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二章
最悪な出会いを果たした時、僕は……~Part11~
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――――十分後。
「……あっ、それです。リーチ、一発、ツモ、チンイツ、ドラ六で……数え役満です」
僕を見る三人の視線が痛い。
「……な、何をしたぁー?」
「何もしてませんよ。ただ真っ当に打ってただけです」
「そんなわけないやろがぁー、このガキぃー」
そう言ってデブハゲが身を乗り出そうとする。
「イヌ。止めなさい。お客さんに失礼でしょう」
しかし、頭上から落ちる声がデブハゲを制止する。
女性であることは声から分かったが、振り向いて驚いた。
「それからその喋り方も。いつも言ってるでしょう。癖とはいえ、はしたないですよ」
そこにいたのは真っ赤な着物に身を包んだ幼女だった。
外見から察するに十歳にも満たないのではないだろうか。香椎茉莉とは明らかに身体の作りが異なっており、パーツの全てが丸みを帯びており、綺麗というよりも可愛いと形容できよう。この中にいて一番真面かもしれないが、如何せん、香水がきつい。エレベーターの中に籠っていた匂いの元凶だ。はっくしゅん。
「へい。失礼しやした。お嬢」
デブハゲがすぐに立ち上がり、膝に手を突きながら頭を深々と下げる。
「それと、サル、モデルガンを丹念に磨くのはいいけど、準備はできてるんでしょうね?」
その言葉にちび髭の身体がびくっと跳ねる。初対面の僕でも一目で分かってしまうほど動揺が顔に表れている。しかも、僕が本物だと思っていた拳銃は、モデルガンだった。……こいつらは本当にやくざなのだろうか、と逆に不審感ばかりが募っていく。
ちび髭の狼狽ぶりに、お嬢と呼ばれる和服幼女がため息を吐く。
「……分かりました。それは私が何とかします。さあ、行きましょう。もうあまり時間はありませんよ」
そう言うが、僕には事情がさっぱり分からない。
「あの……」
「如月陸奥さんですね。挨拶もなしに申し訳ありません。大まかな事情は吉備から聞いているでしょう?」
「いえ、何も聞いていませんが」
その返答に一瞬呆けるが、すぐに吉備を睨む。
それに吉備は苦笑いを浮かべる。
「…………分かりました。詳しい事情は車の中でいたします。とりあえず、今は来てください」
「お嬢、もう半荘」
「……お前は私を怒らせたいんですか? それとも海に沈みたいのですか?」
「すいやせんでした」
和服幼女は苦笑いをする吉備、名残惜しそうに牌を見つめるデブハゲ、胸から新たなモデルガンを取り出し磨き始めたちび髭の三人を一瞥し、今一度、深いため息を吐く。
「……全くゴミクズどもが」
そして、言葉を乱し小さく舌打ちをする。どうやらこちらが本性のようだ。まあ、何となく予想はしていたけど、これだったらまだ隠していない雪乃や茉莉の方がましだ。やだやだ、怖いったらありゃしない。
――――ブオーン、ブオーン…………。
エレベーターに乗ろうとしている時、どこからともなくうねり声が聞こえてきた。何事かと思っていると、和服幼女が鞄の中から携帯を取り出した。どうやら着信音だったらしい。僕の携帯もそうだが、今はこんなへんてこな着信音が標準装備されている。血迷った時代になったな、と一六年しか生きていないのに感傷に浸る。
「はい。未来(みらい)です。どうかしましたか? …………えっ、お父様が! はい、はい、場所は……はい、はい……分かりました。すぐに向かいます。では」
電話を切るや否や、何やら焦った様子で僕の方を向く。
「陸奥さん。勝手ながら本当に申し訳ありません。急用ができましたので、今日はこれで失礼します。今日のことはまた日を改めて。聞けば我々の力になってくれることでしょう。私はそう信じています。イヌ! サル! キジ! 急ぎますよ!」
「へい!」
「…………」
「はい!」
そう言い、四人はすぐ隣にある扉を開け、非常階段を駆けていく。
「おい、吉備、どういうことだよ?」
列の最後尾で去ろうとする親友の背中に投げかける。
「…………」
一瞬動きを止めるが、吉備はその言葉に反応することなく足早に階段を降りる。
状況を飲み込めぬまま嵐が去った。雀荘は相変わらず煙草臭く、悪い気が充満していた。そう思うと牌を混ぜる音が妙に大きく聞こえ、それが僕に罵倒を浴びせているような、そんな錯覚に陥り居心地が悪い。
「……何だったんだ?」
残された僕が独り言ちる。
疑問がふたつ。
他の取り巻きから〝お嬢〟と呼ばれ、未来という名前の和服幼女が僕に何の用なのだろうか。
