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VOL:11 執行猶予
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「お嬢様、如何致しますか?」
「行かないわ」
「畏まりました」
フィリップから届いた先触れは観劇に行かないかと誘いだったがシャロットは即答で断った。
家同士ではもう婚約は解消の手続きがなされている。
結婚も婚約も結ぶときは両家がポジティブに考えているので問題点があっても両家で解決をして行こうと考えるのでトントン拍子に進むものだが、離縁であったり婚約の解消や白紙というネガティブな事になるとスピードが鈍る。
モース伯爵家からは婚約期間は2年間で最初の1年には何の問題も無かった事から、直近1年でパルプ伯爵家が被った実際の被害額を弁済する事で婚約は白紙として手を打ってくれないかと虫の良い話が持ち込まれた。
馬鹿にしていると婚約は破棄と意気込むパルプ伯爵に待ったをかけたのがシャロットの兄だった。
白紙は一番あり得ない選択肢だったのは全員の共通認識となったが、兄が「解消にしよう」と言ったのには手続きの署名を求めた時にモース伯爵が感じたことと同じ。
犯罪を犯したものが裁かれるときに執行猶予が付けられることがある。
破棄から解消に譲歩する事で婚約関係は消えても、破棄に切り替わるとあれば自重する、いやフィリップには単に排籍するだけではモース家として責任を逃れる事は出来ないと敢えて枷を嵌めたのである。
その為、教会と貴族院に書類を提出しただけでは即時で婚約は無くならない。
枷を付けたことで1,2か月は認められることが前提の審議が行われるのである。
シャロットはそれでいいと答えた。
もう面倒事に関わらなくていいのなら、目先の1、2か月にごちゃごちゃと文句を言うのも面倒だしすんなりと婚約が無くなった時にまだ尾を引きそうなアリッサの尻拭いが続く可能性の方が高いと判断をしたためである。
なんせアリッサはシャロットありきでいい顔をしたいがためにあれもこれも貸すよ!と令嬢たちに声を掛けていた。全ての人間がフィリップとの婚約が無くなった事を知る訳でもないし、以前と同じだとパルプ伯爵家が何かしてくれると思い込んでも困る。
元凶がアリッサでもアリッサの言いなりになっていたフィリップや、フィリップを諫める事が出来なかったモース家に婚約が無くなる事で被害を受けても知らんぷりをさせないための措置だった。
「当人よりも周囲が悩むなんて。ほんとバカバカしいわ」
「貴族の婚約なんてそんなものです。家にとってどうなのか、で御座いますからね」
「はぁー。もう恋愛なんかこりごり」
「あら?お嬢様はあんな男でもお慕いを?」
「うーん。どうかなぁ」
シャロットは、いつも一緒に居たいとか、胸がドキドキするなんて感情をフィリップに持ったことはない。
多くの貴族がそうであるのと同じで、事業など家同士の柵の中で婚約が結ばれるので婚約後や結婚後から恋愛感情を持つ夫婦が時折いるが、言ってみればその程度だった。
婚約をしてからの1年間、フィリップに点数をつけるとすれば80点。かなりの高得点だが100点に足らない20点は更にお互いを知らないと解らない部分があるのでほぼ満点と言っていい。
贈り物もエスコートも、茶会で交わす会話も非の打ちどころがなかっただけだ。
貴族なので「すべきことをしているか」が基準になるので満たしていれば問題なかったのである。
フィリップの友人もその頃にはアリッサはまだ出戻っていなかったので、時折昔話で盛り上がり疎外感を感じることはあったけれど、必ず「これは●歳の時で」と誰かからフォローが入ったし、フィリップが直ぐに「そう言えばその頃ってこんなことが流行ってた」とシャロットも加われる会話に切り替わって、そこからこれからの事業に役に立つことはないかと討論になったりで有意義な時間だったのだ。
気を使われていたし、シャロットもフィリップや周囲の友人の事はリスペクトする部分もあった。
