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VOL:07 ゲスいフィリップ
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カフェから帰った日の夜。
フィリップは父親に思いっきり殴られた。
兄と同じく若い頃には騎士をしていた父親の拳は強烈で歯が折れたし、頬の腫れが引くまで1週間もかかった。その後は青い痣が出来てしまった。
「パルプ伯爵はカンカンだ!何度も何度も!お前に何度忠告をしたッ!アリッサとは付き合うなと言ったはずだ!」
「友達だし。そこまで親が干渉して決める事でもないでしょうに」
フィリップの気持ちの中にもうアリッサを慕う思いはない。
多くいる友人の1人であり、今後もそこからはみ出る事も、特別な位置になる事もない。
何故ならフィリップも完全な花畑の住人ではないからである。
アリッサに傾倒している時はアリッサしか見えなかったし、アリッサの事だけを愛していた。
家は兄が継ぐし、いずれは出ねばならない。
文官にでもなって稼がねばアリッサ自身は若い時しか通用しない武器しか持っていない。どこかの家に侍女やメイドで行こうにも変にプライドが高かったので誰かに仕える事なんて出来る筈もない。
結婚をしたとして、妻が働く場所もないのだから誰が稼がねばならないかと言えば夫だ。
付き合う期間が長くなればなるほどにフィリップは現実逃避もかねてアリッサにより溺れた。
一緒に居て、バカをしている時、大笑いしている時、どこかに出掛けている時は現実を直視しないで済んだから。
しかし、本当の現実はいきなり訪れた。
アリッサはかなり年上の男に嫁いで行ったのだ。
『ごめんね?でも世の中ってこんなものよ』
『じゃ、じゃぁ君が未亡人になるまで待ってるから!』
アリッサの嫁ぐ子爵家はかなり裕福な家。前代当主の後妻になるとはいえ高齢の夫なのだから、言葉は悪いけれど未亡人となるのに20年もかからない。下手をすれば10年もかからない。
それくらいの間なら少々年齢は高くなっても未婚の弟が執務の手伝いをする事で兄は何とか屋敷に置いてくれる。他家で執事をするほどの給料は貰えなくても家を出るよりも出費は少なく済むのだから金も貯められる。
アリッサの引き継ぐ夫の遺産と合わせれば楽な生活が出来るはず。
そう考えたフィリップだったが、アリッサは鼻で笑ったのだ。
『何言ってるの?未亡人になる頃まで待ってくれる?冗談じゃないわ。そうなる頃には私も30を超えてるだろうし、下手をすれば40を超えてるわ。それってフィルも同じよね?だぁったらぁ?同じくらいお金使うなら若い男のほうがよくない?フィルだってそう考える筈よ?』
アリッサの言葉は尤もだ。
フィリップも逆の立場だったら、薹が立った昔の女より若くて美しい女に金を使いたいと思うだろう。
この時にフィリップの中からアリッサへの思いは消えた。
フィリップがシャロットと婚約を結ぶまで半年ほど引き籠もりで自堕落な生活をしたのは、楽な未来を考えての提案を一蹴された事もあるが、その程度の愛だったのかとフィリップ自身とアリッサの気持ちの温度差に落胆をしたからである。
そんな事を言われて友達付き合いを続けるのは、言葉にするなら「ざまぁを楽しむ」だろうか。
シャロットと婚約をして1年間で、フィリップはアリッサとシャロットの差を思い知った。
つくづくアリッサへの思慕が切れて良かったと安堵したものだ。
そこにアリッサが離縁をされて戻ってきた。
アリッサには未来がない。
子爵家から戻されてきたことで次の縁談などまともな男や家が申し込んでくるはずがないのだ。
昔は女性の最後の駆け込み場として修道院があったが、犯罪を犯し極刑を免れるために修道院に入ったり、散財や男遊び、賭博、酒が辞められず家族が困って適当な理由を付けて押し込んだりした事で、今は修道院も人を選ぶようになった。
勿論法外な寄付金を10年以上続けるのなら一考の余地はあるだろうがアリッサの家、ヘロド男爵家にはそんな余裕はないし、そもそもで修道院から断られる。
アリッサは知らないがこの離縁、アリッサの有責で離縁とされてはいるが子爵家も暴露されては困る事をアリッサに行っているので嫁ぐ前の支度金を戻すどころか離縁の際にヘロド男爵夫妻は二度と子爵家と関りを持たせないようにと縁切り料まで貰っているのだ。
その縁切り料を渡すための文書を取り交わしたのが教会だ。
修道院は神に生涯を誓うので娼婦だった女性もいるにはいるが、アリッサのように好き勝手して落ちる所まで落ちた自業自得な人間まで引き受けてくれる場所では無くなった。
シャロットは聡明な女性だ。
だから未だに過去の関係を持ちだすアリッサを見て「何と愚かな女」と友人枠から出る事も無いのに足掻くアリッサとシャロットへの扱いで差を感じ、優越感に浸ってくれるものだと考えていた。
「なのに嫉妬だなんて。これだから女は面倒なんだ」
フィリップは痛む頬を撫でて独り言ちる。
アリッサと2人きりで会った事は無かったし、カフェの約束も数日前カフェから予約の順番が回ってきたと連絡があった事を友人たちの間で話をした時にアリッサも偶々一緒にいたので「私も行きたい!」とせがんでくるので一緒に行くのは色々と不味いだろうと先にアリッサを向かわせて後から合流したのだ。
幸いにもカフェの席は4人用。
2人であろうと3人であろうと4人までならカフェは問題なく受け入れてくれるんだし、1人多く注文する事になってカフェも売り上げが上がる。良い事しかないのでアリッサも同席を許しただけ。
