破賢の魔術師

うめき うめ

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1巻webおまけ(ツララ視点)

抱擁(ツララ視点)

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   暗闇の中に白い塊がぼんやりと浮かんだ。
 弛緩した空気が一気に張り詰め、杖を胸元まで引き寄せて身構えた。しかし――

 「……猫?」
 「……だな」


 倉庫の奥に潜んでいたのは猫。真っ白な毛並みの子猫だった。

 子猫はタヒトを見上げて「なー」と一鳴きすると、吸い寄せられる様にタヒトの足元へ向かい、小さな体を摺り寄せた。
 その悪意も敵意も感じない行為に肩の力が抜けていく。

 「ま、そんな事だろうと思ったよ」

 タヒトは子猫を抱き上げると、溜息交じりにそう言った。
 慎重なタヒトにしては、割合あっさりと王からの依頼を引き受けたと思っていたけれど、この展開を予見していたのかしら。
 
 「猫だとわかっていたの?」
 「まさか。だけど可能性の一つには考えてた。日本から召喚されたなら、犬とか猫とか猿とか……その辺じゃないか、と」
 
 タヒトは子猫の頭を撫でながら言う。

 「熊もあり得たわよ」
 「そうそう、熊だったらマズいとは思った。だけど話を聞く限りそんな大きな動物には思えなかったし」

 タヒトは子猫の喉をくすぐりながら言う。

 「もっと他の猛獣もあり得たわよ。ライオンとかチーターとか」
 「え?なんで?」
 「日本にだって動物園があるじゃない」
 「……あ、ほんとだ」
 「考えて無かったの?そもそも、本当に日本から召喚された生物か分からないでしょう?とんでもない怪物の可能性だってあった」
 「なるほど……言われてみれば」

 タヒトは子猫の尻尾をフニフニしながら頷く。

 「その子だって、ただの猫じゃないかもしれない。子猫が騎士を襲うなんて出来ると思う?」
 「こいつが?いや……思えないな、うん」
 「……ならもう少し警戒した方が良かったと思うのだけれど」

 タヒトは「はっ」と漏らして、子猫の脚をツンツンするのを止めた。

 「……悪い。おかしいな。猫なんて普段はあんまり気にしないんだけど、久し振りに見たせいかつい……」

 どうやら無意識に子猫を可愛がっていたらしい。とはいえ、言うべきことは言わなければ。

 「気持ちは分かるけれど、しっかりしてもらわないと困るわ。コンビとして」

 少し強い口調で言った。

 「ああ、そうだな。依頼を受けた事を含めて今回は軽率だった、悪かった……ん?」
 「なに?」
 「今、なんて?」
 「コンビ?」
 「いや、その前」
 「子猫を愛でたい気持ちは良く分かる、そう言ったのよ。ところで、タヒト。その子は今の所、変わった様子は無いわね」
 「え?ああ、まぁ」
 「どこからどう見ても普通の子猫、そうね?」
 「そうだな……俺の知ってる猫そのものだ。だけどツララの言う通り、何が起こるかは分からない。一応警戒して離れていようか」
 「いいえ、その必要は無いわ。これだけ長い間あなたと密着して何も起こらないのだから、きっと大丈夫でしょう。むしろ、離れたことでこの子を逃してしまう可能性を潰すべきだわ」
 「え……もう大丈夫なの?」

 きょとんとした顔のタヒトへと近づく。

 「ええ、あなたが身を挺してくれたお陰で、この子の無害が証明されたのよ。ありがとう」
 「ありがとう?」
 「それで、骨を折ってくれたついでと言ってはなんだけれど、あなたに一つ、お願いがあるの」

 気が付くと、手を広げれば包み込める程の距離まで迫っていた。

 「な、なんなの!?」

 何故か身構える彼に言った。

 「私にも抱かせて」
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