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VOL:05 生き方を変える気はない
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アリッサはギリリと奥歯を噛み締めた。
アリッサの中でシャロットはフィリップの婚約者の座をアリッサが譲る事で手に入れたのだから、アリッサに恩を返して当たり前。
そこに自分の父親によって子爵家に嫁ぐ事が決められて、言われるがままに嫁いでしまったことは出戻った事で嫁いだ事もなかった事と同じ。アリッサが少し目を離している間にフィリップはシャロットと婚約をしてしまっていた。
言い合いをしてもシャロットはパルプ伯爵家の令嬢で、自分は男爵家の娘。
出る所に出れば爵位を盾にして言い分が通らない。それが身分制度だと理解をしているから身を引いてやっただけ。
==私は貴女にフィルを譲ったのに!==
ぎゅっと手を握ると爪が手の平に食い込むが、テーブルに置いたままの紙切れが視界に入った。
==どうしよう。これじゃ私が嘘つきになっちゃう==
シャロットへの怒りの熱が一気に冷えて今度は玉のような汗が首筋を伝った。
出戻ってきてからの1年。アリッサは低位貴族の中でも特に貧乏な家の令嬢たちからは「アリッサお姉様」と呼ばれ、頼りにされていた。
どの家もドレスを買う余裕などあるはずもなく食べる事で精一杯。
そんな令嬢たちの諦めていた夢をアリッサは叶えてきたのだ。
綺麗なドレスを着て夜会に行きたい。
夜会でダンスを踊りたい。
髪を結いあげて着飾り、自分は本当に貴族令嬢なんだと実感したい。
彼女たちの夢は細やかなものだけれど、そのままの生き方をしていたら一生叶う事の無い夢だった。それをほんの少し手助けをしてやるだけで、アリッサは何時も彼女たちの中心を立ち位置としてきた。
「アリッサお姉様、今度の夜会に着ていくドレスがないんです」
「大丈夫よ。任せて。前回はブルーだったでしょう?貴女に良く似合う黄色のドレスを用意するわ」
「良いんですか?」
「勿論よ。今度はご両親にもドレス姿を見せたいって言ってたわよね」
「はいっ。実は母・・・私の髪を結うのが夢だったみたいで」
「だったらドレスなんかは家に届けるようにするわね」
「ありがとうございます!!今回もそのまま返却で良いんですよね?実は前回‥‥ワインを零しちゃって。あ!少しなんですよ?でも…シミになっちゃったんです」
「いいのよ。そんな事よくある事だわ。気にしなくていいの」
令嬢たちにも遠慮がある。アリッサは何でも頼って欲しいと言っているが遠慮をしてしまうのだ。しかし1年も令嬢たちに施しをしているとアリッサの行為は口コミで伝わり、王都近郊に住まう令嬢たちもアリッサを頼ってやってくるようになっていた。
これまで王都への行き帰りの路銀だけ貯めるのがやっとだったが、王都に来てアリッサを頼れば夜会や茶会に出られるのだ。
家にはパルプ伯爵家から厳しめの抗議が何度も届いたが、そんなものは両親に任せておけばいいだけ。ごちゃごちゃと説教をする父親にヒステリックに喚く母親なんて慣れっこだ。
その時だけ「はい、はい」と反省した素振りをしておけば両親は勝手に怒って勝手に留飲を下げてくれる。
余りにもしつこい時は「お父様の言う通りに変態爺の所に嫁いだのよ」と言えば黙ってくれる。
アリッサにとって強力な免罪符でもあった。
あの結婚では持参金も持たされず、子爵家からの支度金は両親が使い込んでしまっていたのだ。フィリップに捧げる筈の純潔も還暦間近のにわか夫に奪われ、その後も散々に奉仕させられた。
腹が立ったので先妻の形見を売り捌き、好きなものを買い漁っていたら夫ではなく義理の息子に買った物は全て取り上げられて追い出されてしまったのだ。
アリッサだって男爵令嬢で、家は裕福とはとても言えない生活だったがフィリップの恋人だった時間はフィリップから沢山の贈り物を貰って着飾る喜びを知った。
アリッサもドレスや宝飾品はフィリップから送られて幾つか持ってはいるが、それはアリッサのもの。他人に貸す物ではないのだ。何故ならそこにはフィリップからの愛を一身に受けていた時間の思い出があるから。
持てる者は持たざる者に施しを与えねばならない。
アリッサは品物をシャロットに用意を頼み、自身は繋ぎ役に徹してきた。
シャロットが持たざる者に施す場を用意してやっている、そんな考えだった。
==私は、ずっとみんなのために奔走してきたのにッ!==
誰からも持ち上げられる今の生き方を変える気はない。
「フィル!!」