だから好きとか、愛とかの感情ではないけれど信頼感などがこの先に恋になり、愛になるかも知れないと感じたことはあった。その程度だった。
そんあな小さな芽がブチブチと無造作に摘み取られたのが直近の1年。
フィリップの友人たちも以前からの面子もいるのだけれど入れ替わりがあった。
「ごめんな。俺、アリッサはちょっと」
「私も。何がって訳じゃないけどアリッサとは距離を置きたいの」
フィリップの友人は数人が入れ替わった。
シャロットもフィリップもお互いの友人を、特に名指しで「付き合いをしないで欲しい」とは言える立場にない。言えるとすれば結婚をして生業とする事業のためにならないなら切り捨てる話し合いをするだけ。
「でも、あのヘロド家のご令嬢。図々しいにも程がありますよ。全く」
「ごめんね。ミレリーには面倒ばかりだったわね」
「仕方ありませんよ。ここに連れて来られたら放り出す事も出来ませんしね」
「全くだわ」
アリッサのやり方は人の善意に付け込む方法だった。
見て見ぬふりをするのは簡単だが、立場があれば無視する事は出来ないし、突発的な事が家の中で起こったら?その延長戦にギリギリ引っかかるかどうかの話をアリッサはシャロットに押し付けて消えていく。
ここで断ったり、令嬢たちを放り出したらパルプ伯爵家の名に傷がつく。そんな状況を作り出すのだ。
残されるのは「今日」「数時間後」にドレスを着て夜会に行かねばならない令嬢たち。
貸衣裳屋に案内をするにも金がないと言われ、そこに移動していては支度が間に合わない。緊急を要する状態で置いて行かれたら。それが毎回続いたら。
シャロットだけでなくパルプ伯爵家としても限界だった。
解消に向けて動き出した今、シャロットはフィリップにはもう関わりたくなかった。
「今度、先触れが来ても伝えなくていいわ。どうしても判断が必要な時はお父様に回して」
「畏まりました」
これでスッキリとする。
シャロットはそう思ったのだが、1つ見誤っていることがあった。
アリッサは世の常識が通用する女ではないと言う事に。
「行かないわ」
「畏まりました」
フィリップから届いた先触れは観劇に行かないかと誘いだったがシャロットは即答で断った。
家同士ではもう婚約は解消の手続きがなされている。
結婚も婚約も結ぶときは両家がポジティブに考えているので問題点があっても両家で解決をして行こうと考えるのでトントン拍子に進むものだが、離縁であったり婚約の解消や白紙というネガティブな事になるとスピードが鈍る。
モース伯爵家からは婚約期間は2年間で最初の1年には何の問題も無かった事から、直近1年でパルプ伯爵家が被った実際の被害額を弁済する事で婚約は白紙として手を打ってくれないかと虫の良い話が持ち込まれた。
馬鹿にしていると婚約は破棄と意気込むパルプ伯爵に待ったをかけたのがシャロットの兄だった。
白紙は一番あり得ない選択肢だったのは全員の共通認識となったが、兄が「解消にしよう」と言ったのには手続きの署名を求めた時にモース伯爵が感じたことと同じ。
犯罪を犯したものが裁かれるときに執行猶予が付けられることがある。
破棄から解消に譲歩する事で婚約関係は消えても、破棄に切り替わるとあれば自重する、いやフィリップには単に排籍するだけではモース家として責任を逃れる事は出来ないと敢えて枷を嵌めたのである。
その為、教会と貴族院に書類を提出しただけでは即時で婚約は無くならない。
枷を付けたことで1,2か月は認められることが前提の審議が行われるのである。
シャロットはそれでいいと答えた。
もう面倒事に関わらなくていいのなら、目先の1、2か月にごちゃごちゃと文句を言うのも面倒だしすんなりと婚約が無くなった時にまだ尾を引きそうなアリッサの尻拭いが続く可能性の方が高いと判断をしたためである。
なんせアリッサはシャロットありきでいい顔をしたいがためにあれもこれも貸すよ!と令嬢たちに声を掛けていた。全ての人間がフィリップとの婚約が無くなった事を知る訳でもないし、以前と同じだとパルプ伯爵家が何かしてくれると思い込んでも困る。
