朝目覚めたら異世界で、俺は恋人持ちの男に憑依していた

このえりと

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前編

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(……はぁ……)

 心の中で大きくため息をつき、寝入ったナタリオを起こさないように慎重にベッドから抜け出す。
 トイレに入りドアを閉め、しっかりと鍵をかける。下穿きを下ろせば、勢いよくちんぽが飛び出してきた。パジャマをたくし上げて口に咥え、俺はゆっくりと竿を扱いていく。

「んっ……♡ ふぅ……っ♡」

 目を閉じて、ナタリオの声を頭の中で思い出す。他人の恋人をオカズにして他人のちんぽでオナってるなんて、自分でもおかしいのはわかっている。だけどめちゃくちゃ気持ちよくて、背徳感も相まって頭が痺れるほどの快楽が身体を支配していく。

「ふー♡ ふー……っ♡」

(ナタリオ、ナタリオぉっ♡)

 抱きしめられる腕の感触、密着したときに感じる体温。優しい声に、柔らかな唇の感触。それらすべてを思い出しながらちんぽを扱く。

(俺とレニーさんが別人だってわかってるなら、毎日あんなにやらしく触ってくるなよ……っ! 優しく、するなよ……っ)

 中身が別人だとわかっているのに習慣だとか言って、寂しげな雰囲気で俺の同情を誘って。身体がレニーさんなら中身が俺でも気にしないみたいに振る舞ってるくせに、結局やっぱり俺じゃ駄目なんだ。
 ナタリオが好きなのはレニーさんだけ。彼の心の中には、最初からずっと俺なんて存在していないんだ。

「ん、ふぅ゛……っ♡ ン゛……ッ♡」

 悔しさと快感で心がぐちゃぐちゃになっていく。滲んだ視界で便器を見つめ、もう余計なことは考えたくなくて快楽に意識を集中させる。ぐちゅぐちゅという淫らな音を聞きながら、俺は夢中でちんぽを扱いた。

「ぉ゛ッ♡ ぃ゛ぅ゛……ッ♡ ~~~~ッ♡」

 達する瞬間頭に思い浮かんだのは、愛してるよレニーという言葉。脚をガクつかせながら便器の中にザーメンをぶちまけた俺の胸には、虚しさが広がっていった。

(なんで俺は、レニーさんじゃないんだろう……俺もこの世界で生まれて、レニーさんよりも早くナタリオと出会っていれば、もしかしたら……)

 ありえない妄想をしながら目に浮かんでいた涙をシャツで拭い、俺は機械的に後処理を進めていく。
 放った醜い欲望と馬鹿げた妄想をトイレに流して、俺は寝室に戻った。

(レニーじゃなくて、俺の名前を呼んでほしい……)

 自分でレニーさんの名前で呼んでと言ったくせに、自分勝手な考えが頭に浮かぶ。しかしすぐに、疲労感からか頭が働かなくなっていく。物音を立てないようにベッドに入ると、すぐに睡魔が襲ってきた。
 夢の中に落ちていこうとすると、優しく身体を抱きしめられた。よく知っている温かさと匂いに安心感を覚えながら、俺は完全に意識を手放した。

 *

 相変わらず元の世界に戻る方法が見つからない焦燥感と、日に日に募っていくナタリオへの想い。それと同時に重くのしかかってくる罪悪感に苛まれた日々を送っていたある日、突然それは起こった。
 夢から覚めていつものようにキスの雨を受け止め終わったあと、俺はおもむろに口を開く。

「ナタリオ、あの……」
「どうしたの?」

 いつものように楽しげに俺の顔をのぞき込むナタリオと、夢の中の映像が重なる。夢で見た幸せな光景を思い出すと胸が苦しくて鼻の奥がツンとしてくるが、なんとか言葉を続けていく。

「俺、夢の中で見たんです……多分、レニーさんの記憶だと思います」

 最初に思い出すのは普通、幼少期の頃とかじゃないのか。俺は夢の中で見たレニーさんとナタリオの初めてのキスの記憶を話しながら、そんなことを思った。

「もしかしたら……レニーさんの魂はどっかに行ったんじゃなくて、この身体の中にあるのかもしれません」

 今は奥底に眠っていて、俺のと合わせて2つの魂が身体に入ってしまっているのかも。憶測だからレニーさんの魂を戻す方法をこれからも探すけど、もしかしたら俺が元の世界に戻る方法さえわかれば全部解決するかもしれない。そんな感じで、俺は思いついた考えを話す。

「……そうかもしれないね」

 俺の話を聞いたナタリオの笑顔は今まで見た中で一番嬉しそうで、俺の胸は張り裂けそうなくらいにさらに苦しさが増していった。
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