憶喪失を信じられないし受け入れられないと納得をするまで一緒に行動を共にすると王都に戻ったはずだ。
「何が目的で記憶喪失を演じているのか判らないけど…私を試そうとしているのかな。色々考えたの」
「答えは出たのかい?」
「ううん。そう言うのを考えることを止めることにしたの」
アイリーも薬を作りながらだったが、1人でいる時間があったので考えた。
もしかしたら他に好きな人が出来たんだろうか。
アイリーに言い寄ってきたのはトレッド。アイリーもトレッドの気持ちを受け入れた。
トレッドが離れると決めたのなら、言い寄ってきた時と同じで一途な思いを否定は出来ないので受け入れるだけ。あれだけ押し切ってきたのだから追いかけても振り向いては貰えないし、気持ちを受け入れて好きになったのだから幸せになって欲しいと身を引くのも厭わなかった。
もしかしたらお婆様をやはり無碍には出来ないと思ったんだろうか。
次期伯爵でもあるので仕方のない部分もある。トレッドの祖母は実の息子であるダリム伯爵にでさえ領地の名義を移していないのだ。誰かに売買をしてしまうとなればダリム伯爵家は収入を得る術を失ってしまう。
家の事を思えば仕方のない判断だとも言える。
その為に記憶喪失を演じたと思いたい面もあったが、だとして「誰かに成りすまし」なんてそこまで言う必要があるのだろうかと考えるとムカムカ。腹も立ってくる。
一番バカげていると思ったのはアイリーを困らせようとした、嫉妬させようとした、そんな考えだった。
あまりに馬鹿げているので考えることもやめた。
最終的にアイリーは導き出した答えをキャメラル子爵に笑って言った。
「トレッドの事を考える時間が勿体ないってなっちゃった」
「そうか。それでいいよ。手紙を出したらどうする?アイリーも一緒に行くかい?」
今回の件が無くてもキャメラル子爵はこの地のまだ先にある領地に届け物があった。
一旦王都に戻っていては約束をした日に行けなくなるので一緒に行くか、帰りにまた迎えに来た方がいいかと問うた。
「シュミット家への届け物?一緒に行っていいの?」
「勿論だ。ただ年寄りの話し相手をせねばならんがな?」
「お安い御用よ」
アイリーは悪戯っぽい顔で問いかける父のキャメラル子爵の腕に絡みついた。
シュミット家は爵位のない家。貴族でもなければ平民でもない。
現国王陛下の叔父にあたる人が当主。現国王陛下の治世になる前は王弟だった人だ。今は王弟も入れ替わり、先大公と呼ばれてはいるが、肩書がつくのはもうこりごりと家名だけを名乗る事を許された家。
残念な事に夫人が病弱で子供が産めなかったので子供はいないし、当然孫もいない。
高齢になって体のあちこちが痛いと注文をしてくるので作った薬をわざわざ届ける事になってしまっているけれど、実のところは年の離れたチェス仲間であるキャメラル子爵と勝負がしたいだけだ。
「じゃぁ一緒に行こうか」
「うんっ!」
(やっぱりお父様、大好き!」
トレッドの事を問い質す事もなく、アイリーの言葉を信じてくれた。
それがアイリーには嬉しかった。
「シュミット家の領地までは直通で幌馬車もあるの。それまで薬を作るの手伝って」
「いいよ。アイリーがお世話になっているからね」
父娘で早速薬を増産しようと器具を揃えている所に扉がノックされ、同時に開いた。
「アイリー。君の父上が到着されたと聞いたいんだが―――」
扉を開けたのはジョージ。
娘が世話になったと数歩歩み寄るキャメラル子爵だったが、アイリーの言葉に硬直した。
「言い忘れてた!お父様。お医者様のジョージ先生です。恋人なんです」
「はっ?!」
「本物じゃないわよ?ここにいる間はそうした方がお互い都合が良かったの」
「え…え?‥」
言葉が上手く出ないキャメラル子爵にジョージが補足と言う名の追い打ちをかける。
「お義父上、これには事情があってですね、寝食を共にしていることも説明できます」
「せっ!せっ!説明なんかいるかぁぁー!!言っておくがお前の父親になった事は1度も無いッ!!」
キャメラル子爵、渾身の怒号に窓ガラスがビリビリと震えた。
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