元凶がアリッサでもアリッサの言いなりになっていたフィリップや、フィリップを諫める事が出来なかったモース家に婚約が無くなる事で被害を受けても知らんぷりをさせないための措置だった。
「当人よりも周囲が悩むなんて。ほんとバカバカしいわ」
「貴族の婚約なんてそんなものです。家にとってどうなのか、で御座いますからね」
「はぁー。もう恋愛なんかこりごり」
「あら?お嬢様はあんな男でもお慕いを?」
「うーん。どうかなぁ」
シャロットは、いつも一緒に居たいとか、胸がドキドキするなんて感情をフィリップに持ったことはない。
多くの貴族がそうであるのと同じで、事業など家同士の柵の中で婚約が結ばれるので婚約後や結婚後から恋愛感情を持つ夫婦が時折いるが、言ってみればその程度だった。
婚約をしてからの1年間、フィリップに点数をつけるとすれば80点。かなりの高得点だが100点に足らない20点は更にお互いを知らないと解らない部分があるのでほぼ満点と言っていい。
贈り物もエスコートも、茶会で交わす会話も非の打ちどころがなかっただけだ。
貴族なので「すべきことをしているか」が基準になるので満たしていれば問題なかったのである。
フィリップの友人もその頃にはアリッサはまだ出戻っていなかったので、時折昔話で盛り上がり疎外感を感じることはあったけれど、必ず「これは●歳の時で」と誰かからフォローが入ったし、フィリップが直ぐに「そう言えばその頃ってこんなことが流行ってた」とシャロットも加われる会話に切り替わって、そこからこれからの事業に役に立つことはないかと討論になったりで有意義な時間だったのだ。
気を使われていたし、シャロットもフィリップや周囲の友人の事はリスペクトする部分もあった。
だから好きとか、愛とかの感情ではないけれど信頼感などがこの先に恋になり、愛になるかも知れないと感じたことはあった。その程度だった。
そんあな小さな芽がブチブチと無造作に摘み取られたのが直近の1年。
フィリップの友人たちも以前からの面子もいるのだけれど入れ替わりがあった。
「ごめんな。俺、アリッサはちょっと」
「私も。何がって訳じゃないけどアリッサとは距離を置きたいの」
フィリップの友人は数人が入れ替わった。
シャロットもフィリップもお互いの友人を、特に名指しで「付き合いをしないで欲しい」とは言える立場にない。言えるとすれば結婚をして生業とする事業のためにならないなら切り捨てる話し合いをするだけ。
「でも、あのヘロド家のご令嬢。図々しいにも程がありますよ。全く」
「ごめんね。ミレリーには面倒ばかりだったわね」
「仕方ありませんよ。ここに連れて来られたら放り出す事も出来ませんしね」
「全くだわ」
アリッサのやり方は人の善意に付け込む方法だった。
見て見ぬふりをするのは簡単だが、立場があれば無視する事は出来ないし、突発的な事が家の中で起こったら?その延長戦にギリギリ引っかかるかどうかの話をアリッサはシャロットに押し付けて消えていく。
ここで断ったり、令嬢たちを放り出したらパルプ伯爵家の名に傷がつく。そんな状況を作り出すのだ。
残されるのは「今日」「数時間後」にドレスを着て夜会に行かねばならない令嬢たち。
貸衣裳屋に案内をするにも金がないと言われ、そこに移動していては支度が間に合わない。緊急を要する状態で置いて行かれたら。それが毎回続いたら。
シャロットだけでなくパルプ伯爵家としても限界だった。
解消に向けて動き出した今、シャロットはフィリップにはもう関わりたくなかった。
「今度、先触れが来ても伝えなくていいわ。どうしても判断が必要な時はお父様に回して」
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シャロットはそう思ったのだが、1つ見誤っていることがあった。
アリッサは世の常識が通用する女ではないと言う事に。
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