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VOL:36 1号、2号、0号
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――ダメかな。無謀過ぎた?――
神妙な顔をして俯くシャロットの手をバークレイはそっと握った。
目の前にはパルプ伯爵とシャロットの兄。そして母。
「どうしてシェアとケータリングを思いついたんだ?」
「家としても繁忙期以外は荷馬車を貸しているし、1人では無理だけど複数人でなら資金的にも協力して出し合えるかなと」
「保証はどうするんだ?」
「修理なんかはこちらで――」
「そうではなくて、借りている側の利用料が滞ったらの場合だ」
「そ、それは」
シャロットは返答に行き詰ってしまった。善は急げと性急に父のパルプ伯爵に相談をしてしまった。利用する料金は人数割りになるので1人なら安く済むから問題ないとしか考えていなかったが、料金の金額によらず払えなくなれば払っては貰えないし、何より…安いんだから1、2か月払わなくてもいいだろうと考える人間だっているのだ。
1万を借りるのと1千万を借りるのとでは覚悟も違うだろうが、払えなくなった時に1万で夜逃げを考える者は少ないけれど1千万になれば夜逃げを考えない者の方が少ない。
バークレイの手の力がクッと入り、シャロットは隣に座るバークレイの横顔を見た。
色々と検討して精査せずに先走ってしまった挙句に巻き込んだ申し訳なさでいっぱいだ。
「金額によって扱いを変えたいと考えています」
――ふぇっ?――
シャロットはバークレイがパルプ伯爵にハッキリと返事を返した事に目を丸くした。バークレイにも思い付きのままにこんな事をしたらどうかとシェア業とケータリング業の事は話したけれど、細かく2人で意見を交わしてもいないのだ。
「ほぅ。金額によって?どう変えると言うんだ」
「ケータリングの方は当面相手を貴族に限定します。貴族の場合はメンツもありますから踏み倒す事はしないでしょう。しかし、かといって満額支払いになるかは別の問題と認識しています」
「どういう風に?」
「料理だけでなく場の設営に撤収、その他慣れて来れば給仕なども全て込みで考えていますが、貴族によってやり方がありますので気に入らないという感情的なものから、タブー視している事項まであります。周知徹底が不足し客側に不快な思いをさせてしまった場合の満額支払いは望めません」
「そうだろうな」
「なので、事前の取り決めをして手付で半金、残りは清算の形になりますが、選択式で客と入念な打ち合わせをするようにします。ですが給仕も含んでとなればすぐの対応は出来ませんのでケータリングについては各方面から意見も頂き、この先に展開する予定の事業と考えています」
――レイ様、考えてくれてたんだ。ありがとぉぉ――
確かにケータリングが出来るとなれば民衆の年間所得などから考えて当面の客は貴族だけとなる。
1つの間違いで上げ足を取る生き物でもあるので、失敗は許されない。今、見切り発車をするのは時期尚早だ。
――そこまで考えてなかったわ。反省しなきゃ――
シュンとなるシャロットだったが、バークレイは握ったままの手から「大丈夫」と言ってくれている気がした。
「シェア業の方は大前提として金額、期間に問わず金融商会に照会をかけます。成人したばかりだったり現金支払いオンリーだった場合は信用情報の利用履歴はありませんので、支払いの総額が10万以下なら博打になりますが貸します。10万を超える場合は保証人を立てて貰うんです」
「その保証人が保証人に足りるとどう判断する?」
「利用者と同じです。保証人の場合は確実に支払いが出来る事が条件になりますので信用情報に汚れていない履歴が5年以上ある事が条件になります」
「では支払いが滞った時はどうする」
「支払いは月に1回。契約時の金額で初回のみ端数を上乗せです。支払いが滞った時は1カ月目は警告、2回目で品を回収し保証人に弁済してもらうか、2か月分を一括で返済です」
「返済をしてもらってまた滞ったらどうするんだ」
「手形の1号不渡り2回目と一緒です。2回目は保証人に弁済をしてもらい、品も撤収です。額に問わず金融商会に照会をかけますので以後は履歴が残るとなれば利用者も覚悟を持って利用すると‥性善説にはなりますが」
「ふむ。詐欺などの2号不渡りや形式不備の0号不渡りでなく、資金不足の1号というわけか。いいだろう。重複に注意を怠らずにやってみるといい」
「いいんですか!?」
バークレイも緊張をしているのだろう。握った手は少し震えていたし手汗も感じた。
それでもバークレイはずっとシャロットの手を握って「大丈夫」と手の温もりを介して伝えてくれた。
「失敗をしても勉強だ。やってみると良い。私のヘソクリから少し融資をさせてもらうよ」
「宜しいんですか?!」
「あぁ。言っただろう?なんでもやってみないと成功するか失敗するかは解らない。机上の空論で終わらせてしまうよりも、失敗したとてそこから学ぶものがあれば大失敗にもならんだろう。だが、最初から大きく手を広げるな。いいな?」
「はいっ。良かったな。シャ‥‥」
――ん?さっき、名前を呼ぼうとして止めた??――
じぃぃっとバークレイの目を見るとフイっと逸らされた。
「見るな。照れる?」
「なっ!なんでわかった?!」
「なんだか手を繋いでいると声が聞こえる気がしたの。私の声、聞こえるかな?むむむむ…」
