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VOL:35 笑いが止まらない
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その場でシャロットの首根っこを掴んでやろうと思ったがフィリップは大きく息を吐き出し自分を抑えた。
買い出しもせず屋敷に戻るとモース伯爵と兄が今後の計画を練っている場に割入り、声を荒げた。
「父上っ!どうなってるんです!」
「どうしたんだ。騒々しい」
「シャロットを見ました。あの女こそ不貞をしているじゃないですか!逆に訴えて婚約破棄の有責は向こうなんだと知らしめるべきですッ!」
憤るフィリップだったが、対照的にモース伯爵と兄の対応は冷静だった。
「それがどうかしたのか」
「有責が逆?お前、頭は大丈夫なのか?」
「なんでそんなに落ち着いているんですか!おかしいでしょう!なんでこちらだけが色々と面倒を抱え込まなきゃいけないんですか」
「お前の素行が悪かった。それに尽きるだろうが」
「だから!不貞してるんです!シャロットが!」
バンっ!!フィリップの兄が書類を1枚テーブルに大きな音をさせて叩きつけた。
何だろうかとフィリップが目を通せば兄の婚約が白紙になった両家の確約書だった。
「な、なんなんです?兄上の事も僕に責任があるとでも?」
「大ありだろう。むしろよくあるのがおかしいとも取れる言葉を吐けるな?」
「うっ。そんな言い方しなくたっていいだろ」
怯んだフィリップに兄が「馬鹿か?」と吐き捨てた。
「破棄の有責はこちら側だ。しかしパルプ伯爵家がノーダメージとでも考えているのなら、頭の中に咲いた花に根枯らし剤でも散布しとけ」
「どういう意味だよ!」
「破棄はな。有責となれば見て判る通りダメージは半端ない。だが、相手も表立ってのダメージはないようで実害は出るんだ。余程の事がない限りパルプ伯爵令嬢に縁談はない。手綱の握れない女だと烙印を押されたようなものだからだ。早々に結婚できるとなれば相手は平民だ。平民には籍という概念すらないからな」
「平民…平民…アハッ!そうか。平民!!何だ、平民かぁ!」
急にフィリップは先ほどまでの感情がどこかに霧散したのか、楽し気に笑い始めた。
「なんだ急に」
「アーッハッハ。いやぁ…ウケる。ウケるぅ!!アーッハッハ」
婚約破棄でモース家は大きなダメージを負ったけれど、フィリップは手が足りない事情もあるが伯爵家の子息としてまだここにいる。
しかし、シャロットはもう貴族令嬢としてはやっていけないので相手が平民、嫁ぐとなれば籍は残っても相手が同じく伯爵家に籍を残す予定だったフィリップではなく今度は本物の平民となるのだからフィリップはおかしくて堪らなかった。
選民思想も相まって、立場としては有責でないのに転がり落ちたシャロットが平民として生きていく事が愉快で堪らない。
ここに来て生き方が大逆転した気分。
シャロットが自分自身で盛大なざまぁをつかみ取ったと思うと笑いが止まらない。
――今度見かけたら、思いっきり目の前で笑い飛ばしてやろう――
――貴族と平民の差を思い知らしてやる――
「邪魔をして悪かった。あ~気分が良い」
フィリップは腹を抱え、目には涙まで浮かべて大笑いしながらモース伯爵と兄のいる部屋を後にした。
まだいるかと思いつつ、もう一度広場に行くと屋台の店主は店じまいを始めていて、見渡してもシャロットの姿はなかった。
「チッ。折角憂さ晴らししてやろうと思ったのに。逃げやがったな」
楽しみを奪われた気分になったがフィリップはそれでも気分は上々のまま買い物をするため衣料品店に向かった。
「何かお探しで御座いますか?」
「五月蝿いな。用があれば呼ぶ。放っておいてくれ」
店員に声を掛けられたが、フィリップには平民が店員をしている店に出向いて買い物をせねばならないなんて屈辱でしかない。
100歩譲って予約制の店の店員なら我慢が出来るが、色んな客の相手をするたかが店員などフィリップには人間扱いしてやるのも烏滸がましいと思えてならなかった。
店員を追い払うと店先にあるワゴンに目が行った。
「え?3枚でこの値段?なんか、今日の僕ってツイてる?」
「あ、そちらは――」
「呼んでないだろう!」
「も、申し訳ございません」
店の軒先から奥にある下着は手持ちで2枚買うのが限界なのに店先のワゴンの品なら6セットで18枚も買える。
――シャロットが平民ってウケるが、楽しい事とかイイ事って続くんだな――
フィリップはワゴンの下着を6セット買い「これで当面下着には困らない」と鼻歌まで歌いながら帰って行った。
「あのお客さん、大丈夫ですかね」
「良いんじゃないか?喜んでただろう」
「でも、新生児用のおむつカバーですよ?18枚も要ります?すぐサイズアウトするのに」
「雨の日も安心。ってことじゃね?」
