双子の王子に双子で婚約したけど「じゃない方」だから闇魔法を極める

福澤ゆき

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番外その2-オールキャラ短篇『悪い遊び』

2.

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時間にして僅か三分程だったと思うが、その時の心臓の鼓動と妄想の爆走っぷりと言ったらなかった。

(何、悪い遊びって。他に思いつかないんだけどそういうこと、だよね? 遊びじゃなくて〝悪い〟遊びだし……。何? 何プレイ? いやいや、シュリたんはそんな子じゃ……いや、でも……)

ドキドキしながら部屋に連れて行かれて、コンラートは瞬時に事情を察した。
シュリのゲストルームには、ジークフリートとギルベルトとリュカと、全員揃っていた。
皆きっと、同じことを言われて呼び出され、期待と妄想に胸を膨らませてやってきたのだろう。何とも言えない、スンッとした顔や、がっかりした顔をしていた。

(センパイ、あからさまに死にそうな顔してるし……)

ギルベルトはまるで戦に負けた騎士のように項垂れており、ショックの大きさが伝わってくる。
テーブルの上に並べられたカードを見れば、「悪い遊び」というのが、少なくとも期待していたようなことじゃないことは分かる。

「またカードゲームって、シュリ好きだね~~」

リュカがどことなく退屈そうに言った。リュカはコンラート達のような下心ではなく、本当に文字通り「悪い遊び」だと思ったのだろう。
拍子抜けといった感じだった。
生真面目に勉強だけをして生きて来たシュリにとっては、カードゲームが最大の娯楽なのだ。親友として、もっと年相応の面白い遊びを教えてあげたいと思う一方、シュリにはこのままでいて欲しいという気持ちで複雑だった。

「今日はただのカードゲームじゃないぞ」

シュリはキュートな牙をちらつかせて口の片端を吊り上げ悪党のような笑みを浮かべ、麻袋を取り出すと、机の上に、海賊が金貨でもぶちまけるようにその中身を出した。

「え……何このどんぐりの山。シュリたん猫から冬ごもりのリスにジョブチェンするの?」
「違う! ギャンブルだ。このドングリを賭けてケティラーをしないか?」

ケティラーというのは、チップを賭けてカードの強さを競い合うゲームだ。
実際は弱いカードを持っていても、ハッタリを見破られなければ勝てることもあるため、心理戦の色が強い。コンラートも街の賭場で何度かやったことはあるが、もちろん賭博行為は校則違反だ。
素行の悪い生徒達が、学園の敷地内で金を賭けながら心理戦の賭け引きに興じている姿は、確かに少しダークで大人な雰囲気がして格好よく見える。
シュリも、そういう生徒達を横目に見ながら、少しだけ憧れているようだった。
だが、真面目な彼はさすがに金を賭けることは出来なかったのだろう。

先月ぐらいから、シュリが学園の敷地内に落ちているどんぐりををやたら熱心に拾い集めていたので、気になっていた。
「いずれ分かる」と意味深な物言いをして柄にもない含み笑いをしていたので、何事かと思っていたが、まさかこんな形で謎が解けるとは思わなかった。

「楽しそうだね。いいよ。俺こういうゲーム得意だから」
「うん、僕もー」
「二人ともえげつなく強そうッスね」

コンラートはにこやかな笑みを浮かべたジークフリートとリュカを見てげんなりとした笑いを浮かべた。

「ギャンブルなら相応の対価とリスクがねえとつまんねーな」

ギルベルトの言葉に、シュリは首を傾げた。

「だからドングリを賭けるんだろ」

ドングリはいらねええというギルベルトの心の声が聞こえてきそうだが、この日のためにせっせと集めてきたシュリの労力を思うと、無下に出来ないらしく、グッと飲み込んでいる。

「俺は欲しいけどね。シュリが集めたものは全部」

妙に真剣な声でジークフリートが言うと、その場にいた全員がハッとした。確かに、そう言われてみると、山盛りのドングリがすごく価値のあるものに思えてきた。

(虫が湧きそうだけど……俺虫マジ無理なんだけど、シュリたんが集めたドングリ欲しい……)

学園で嬉しそうに一つ一つ拾い集めていたシュリの横顔を思い出すと、とても尊いものに思えてくる。
ギルベルトとリュカも同じことを思ったのだろう。急に室内の空気が緊迫した。

(そうだ。ゲームは公平だ。王族じゃなくても、婚約者じゃなくても、手に入れられるんだ)

絶対に勝ってやる。

コンラートは柄にもなく真剣に腕まくりをしてカードを手に取った。

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