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12.知っていく
しおりを挟む「歌恋、試合終わったのか?」
「うん! バッチリ勝ってきたわよ! そっちは?」
「勝ったに決まってんだろ!」
和気藹々と話す二人を眺めながら、俺は感じる視線に夜宮を見た。
「……月影君、手大丈夫?」
「え? ああ。まだジンジンするけどな」
「痛そうな音鳴ってたもんね。うわ、内出血してる」
「バレーって当てどころが難しいよな。……夜宮は今から試合だよな?」
遠慮がちに声をかけてくる夜宮に俺は痛む手を見てコート近くにある対戦の順番が書かれたホワイトボードを見た。
二組対四組で夜宮の番だ。まだ当たってないけど、夜宮も俺達と同じBチームだ。
「うん。勝ってくるよ」
「ふっ! 頑張るじゃなくて勝つかよ」
「うん」
俺が笑えば、夜宮は嬉しそうに笑って「じゃあ」と審判の笛の音にコートに入っていく。
俺達三人は夜宮の対戦を見学するため、近くにある石の階段に腰を下ろした。
試合が始まれば、夜宮は早速チームメンバーにトスを上げてもらってスマッシュで一点を入れる。
いや、早いって。
「あれでバレー部でもなければ部活入ってない運動部泣かせだよな」
潮鳴からの事前情報には相手チームにもバレー部がいるはずなんだけど、それがわからないくらい二点目も即入った。
「あー、それわかるわ~。蒼輝なら俺らんとこも欲しいもん。でも、あいつあんま人と連むの好きなほうじゃねぇからな」
「そうなのか?」
それは意外だ。
「蒼輝ってニコニコ笑ってるからわかりずらいけど、昔から人見知りするタイプなんだよ。笑顔の鉄壁で自分を守ってる感じ」
「……そうなのか」
そんなんだな。いや、確かにそうかも。
夜宮を見るたびに作り物っぽいなって思ってたのはほんとにその通りだったのか。
「……あのさ、二人に一つ聞いてもいい?」
「「ん?」」
「……俺と仲良くなるために夜宮が二人に協力を頼んだいうのほんとなのか?」
夜宮がボールに触れるたび、観戦して女子達から黄色い歓声が上がる。
「あー、蒼輝から聞いたの?」
「ああ。昨日二人が飲み物買いに行ってた時に」
潮鳴と花岡さんは気まずそうに目を合わせると「うん」と頷いた。
「……そっか」
「あ、いや! 誤解すんなよ月影!! 俺ら確かに蒼輝に協力して仲直りさせる目的でお昼誘って一緒に食ってたけど! それだけで仲良くしてるわけじゃねぇし、そんなん関係なく友達になりたいと思って友達だと思ってんだからな!」
「そうそう! 演技してるわけじゃないからね!? やだ! せっかく懐いてくれたのに嫌いにならないでー!」
「え? ああ」
そんな心配そういえばしてなかったな。
いつもなら、そうじゃなきゃ俺なんかに声かけないよなとかネガティブなこと考えそうなのに。ただ、夜宮が言ってたことが本当なのか気になってて……
「ほんとに友達か?」
「「友達友達!」」
「俺のことめんどくさくない?」
「「ないない!!」」
「そっか。……ありがとう」
まぁ、言われれば本当に大丈夫か気になっちゃうよな。
深く頷く二人に照れて、口を隠す。
「「可愛いー」」
「うっさい」
ニヨニヨ笑う二人を睨みつける。
潮鳴は「ははっ」と笑って仕切り直すように夜宮にどこまで聞いたのか尋ねてきた。
「俺との約束に遅刻してきたことすっごく後悔したけど、なかなか謝れなくて悩んでた時に疎遠になってた二人に助けられたって感じに軽くな」
「なるほど。まぁ合ってんな。俺達もともと小学校高学年くらいまでは結構仲よかったと思うんだけど夜宮の遅刻癖? が出てきたあたりで一回縁が切れたんだよ」
「何回言っても遅刻してくるし、それが悪いとも思ってなかったからね」
「そ、そんな前から遅刻癖あったんだな」
筋金入りだな……。
「そう、でももともとは蒼輝も遅刻とか約束を破られるのとか嫌いだったんだぜ? 泣いてんの慰めたことも何回もあったしさ。けど、蒼輝の親父さんがなかなかに癖のある人で平気でそういうことする人なんだよ……」
「その頃ちょうどクラスで可愛いって言われてた子が蒼輝のことが好きで告白したのを振っちゃったのもタイミングが悪かったわよね。女子達には詰め寄られ、男子からは嫉妬されて陰口たたかれて」
「そこから蒼輝の中で何かあったんだと思う。親父に対する不満も言わなくなったし、にこにこ笑って人と接するようになったり」
「何かあったって言うか諦めたんでしょ。諦めて面倒なものは笑顔で流すのが簡単だって気づいて私達までそっち側に分類されたのよ」
昔のことを思い出して怒りが蘇ってきたのか、花岡さんはだんだんと声に怒りを滲ませ、足で砂利を捻った。
「まぁ、そうやって壁張っていい加減な対応ばっかしてくる相手と遊ぶのを自然と避けるようになってさ、中学に入った辺りからほとんど喋らなくなったし、高校は同じなのは知ってたけど関わりは一切なかったんだよ。遠くから今日も囲まれてんなーって思うくらいで。なのに偶然会ったら一人でいて泣きそうな顔してるし、理由聞いたら月影に嫌われたって泣くからさ」