帰宅後フィリップが「やっぱり新品に限るな」とそれまでの下着を全て捨てて購入したまま袋から取り出しもせずトランクに詰めたが、衣料品が手に入りにくい領地で気が付いても誰の責任でもない。
買い出しもせず屋敷に戻るとモース伯爵と兄が今後の計画を練っている場に割入り、声を荒げた。
「父上っ!どうなってるんです!」
「どうしたんだ。騒々しい」
「シャロットを見ました。あの女こそ不貞をしているじゃないですか!逆に訴えて婚約破棄の有責は向こうなんだと知らしめるべきですッ!」
憤るフィリップだったが、対照的にモース伯爵と兄の対応は冷静だった。
「それがどうかしたのか」
「有責が逆?お前、頭は大丈夫なのか?」
「なんでそんなに落ち着いているんですか!おかしいでしょう!なんでこちらだけが色々と面倒を抱え込まなきゃいけないんですか」
「お前の素行が悪かった。それに尽きるだろうが」
「だから!不貞してるんです!シャロットが!」
バンっ!!フィリップの兄が書類を1枚テーブルに大きな音をさせて叩きつけた。
何だろうかとフィリップが目を通せば兄の婚約が白紙になった両家の確約書だった。
「な、なんなんです?兄上の事も僕に責任があるとでも?」
「大ありだろう。むしろよくあるのがおかしいとも取れる言葉を吐けるな?」
「うっ。そんな言い方しなくたっていいだろ」
怯んだフィリップに兄が「馬鹿か?」と吐き捨てた。
「破棄の有責はこちら側だ。しかしパルプ伯爵家がノーダメージとでも考えているのなら、頭の中に咲いた花に根枯らし剤でも散布しとけ」
「どういう意味だよ!」
「破棄はな。有責となれば見て判る通りダメージは半端ない。だが、相手も表立ってのダメージはないようで実害は出るんだ。余程の事がない限りパルプ伯爵令嬢に縁談はない。手綱の握れない女だと烙印を押されたようなものだからだ。早々に結婚できるとなれば相手は平民だ。平民には籍という概念すらないからな」
「平民…平民…アハッ!そうか。平民!!何だ、平民かぁ!」
急にフィリップは先ほどまでの感情がどこかに霧散したのか、楽し気に笑い始めた。
「なんだ急に」
「アーッハッハ。いやぁ…ウケる。ウケるぅ!!アーッハッハ」
婚約破棄でモース家は大きなダメージを負ったけれど、フィリップは手が足りない事情もあるが伯爵家の子息としてまだここにいる。
しかし、シャロットはもう貴族令嬢としてはやっていけないので相手が平民、嫁ぐとなれば籍は残っても相手が同じく伯爵家に籍を残す予定だったフィリップではなく今度は本物の平民となるのだからフィリップはおかしくて堪らなかった。
選民思想も相まって、立場としては有責でないのに転がり落ちたシャロットが平民として生きていく事が愉快で堪らない。
ここに来て生き方が大逆転した気分。
シャロットが自分自身で盛大なざまぁをつかみ取ったと思うと笑いが止まらない。
――今度見かけたら、思いっきり目の前で笑い飛ばしてやろう――
――貴族と平民の差を思い知らしてやる――
「邪魔をして悪かった。あ~気分が良い」
フィリップは腹を抱え、目には涙まで浮かべて大笑いしながらモース伯爵と兄のいる部屋を後にした。
まだいるかと思いつつ、もう一度広場に行くと屋台の店主は店じまいを始めていて、見渡してもシャロットの姿はなかった。
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「何かお探しで御座いますか?」
「五月蝿いな。用があれば呼ぶ。放っておいてくれ」
店員に声を掛けられたが、フィリップには平民が店員をしている店に出向いて買い物をせねばならないなんて屈辱でしかない。
100歩譲って予約制の店の店員なら我慢が出来るが、色んな客の相手をするたかが店員などフィリップには人間扱いしてやるのも烏滸がましいと思えてならなかった。
店員を追い払うと店先にあるワゴンに目が行った。
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「あ、そちらは――」
「呼んでないだろう!」
「も、申し訳ございません」
店の軒先から奥にある下着は手持ちで2枚買うのが限界なのに店先のワゴンの品なら6セットで18枚も買える。
――シャロットが平民ってウケるが、楽しい事とかイイ事って続くんだな――
フィリップはワゴンの下着を6セット買い「これで当面下着には困らない」と鼻歌まで歌いながら帰って行った。
「あのお客さん、大丈夫ですかね」
「良いんじゃないか?喜んでただろう」
「でも、新生児用のおむつカバーですよ?18枚も要ります?すぐサイズアウトするのに」
「雨の日も安心。ってことじゃね?」
帰宅後フィリップが「やっぱり新品に限るな」とそれまでの下着を全て捨てて購入したまま袋から取り出しもせずトランクに詰めたが、衣料品が手に入りにくい領地で気が付いても誰の責任でもない。
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