あんな柄の悪い奴らの中で〝キジ〟と呼ばれていた僕の親友は、一体何者なのだろうか。
「……あっ、それです。リーチ、一発、ツモ、チンイツ、ドラ六で……数え役満です」
僕を見る三人の視線が痛い。
「……な、何をしたぁー?」
「何もしてませんよ。ただ真っ当に打ってただけです」
「そんなわけないやろがぁー、このガキぃー」
そう言ってデブハゲが身を乗り出そうとする。
「イヌ。止めなさい。お客さんに失礼でしょう」
しかし、頭上から落ちる声がデブハゲを制止する。
女性であることは声から分かったが、振り向いて驚いた。
「それからその喋り方も。いつも言ってるでしょう。癖とはいえ、はしたないですよ」
そこにいたのは真っ赤な着物に身を包んだ幼女だった。
外見から察するに十歳にも満たないのではないだろうか。香椎茉莉とは明らかに身体の作りが異なっており、パーツの全てが丸みを帯びており、綺麗というよりも可愛いと形容できよう。この中にいて一番真面かもしれないが、如何せん、香水がきつい。エレベーターの中に籠っていた匂いの元凶だ。はっくしゅん。
「へい。失礼しやした。お嬢」
デブハゲがすぐに立ち上がり、膝に手を突きながら頭を深々と下げる。
「それと、サル、モデルガンを丹念に磨くのはいいけど、準備はできてるんでしょうね?」
その言葉にちび髭の身体がびくっと跳ねる。初対面の僕でも一目で分かってしまうほど動揺が顔に表れている。しかも、僕が本物だと思っていた拳銃は、モデルガンだった。……こいつらは本当にやくざなのだろうか、と逆に不審感ばかりが募っていく。
ちび髭の狼狽ぶりに、お嬢と呼ばれる和服幼女がため息を吐く。
「……分かりました。それは私が何とかします。さあ、行きましょう。もうあまり時間はありませんよ」
そう言うが、僕には事情がさっぱり分からない。
「あの……」
「如月陸奥さんですね。挨拶もなしに申し訳ありません。大まかな事情は吉備から聞いているでしょう?」
「いえ、何も聞いていませんが」
その返答に一瞬呆けるが、すぐに吉備を睨む。
それに吉備は苦笑いを浮かべる。
「…………分かりました。詳しい事情は車の中でいたします。とりあえず、今は来てください」
「お嬢、もう半荘」
「……お前は私を怒らせたいんですか? それとも海に沈みたいのですか?」
「すいやせんでした」
和服幼女は苦笑いをする吉備、名残惜しそうに牌を見つめるデブハゲ、胸から新たなモデルガンを取り出し磨き始めたちび髭の三人を一瞥し、今一度、深いため息を吐く。
「……全くゴミクズどもが」
そして、言葉を乱し小さく舌打ちをする。どうやらこちらが本性のようだ。まあ、何となく予想はしていたけど、これだったらまだ隠していない雪乃や茉莉の方がましだ。やだやだ、怖いったらありゃしない。
――――ブオーン、ブオーン…………。
エレベーターに乗ろうとしている時、どこからともなくうねり声が聞こえてきた。何事かと思っていると、和服幼女が鞄の中から携帯を取り出した。どうやら着信音だったらしい。僕の携帯もそうだが、今はこんなへんてこな着信音が標準装備されている。血迷った時代になったな、と一六年しか生きていないのに感傷に浸る。
「はい。未来(みらい)です。どうかしましたか? …………えっ、お父様が! はい、はい、場所は……はい、はい……分かりました。すぐに向かいます。では」
電話を切るや否や、何やら焦った様子で僕の方を向く。
「陸奥さん。勝手ながら本当に申し訳ありません。急用ができましたので、今日はこれで失礼します。今日のことはまた日を改めて。聞けば我々の力になってくれることでしょう。私はそう信じています。イヌ! サル! キジ! 急ぎますよ!」
「へい!」
「…………」
「はい!」
そう言い、四人はすぐ隣にある扉を開け、非常階段を駆けていく。
「おい、吉備、どういうことだよ?」
列の最後尾で去ろうとする親友の背中に投げかける。
「…………」
一瞬動きを止めるが、吉備はその言葉に反応することなく足早に階段を降りる。
状況を飲み込めぬまま嵐が去った。雀荘は相変わらず煙草臭く、悪い気が充満していた。そう思うと牌を混ぜる音が妙に大きく聞こえ、それが僕に罵倒を浴びせているような、そんな錯覚に陥り居心地が悪い。
「……何だったんだ?」
残された僕が独り言ちる。
疑問がふたつ。
他の取り巻きから〝お嬢〟と呼ばれ、未来という名前の和服幼女が僕に何の用なのだろうか。
あんな柄の悪い奴らの中で〝キジ〟と呼ばれていた僕の親友は、一体何者なのだろうか。
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