「私達も蒼輝が壁作り出した時に何も言わなかったし、それからずっと能面みたいな笑顔貼り付けてる蒼輝になにも思わないこともなかったからね。まぁ仕方ないかって協力してあげることにしたのよ」
「泣いてたって本当の話?」
「「半泣きではあった」」
「そっか……」
半泣きか……。あの夜宮が。
「月影と飯食べれるようになってからもさ、蒼輝全然月影に喋りかけず見もしなかっただろ? あれ、なんて月影に喋りかけていいかわかんなかったからだぜ」
「ニコニコ笑いながらも必死な助けてって圧を感じたわよね」
「なんで、待っててくれた? とか言えるくせに普通の会話はできねぇんだよな? ほら、俺が最初の頃月影に俺らと飯食うの嫌? って聞いた時も卯月! ってそんなこと聞いて欲しかったんじゃない! 嫌って言われたらどうすんだってめちゃくちゃ焦って止めにきてたもんな」
「あそこでうんとか言われたら終わりだもん」
「……もしかして夜宮って器用に見えて結構不器用?」
「「不器用不器用」
深く頷く二人に俺は夜宮を見た。
ネット前でジャンプからのスマッシュ。ミルキーブロンドの髪がサラッと靡いて真剣な表情が魅力的だ。上がるシャツの裾から見える腹には周囲から悲鳴のような歓声が上がる。
「……やべぇな蒼輝の腹見せの威力」
「まぁ、あの顔でサービスシーンあったら悲鳴もあげたくなるわよね」
「イケメンってすごいな」
うんうんと三人で頷いて、もうすぐ決着がつきそうな試合に話を切り上げて観戦に集中することにした。
半泣き……会話の助けを求めたりとか、知れば知るほど夜宮の印象が変わっていく。
あの温和な笑みの裏で、俺が知らない苦労がたくさんあったんだなとか、色々と悩んだり考えながら俺と仲良くしたいと思ってくれてたんだなとか。
ピーッと試合終了の笛が鳴る。
かいた汗を袖でぬぐい、周囲に集まるチームメンバーと夜宮は笑って何かを話してるようだ。
そして俺達、いや俺を見てふわっと花が咲くように笑う。
それはチームメンバーに見せていた笑みとは全然違う笑顔だ。
こっちにこようとする夜宮は、響いた声に足を止める。
「おい、蒼輝!」
「夜宮君!」
「っ」
久しぶりに聞く声にドキッとした。
少し威圧感のある声と甲高い声。
横を振り向けば、体育館の方から京橋と田賀さんが夜宮の元へ走っていった。
あの日、クラスの中心に立って俺を嗤ってきた二人だ。
俺はドクドクと不安や恐怖から焦る心臓を落ち着けようとそっと息を吐いた。
七組と一組でクラスも教室も離れて生活圏が違うから今日まで見かけることもなくて、最近楽しかったからか二人の存在を忘れかけてたけど、やっぱダメなんだな……。
「うわっ、あの二人って夜宮の自称友達の取り巻きじゃん」
「あの子ら確かDグループだったはずだけど、わざわざ蒼輝に会いに来たんだ」
二人は夜宮の元に行くと「久しぶり!」「寂しかった」「チームが違って残念」「一緒にご飯を食べよう」と大きな声ではしゃぐ。
夜宮はそんな二人に一年の頃よく見た能面のような笑みを貼り付けて、軽く挨拶のようなものをするとこっちにこようとしてた足を別の方向に向けて歩き出した。
「蒼輝、どこいくのよ」
「あっちの方向トイレじゃね? 巻くつもりなんかな?」
「……なぁ、夜宮一人で大丈夫か?」
心配になって言った。
人見知りと言っても、いろんなタイプがあることは俺も調べて知ってる。
俺みたいに動けないで口を閉ざしてしまうタイプに夜宮みたいに仮面を被って表面的にはなんの問題もなさそうに見えて、実は壁を作るタイプがいたり。
誰かと関係を築くことができるだけいいじゃんと思うこともあったけど、あの日、約束をする前日に見た夜宮はすごく息苦しそうだった。
今の夜宮も……
「たぶん行かない方がいいと思うぜ」
「え?」
校舎に消えた夜宮達の方を見ていれば、潮鳴が首を振る。
「蒼輝があっちに行ったのって、月影に二人を合わせないためだろうからな」
「……え?」
「ほら、月影君ってあの二人が大の苦手なんでしょ?」
「……それも夜宮から聞いたのか?」
「「うん」」
夜宮め……。
まぁ、二人が人見知りのコミュ障でまともに会話もできない俺なんかに普通に接してくれてたのは、前もって夜宮が俺の性格を二人に伝えてたからだろうし、関係の修復を頼んでたのなら夜宮のことを苦手に思う決定的な要因となった田賀さん達のことも話していても不思議じゃないか。
俺はもう一度夜宮が去った方を見て、小さく震える拳を握った。大丈夫だって言って、夜宮のあとを追えない。京橋達が怖くて会いたくないが勝ってしまう。
それがすごく夜宮に申し訳なかった。そして、潮鳴が言った「俺のために」との言葉を思い出した。
「あ、ほら。蒼輝から連絡がきた。先食べて待っててってさ。どうする? どこで食べる?」
「中庭! 今日気温も天気もちょうどいいし中庭で陽の光浴びならがご飯食べようよ!」
「行っても人いっぱいで席とれねぇと思うけど?」
「別に芝生の上でもいいじゃない」
「それもそっか。月影もそれでいい?」
「ああ」
話がつき、俺達はさっそく教室に弁当を取りに行き中庭へと向かった。
俺はもう一度手を握りしめ、心のままに正直になることに決めた。
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