なのに殴られるなんて。
フィリップは父親に思いっきり殴られた。
兄と同じく若い頃には騎士をしていた父親の拳は強烈で歯が折れたし、頬の腫れが引くまで1週間もかかった。その後は青い痣が出来てしまった。
「パルプ伯爵はカンカンだ!何度も何度も!お前に何度忠告をしたッ!アリッサとは付き合うなと言ったはずだ!」
「友達だし。そこまで親が干渉して決める事でもないでしょうに」
フィリップの気持ちの中にもうアリッサを慕う思いはない。
多くいる友人の1人であり、今後もそこからはみ出る事も、特別な位置になる事もない。
何故ならフィリップも完全な花畑の住人ではないからである。
アリッサに傾倒している時はアリッサしか見えなかったし、アリッサの事だけを愛していた。
家は兄が継ぐし、いずれは出ねばならない。
文官にでもなって稼がねばアリッサ自身は若い時しか通用しない武器しか持っていない。どこかの家に侍女やメイドで行こうにも変にプライドが高かったので誰かに仕える事なんて出来る筈もない。
結婚をしたとして、妻が働く場所もないのだから誰が稼がねばならないかと言えば夫だ。
付き合う期間が長くなればなるほどにフィリップは現実逃避もかねてアリッサにより溺れた。
一緒に居て、バカをしている時、大笑いしている時、どこかに出掛けている時は現実を直視しないで済んだから。
しかし、本当の現実はいきなり訪れた。
アリッサはかなり年上の男に嫁いで行ったのだ。
『ごめんね?でも世の中ってこんなものよ』
『じゃ、じゃぁ君が未亡人になるまで待ってるから!』
アリッサの嫁ぐ子爵家はかなり裕福な家。前代当主の後妻になるとはいえ高齢の夫なのだから、言葉は悪いけれど未亡人となるのに20年もかからない。下手をすれば10年もかからない。
それくらいの間なら少々年齢は高くなっても未婚の弟が執務の手伝いをする事で兄は何とか屋敷に置いてくれる。他家で執事をするほどの給料は貰えなくても家を出るよりも出費は少なく済むのだから金も貯められる。
アリッサの引き継ぐ夫の遺産と合わせれば楽な生活が出来るはず。
そう考えたフィリップだったが、アリッサは鼻で笑ったのだ。
『何言ってるの?未亡人になる頃まで待ってくれる?冗談じゃないわ。そうなる頃には私も30を超えてるだろうし、下手をすれば40を超えてるわ。それってフィルも同じよね?だぁったらぁ?同じくらいお金使うなら若い男のほうがよくない?フィルだってそう考える筈よ?』
アリッサの言葉は尤もだ。
フィリップも逆の立場だったら、薹が立った昔の女より若くて美しい女に金を使いたいと思うだろう。
この時にフィリップの中からアリッサへの思いは消えた。
フィリップがシャロットと婚約を結ぶまで半年ほど引き籠もりで自堕落な生活をしたのは、楽な未来を考えての提案を一蹴された事もあるが、その程度の愛だったのかとフィリップ自身とアリッサの気持ちの温度差に落胆をしたからである。
そんな事を言われて友達付き合いを続けるのは、言葉にするなら「ざまぁを楽しむ」だろうか。
シャロットと婚約をして1年間で、フィリップはアリッサとシャロットの差を思い知った。
つくづくアリッサへの思慕が切れて良かったと安堵したものだ。
そこにアリッサが離縁をされて戻ってきた。
アリッサには未来がない。
子爵家から戻されてきたことで次の縁談などまともな男や家が申し込んでくるはずがないのだ。
昔は女性の最後の駆け込み場として修道院があったが、犯罪を犯し極刑を免れるために修道院に入ったり、散財や男遊び、賭博、酒が辞められず家族が困って適当な理由を付けて押し込んだりした事で、今は修道院も人を選ぶようになった。
勿論法外な寄付金を10年以上続けるのなら一考の余地はあるだろうがアリッサの家、ヘロド男爵家にはそんな余裕はないし、そもそもで修道院から断られる。
アリッサは知らないがこの離縁、アリッサの有責で離縁とされてはいるが子爵家も暴露されては困る事をアリッサに行っているので嫁ぐ前の支度金を戻すどころか離縁の際にヘロド男爵夫妻は二度と子爵家と関りを持たせないようにと縁切り料まで貰っているのだ。
その縁切り料を渡すための文書を取り交わしたのが教会だ。
修道院は神に生涯を誓うので娼婦だった女性もいるにはいるが、アリッサのように好き勝手して落ちる所まで落ちた自業自得な人間まで引き受けてくれる場所では無くなった。
シャロットは聡明な女性だ。
だから未だに過去の関係を持ちだすアリッサを見て「何と愚かな女」と友人枠から出る事も無いのに足掻くアリッサとシャロットへの扱いで差を感じ、優越感に浸ってくれるものだと考えていた。
「なのに嫉妬だなんて。これだから女は面倒なんだ」
フィリップは痛む頬を撫でて独り言ちる。
アリッサと2人きりで会った事は無かったし、カフェの約束も数日前カフェから予約の順番が回ってきたと連絡があった事を友人たちの間で話をした時にアリッサも偶々一緒にいたので「私も行きたい!」とせがんでくるので一緒に行くのは色々と不味いだろうと先にアリッサを向かわせて後から合流したのだ。
幸いにもカフェの席は4人用。
2人であろうと3人であろうと4人までならカフェは問題なく受け入れてくれるんだし、1人多く注文する事になってカフェも売り上げが上がる。良い事しかないのでアリッサも同席を許しただけ。
なのに殴られるなんて。
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