アリッサは暢気に給仕に会計を頼んでいるフィリップの隣に腰を下ろした。
アリッサの中でシャロットはフィリップの婚約者の座をアリッサが譲る事で手に入れたのだから、アリッサに恩を返して当たり前。
そこに自分の父親によって子爵家に嫁ぐ事が決められて、言われるがままに嫁いでしまったことは出戻った事で嫁いだ事もなかった事と同じ。アリッサが少し目を離している間にフィリップはシャロットと婚約をしてしまっていた。
言い合いをしてもシャロットはパルプ伯爵家の令嬢で、自分は男爵家の娘。
出る所に出れば爵位を盾にして言い分が通らない。それが身分制度だと理解をしているから身を引いてやっただけ。
==私は貴女にフィルを譲ったのに!==
ぎゅっと手を握ると爪が手の平に食い込むが、テーブルに置いたままの紙切れが視界に入った。
==どうしよう。これじゃ私が嘘つきになっちゃう==
シャロットへの怒りの熱が一気に冷えて今度は玉のような汗が首筋を伝った。
出戻ってきてからの1年。アリッサは低位貴族の中でも特に貧乏な家の令嬢たちからは「アリッサお姉様」と呼ばれ、頼りにされていた。
どの家もドレスを買う余裕などあるはずもなく食べる事で精一杯。
そんな令嬢たちの諦めていた夢をアリッサは叶えてきたのだ。
綺麗なドレスを着て夜会に行きたい。
夜会でダンスを踊りたい。
髪を結いあげて着飾り、自分は本当に貴族令嬢なんだと実感したい。
彼女たちの夢は細やかなものだけれど、そのままの生き方をしていたら一生叶う事の無い夢だった。それをほんの少し手助けをしてやるだけで、アリッサは何時も彼女たちの中心を立ち位置としてきた。
「アリッサお姉様、今度の夜会に着ていくドレスがないんです」
「大丈夫よ。任せて。前回はブルーだったでしょう?貴女に良く似合う黄色のドレスを用意するわ」
「良いんですか?」
「勿論よ。今度はご両親にもドレス姿を見せたいって言ってたわよね」
「はいっ。実は母・・・私の髪を結うのが夢だったみたいで」
「だったらドレスなんかは家に届けるようにするわね」
「ありがとうございます!!今回もそのまま返却で良いんですよね?実は前回‥‥ワインを零しちゃって。あ!少しなんですよ?でも…シミになっちゃったんです」
「いいのよ。そんな事よくある事だわ。気にしなくていいの」
令嬢たちにも遠慮がある。アリッサは何でも頼って欲しいと言っているが遠慮をしてしまうのだ。しかし1年も令嬢たちに施しをしているとアリッサの行為は口コミで伝わり、王都近郊に住まう令嬢たちもアリッサを頼ってやってくるようになっていた。
これまで王都への行き帰りの路銀だけ貯めるのがやっとだったが、王都に来てアリッサを頼れば夜会や茶会に出られるのだ。
家にはパルプ伯爵家から厳しめの抗議が何度も届いたが、そんなものは両親に任せておけばいいだけ。ごちゃごちゃと説教をする父親にヒステリックに喚く母親なんて慣れっこだ。
その時だけ「はい、はい」と反省した素振りをしておけば両親は勝手に怒って勝手に留飲を下げてくれる。
余りにもしつこい時は「お父様の言う通りに変態爺の所に嫁いだのよ」と言えば黙ってくれる。
アリッサにとって強力な免罪符でもあった。
あの結婚では持参金も持たされず、子爵家からの支度金は両親が使い込んでしまっていたのだ。フィリップに捧げる筈の純潔も還暦間近のにわか夫に奪われ、その後も散々に奉仕させられた。
腹が立ったので先妻の形見を売り捌き、好きなものを買い漁っていたら夫ではなく義理の息子に買った物は全て取り上げられて追い出されてしまったのだ。
アリッサだって男爵令嬢で、家は裕福とはとても言えない生活だったがフィリップの恋人だった時間はフィリップから沢山の贈り物を貰って着飾る喜びを知った。
アリッサもドレスや宝飾品はフィリップから送られて幾つか持ってはいるが、それはアリッサのもの。他人に貸す物ではないのだ。何故ならそこにはフィリップからの愛を一身に受けていた時間の思い出があるから。
持てる者は持たざる者に施しを与えねばならない。
アリッサは品物をシャロットに用意を頼み、自身は繋ぎ役に徹してきた。
シャロットが持たざる者に施す場を用意してやっている、そんな考えだった。
==私は、ずっとみんなのために奔走してきたのにッ!==
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アリッサは暢気に給仕に会計を頼んでいるフィリップの隣に腰を下ろした。
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