21 / 54
1巻webおまけ(ツララ視点)
抱擁(ツララ視点)
しおりを挟む
暗闇の中に白い塊がぼんやりと浮かんだ。
弛緩した空気が一気に張り詰め、杖を胸元まで引き寄せて身構えた。しかし――
「……猫?」
「……だな」
倉庫の奥に潜んでいたのは猫。真っ白な毛並みの子猫だった。
子猫はタヒトを見上げて「なー」と一鳴きすると、吸い寄せられる様にタヒトの足元へ向かい、小さな体を摺り寄せた。
その悪意も敵意も感じない行為に肩の力が抜けていく。
「ま、そんな事だろうと思ったよ」
タヒトは子猫を抱き上げると、溜息交じりにそう言った。
慎重なタヒトにしては、割合あっさりと王からの依頼を引き受けたと思っていたけれど、この展開を予見していたのかしら。
「猫だとわかっていたの?」
「まさか。だけど可能性の一つには考えてた。日本から召喚されたなら、犬とか猫とか猿とか……その辺じゃないか、と」
タヒトは子猫の頭を撫でながら言う。
「熊もあり得たわよ」
「そうそう、熊だったらマズいとは思った。だけど話を聞く限りそんな大きな動物には思えなかったし」
タヒトは子猫の喉をくすぐりながら言う。
「もっと他の猛獣もあり得たわよ。ライオンとかチーターとか」
「え?なんで?」
「日本にだって動物園があるじゃない」
「……あ、ほんとだ」
「考えて無かったの?そもそも、本当に日本から召喚された生物か分からないでしょう?とんでもない怪物の可能性だってあった」
「なるほど……言われてみれば」
タヒトは子猫の尻尾をフニフニしながら頷く。
「その子だって、ただの猫じゃないかもしれない。子猫が騎士を襲うなんて出来ると思う?」
「こいつが?いや……思えないな、うん」
「……ならもう少し警戒した方が良かったと思うのだけれど」
タヒトは「はっ」と漏らして、子猫の脚をツンツンするのを止めた。
「……悪い。おかしいな。猫なんて普段はあんまり気にしないんだけど、久し振りに見たせいかつい……」
どうやら無意識に子猫を可愛がっていたらしい。とはいえ、言うべきことは言わなければ。
「気持ちは分かるけれど、しっかりしてもらわないと困るわ。コンビとして」
少し強い口調で言った。
「ああ、そうだな。依頼を受けた事を含めて今回は軽率だった、悪かった……ん?」
「なに?」
「今、なんて?」
「コンビ?」
「いや、その前」
「子猫を愛でたい気持ちは良く分かる、そう言ったのよ。ところで、タヒト。その子は今の所、変わった様子は無いわね」
「え?ああ、まぁ」
「どこからどう見ても普通の子猫、そうね?」
「そうだな……俺の知ってる猫そのものだ。だけどツララの言う通り、何が起こるかは分からない。一応警戒して離れていようか」
「いいえ、その必要は無いわ。これだけ長い間あなたと密着して何も起こらないのだから、きっと大丈夫でしょう。むしろ、離れたことでこの子を逃してしまう可能性を潰すべきだわ」
「え……もう大丈夫なの?」
きょとんとした顔のタヒトへと近づく。
「ええ、あなたが身を挺してくれたお陰で、この子の無害が証明されたのよ。ありがとう」
「ありがとう?」
「それで、骨を折ってくれたついでと言ってはなんだけれど、あなたに一つ、お願いがあるの」
気が付くと、手を広げれば包み込める程の距離まで迫っていた。
「な、なんなの!?」
何故か身構える彼に言った。
「私にも抱かせて」
弛緩した空気が一気に張り詰め、杖を胸元まで引き寄せて身構えた。しかし――
「……猫?」
「……だな」
倉庫の奥に潜んでいたのは猫。真っ白な毛並みの子猫だった。
子猫はタヒトを見上げて「なー」と一鳴きすると、吸い寄せられる様にタヒトの足元へ向かい、小さな体を摺り寄せた。
その悪意も敵意も感じない行為に肩の力が抜けていく。
「ま、そんな事だろうと思ったよ」
タヒトは子猫を抱き上げると、溜息交じりにそう言った。
慎重なタヒトにしては、割合あっさりと王からの依頼を引き受けたと思っていたけれど、この展開を予見していたのかしら。
「猫だとわかっていたの?」
「まさか。だけど可能性の一つには考えてた。日本から召喚されたなら、犬とか猫とか猿とか……その辺じゃないか、と」
タヒトは子猫の頭を撫でながら言う。
「熊もあり得たわよ」
「そうそう、熊だったらマズいとは思った。だけど話を聞く限りそんな大きな動物には思えなかったし」
タヒトは子猫の喉をくすぐりながら言う。
「もっと他の猛獣もあり得たわよ。ライオンとかチーターとか」
「え?なんで?」
「日本にだって動物園があるじゃない」
「……あ、ほんとだ」
「考えて無かったの?そもそも、本当に日本から召喚された生物か分からないでしょう?とんでもない怪物の可能性だってあった」
「なるほど……言われてみれば」
タヒトは子猫の尻尾をフニフニしながら頷く。
「その子だって、ただの猫じゃないかもしれない。子猫が騎士を襲うなんて出来ると思う?」
「こいつが?いや……思えないな、うん」
「……ならもう少し警戒した方が良かったと思うのだけれど」
タヒトは「はっ」と漏らして、子猫の脚をツンツンするのを止めた。
「……悪い。おかしいな。猫なんて普段はあんまり気にしないんだけど、久し振りに見たせいかつい……」
どうやら無意識に子猫を可愛がっていたらしい。とはいえ、言うべきことは言わなければ。
「気持ちは分かるけれど、しっかりしてもらわないと困るわ。コンビとして」
少し強い口調で言った。
「ああ、そうだな。依頼を受けた事を含めて今回は軽率だった、悪かった……ん?」
「なに?」
「今、なんて?」
「コンビ?」
「いや、その前」
「子猫を愛でたい気持ちは良く分かる、そう言ったのよ。ところで、タヒト。その子は今の所、変わった様子は無いわね」
「え?ああ、まぁ」
「どこからどう見ても普通の子猫、そうね?」
「そうだな……俺の知ってる猫そのものだ。だけどツララの言う通り、何が起こるかは分からない。一応警戒して離れていようか」
「いいえ、その必要は無いわ。これだけ長い間あなたと密着して何も起こらないのだから、きっと大丈夫でしょう。むしろ、離れたことでこの子を逃してしまう可能性を潰すべきだわ」
「え……もう大丈夫なの?」
きょとんとした顔のタヒトへと近づく。
「ええ、あなたが身を挺してくれたお陰で、この子の無害が証明されたのよ。ありがとう」
「ありがとう?」
「それで、骨を折ってくれたついでと言ってはなんだけれど、あなたに一つ、お願いがあるの」
気が付くと、手を広げれば包み込める程の距離まで迫っていた。
「な、なんなの!?」
何故か身構える彼に言った。
「私にも抱かせて」
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。