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愛する者の愛し方を間違えた御使いの話
鬼子と鬼子の親。
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御使いは人間の神殿に姿を現しました。
そこには年を取った神官と、大人の修行者と、女の修行者と、子供の修行者がいました。
「あの、親に似ない子はどこにいるか?」
御使いが問うと、年寄りの神官が答えていいました。
「あの子供は、親が慈しんで育てました。
ですがあの子の親ではない親たちがあの子を鬼子と言い、その子供達が親の真似をして鬼子と呼ぶので、胸が裂けそうになってしまい、今は育った家を出て、この神の家に暮らしています」
神官が言い終わると、一番若い修行者が御使いの前へ進み出て、
「私はここにおります」
目をしょぼしょぼさせながら言いました。
御使いはその修行者に、
「親はどうしているか?」
と問いました。
「私は私の親たちを心から慕っておりました。
ですが私の親ではない親たちが私を鬼子と言い、その子供達が親の真似をして鬼子と呼ぶので、二人とも胸が裂けそうになってしまい、今は昔の家を出て、この神の家に暮らしています」
修行者が言い終わると、大人の男の修行者と女の修行者が御使いの前へ進み出て、
「私どもはここにおります」
御使いは鞘から炎の剣を抜き、磨かれた楯を構えました。
神々しい光に、大人達は恐れを覚えて、その場にひれ伏しました。
しかし一人の、回りの大人には似ていない子は、恐れることもせずに、御使いの抜いた剣の光のを浴びて、御使いが構えた楯に映っている自分自身の姿に、じっと見入ったのでした。
御使いはその若い修行者に尋ねました。
「お前の親はどこにいるか?」
若い修行者は答えました。
「ここにいるのが、私の父で、私の母です。神の家にいる者は、私の兄弟です」
御使いはまた若い修行者に尋ねました。
「この楯に映っている姿は、お前の父や母や兄弟に似ているか?」
若い修行者は答えました。
「いいえ、ちっとも似ていません」
御使いはもう一度、若い修行者に尋ねました。
「お前の親はどこにいるか?」
若い修行者はしっかりとした口調で答えました。
「ここにいるのが、私の父で、私の母で、私の兄弟です」
御使いは子供に尋ねました。
「それで善いのか?」
子供は、御使いが思ったとおりの答えを返してきました。
「はい、それで善いのです」
御使いが剣を鞘に収めて楯を倒しますと、眩しい光も消えて、神殿は元の通りの明るさになりました
「神の子らよ」
御使いが人々に呼びかけますと、彼らはその場にひれ伏しました。
御使いは彼らに言いました。
「私は居なくなった子を探して、天の果て海の果て地の果てを回り、ようやく見つけ出した。
私はその子をその子の親の元に送り届けようと考えていた。
だがその子も、自分を育てた者こそが親だといった。
私はそ子を連れずにここへ戻り、ここにいる彼らの子に尋ねた。
先にこの子に尋ねたように、
『お前の親は誰か?』
と。
その子は答えた。
『ここにいる皆が、私の父で、私の母で、私の兄弟です』
と」
言葉が聞こえなくなったので、人々が顔を上げると、もうそこに御使いの姿はありませんでした。
そこには年を取った神官と、大人の修行者と、女の修行者と、子供の修行者がいました。
「あの、親に似ない子はどこにいるか?」
御使いが問うと、年寄りの神官が答えていいました。
「あの子供は、親が慈しんで育てました。
ですがあの子の親ではない親たちがあの子を鬼子と言い、その子供達が親の真似をして鬼子と呼ぶので、胸が裂けそうになってしまい、今は育った家を出て、この神の家に暮らしています」
神官が言い終わると、一番若い修行者が御使いの前へ進み出て、
「私はここにおります」
目をしょぼしょぼさせながら言いました。
御使いはその修行者に、
「親はどうしているか?」
と問いました。
「私は私の親たちを心から慕っておりました。
ですが私の親ではない親たちが私を鬼子と言い、その子供達が親の真似をして鬼子と呼ぶので、二人とも胸が裂けそうになってしまい、今は昔の家を出て、この神の家に暮らしています」
修行者が言い終わると、大人の男の修行者と女の修行者が御使いの前へ進み出て、
「私どもはここにおります」
御使いは鞘から炎の剣を抜き、磨かれた楯を構えました。
神々しい光に、大人達は恐れを覚えて、その場にひれ伏しました。
しかし一人の、回りの大人には似ていない子は、恐れることもせずに、御使いの抜いた剣の光のを浴びて、御使いが構えた楯に映っている自分自身の姿に、じっと見入ったのでした。
御使いはその若い修行者に尋ねました。
「お前の親はどこにいるか?」
若い修行者は答えました。
「ここにいるのが、私の父で、私の母です。神の家にいる者は、私の兄弟です」
御使いはまた若い修行者に尋ねました。
「この楯に映っている姿は、お前の父や母や兄弟に似ているか?」
若い修行者は答えました。
「いいえ、ちっとも似ていません」
御使いはもう一度、若い修行者に尋ねました。
「お前の親はどこにいるか?」
若い修行者はしっかりとした口調で答えました。
「ここにいるのが、私の父で、私の母で、私の兄弟です」
御使いは子供に尋ねました。
「それで善いのか?」
子供は、御使いが思ったとおりの答えを返してきました。
「はい、それで善いのです」
御使いが剣を鞘に収めて楯を倒しますと、眩しい光も消えて、神殿は元の通りの明るさになりました
「神の子らよ」
御使いが人々に呼びかけますと、彼らはその場にひれ伏しました。
御使いは彼らに言いました。
「私は居なくなった子を探して、天の果て海の果て地の果てを回り、ようやく見つけ出した。
私はその子をその子の親の元に送り届けようと考えていた。
だがその子も、自分を育てた者こそが親だといった。
私はそ子を連れずにここへ戻り、ここにいる彼らの子に尋ねた。
先にこの子に尋ねたように、
『お前の親は誰か?』
と。
その子は答えた。
『ここにいる皆が、私の父で、私の母で、私の兄弟です』
と」
言葉が聞こえなくなったので、人々が顔を上げると、もうそこに御使いの姿はありませんでした。
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