桃色幼馴染と煙気王子様

環流 虹向

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生気友気

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ここ最近、愛が空元気な気がする。

しかも血色が悪いし、一緒の飯を食ってるのに少し頬が痩せてきた気がする。

こんな時、俺がとと丸にその原因を聞ければいいけど愛と同じ耳を持ててないから何も聞くことも話すこともできない。

こういう時、普通の人間だったらどうするんだろう。

…卒業旅行。

俺はたまたま朝の会の時間に居合わせた教室で渡されたプリントに機嫌が最高に悪くなる。

「一応これも出席入るからしっかり来いよー。」

と、担任は俺をいないものとして扱いながら教壇前に居座る俺を気にせずHRを始める。

俺はその感じに腹が立ち、年明けにある球技大会の種目分けを書き出した担任のチョークを奪い、写真共有アプリの名前とパスワード、テーマの“解答用紙”とだけ書いて教室から出ると一斉にカメラのシャッター音と不規則な数字の羅列を口に出すクラスメイトと慌てふためく担任を鼻で笑っていつも通り保健室に来た。

結心「おはー。ニーナって卒業旅行引率するの?」

凛「行かない。というより毎年行ってないでしょ。」

結心「あ、そうだった。」

俺は凛が赴任してからずっとここのベッドを使わせてもらってることを思い出し、今日もまたそのベッドに寝そべる。

結心「らぶ子ととと丸は?」

凛「そういえばまだ来てないね。HRで捕まってるのかも。」

結心「…ってか、今日1年って校外学習?」

凛「あ、そうだった。行事ごと疎くて忘れてた。」

だから今日はいつも着てない厚手のコートを着てたのかと俺は納得し、眠りにつこうとすると保健室の扉が開いた。

結心「あー…?校外学習は?」

俺は半べそかいてる愛を見てまたクラスメイトにいじめられたのかと心配したがとと丸は無事っぽい。

愛「…行くつもりでっ、カイロいっぱい貼ったのにぃ…、私とととくんの席ないって…言われた…っ。」

と、愛はとと丸をきつく抱きしめながら俺が寝転んでいるベッド脇に座った。

結心「は?観光バスって馬鹿ほど席あるじゃん。」

愛「…空いてる席、全部ぅ…荷物置きになってて…っ、お金も返された…。」

そう言って愛は厚手のコートから少ししわくちゃになった茶封筒を取り出し、また涙をにじませる。

愛「ととくんと…っ、初めて海見れると思ったのに…。そのまま……。」

と、愛は何かを言い出しそうになったのを口で留めてとと丸の長い耳を弄りだした。

凛「まだバス出てないよね?言ってくるよ?」

結心「あいつらと行くくらいなら俺と行こ。昼からでいい?」

俺は通年薄い布団に包まりながら近場にあったティッシュを愛に渡す。

愛「夕方でも…夜でも…、いいです…。」

結心「そっか。門限平気なの?」

愛「…今日はお母さん、家にいないので。」

結心「じゃあ朝帰りでもいいの?」

愛「帰りた……、はい。…大丈夫です。」

…なんだ?

さっきから言葉のつっかえが多い気がする。

結心「じゃあとりあえず一眠りして起きたら行こ。愛もとと丸もおいで。」

俺は掛け布団を広げ、ベッド脇に座っている2人を自分の胸の中に入れる。

結心「あったけぇ…。カイロ何個つけてきたの?」

愛「お腹に3つ、背中に4つ…、靴に2つ。」

だから冷たいコートもこんなに温かいわけなのかと納得していると、愛は背を向けていた体をこちらに向けてとと丸を真ん中にした。

愛「ととくん冷えちゃってるから…。どう?」

と、愛は自分と俺の腕の中にいるとと丸に声をかけると少し腫れた目で笑顔を作った。

愛「よかった。最後にちゃんとベッドで寝れたね。」

そう言って愛はすぐに眠りにつき、残った涙を枕に落とした。

俺は最近特に痩せてきた愛がもっと小さくなっているのを感じ、とと丸と一緒に温めながら一眠りついた。


環流 虹向/桃色幼馴染と煙気王子様
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