「パンケーキ食べたい、かな?」
「違いますっ!そんなに食いしん坊じゃありませんっ!」
シャロットが念じたのは「ホールケーキ一緒に食べよう」だったのであながち外れてはいないのだった。
神妙な顔をして俯くシャロットの手をバークレイはそっと握った。
目の前にはパルプ伯爵とシャロットの兄。そして母。
「どうしてシェアとケータリングを思いついたんだ?」
「家としても繁忙期以外は荷馬車を貸しているし、1人では無理だけど複数人でなら資金的にも協力して出し合えるかなと」
「保証はどうするんだ?」
「修理なんかはこちらで――」
「そうではなくて、借りている側の利用料が滞ったらの場合だ」
「そ、それは」
シャロットは返答に行き詰ってしまった。善は急げと性急に父のパルプ伯爵に相談をしてしまった。利用する料金は人数割りになるので1人なら安く済むから問題ないとしか考えていなかったが、料金の金額によらず払えなくなれば払っては貰えないし、何より…安いんだから1、2か月払わなくてもいいだろうと考える人間だっているのだ。
1万を借りるのと1千万を借りるのとでは覚悟も違うだろうが、払えなくなった時に1万で夜逃げを考える者は少ないけれど1千万になれば夜逃げを考えない者の方が少ない。
バークレイの手の力がクッと入り、シャロットは隣に座るバークレイの横顔を見た。
色々と検討して精査せずに先走ってしまった挙句に巻き込んだ申し訳なさでいっぱいだ。
「金額によって扱いを変えたいと考えています」
――ふぇっ?――
シャロットはバークレイがパルプ伯爵にハッキリと返事を返した事に目を丸くした。バークレイにも思い付きのままにこんな事をしたらどうかとシェア業とケータリング業の事は話したけれど、細かく2人で意見を交わしてもいないのだ。
「ほぅ。金額によって?どう変えると言うんだ」
「ケータリングの方は当面相手を貴族に限定します。貴族の場合はメンツもありますから踏み倒す事はしないでしょう。しかし、かといって満額支払いになるかは別の問題と認識しています」
「どういう風に?」
「料理だけでなく場の設営に撤収、その他慣れて来れば給仕なども全て込みで考えていますが、貴族によってやり方がありますので気に入らないという感情的なものから、タブー視している事項まであります。周知徹底が不足し客側に不快な思いをさせてしまった場合の満額支払いは望めません」
「そうだろうな」
「なので、事前の取り決めをして手付で半金、残りは清算の形になりますが、選択式で客と入念な打ち合わせをするようにします。ですが給仕も含んでとなればすぐの対応は出来ませんのでケータリングについては各方面から意見も頂き、この先に展開する予定の事業と考えています」
――レイ様、考えてくれてたんだ。ありがとぉぉ――
確かにケータリングが出来るとなれば民衆の年間所得などから考えて当面の客は貴族だけとなる。
1つの間違いで上げ足を取る生き物でもあるので、失敗は許されない。今、見切り発車をするのは時期尚早だ。
――そこまで考えてなかったわ。反省しなきゃ――
シュンとなるシャロットだったが、バークレイは握ったままの手から「大丈夫」と言ってくれている気がした。
「シェア業の方は大前提として金額、期間に問わず金融商会に照会をかけます。成人したばかりだったり現金支払いオンリーだった場合は信用情報の利用履歴はありませんので、支払いの総額が10万以下なら博打になりますが貸します。10万を超える場合は保証人を立てて貰うんです」
「その保証人が保証人に足りるとどう判断する?」
「利用者と同じです。保証人の場合は確実に支払いが出来る事が条件になりますので信用情報に汚れていない履歴が5年以上ある事が条件になります」
「では支払いが滞った時はどうする」
「支払いは月に1回。契約時の金額で初回のみ端数を上乗せです。支払いが滞った時は1カ月目は警告、2回目で品を回収し保証人に弁済してもらうか、2か月分を一括で返済です」
「返済をしてもらってまた滞ったらどうするんだ」
「手形の1号不渡り2回目と一緒です。2回目は保証人に弁済をしてもらい、品も撤収です。額に問わず金融商会に照会をかけますので以後は履歴が残るとなれば利用者も覚悟を持って利用すると‥性善説にはなりますが」
「ふむ。詐欺などの2号不渡りや形式不備の0号不渡りでなく、資金不足の1号というわけか。いいだろう。重複に注意を怠らずにやってみるといい」
「いいんですか!?」
バークレイも緊張をしているのだろう。握った手は少し震えていたし手汗も感じた。
それでもバークレイはずっとシャロットの手を握って「大丈夫」と手の温もりを介して伝えてくれた。
「失敗をしても勉強だ。やってみると良い。私のヘソクリから少し融資をさせてもらうよ」
「宜しいんですか?!」
「あぁ。言っただろう?なんでもやってみないと成功するか失敗するかは解らない。机上の空論で終わらせてしまうよりも、失敗したとてそこから学ぶものがあれば大失敗にもならんだろう。だが、最初から大きく手を広げるな。いいな?」
「はいっ。良かったな。シャ‥‥」
――ん?さっき、名前を呼ぼうとして止めた??――
じぃぃっとバークレイの目を見るとフイっと逸らされた。
「見るな。照れる?」
「なっ!なんでわかった?!」
「なんだか手を繋いでいると声が聞こえる気がしたの。私の声、聞こえるかな?むむむむ…」
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