異世界転移したのに無双イベントが一向に起きない理由の考察と対策について

秋サメ

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竜と姫が、月を仰ぎ見る。その2

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 圏外だったのでスマホは捨てた。充電も切れたし。

 今は普通に森林徘徊中。わかりやすく言えば遭難中。
 特段の力を得ている感覚もないので、スマホを失った今の俺は、はっきり言って魔物の餌以外の何者でもない。

「普通に怖ぇ……!」

 森林は不気味に薄暗く、まだ日があるのかどうかすら判然としない。
 今のところ、危険な動物の気配はないが……慎重に歩みを進めたいところだ。

 つってまあどうせ魔物来たらワンパンで勝つのだろうけどな。

 異世界転生で溢れかえり、零れだした俺TUEEEEE要素が追放と悪役令嬢と婚約破棄をばっこばっこと生み出すこの業界、チュートリアルの派手さと簡潔さで読者を掴んでいきたいところだ。

「――くっ……狼藉者!」

 あっ、そっちのパターン(貴族や姫様をカッコよく救い出したり、痴漢から旧家のお嬢様を救い出すパターンのこと)なんだ……。

 べつにいいけど、ベタすぎじゃない……?
 いいけど……嫌いじゃないから……。
 
 ともあれ突然、ヒロインっぽい声が聞こえたので俺は足音を消して近づいていく。

 わかりやすい構図だった。
 馬車はわかりやすいくらい高級感があって、少女はわかりやすいくらいなんかどっかの高貴な身分っぽくて、そんなん囲んでる男たちは今から俺にやられるモブに違いないのだ。
 というわけで、

「おい、贄ども!!!」

 俺はそう叫んで茂みから飛び出した。
 叫んでから思ったんだが、「おいにえども」って口にすると伝わらない危険性があるな。アニメ化したときとか大丈夫だろうか。声優の技量に期待したい。

「おい……」
「てめえは…………」

 数人が俺を見て、ひそひそと言葉を交わしている。

 場の空気が張り詰めていくが、緊張感はまったくない。
 ただ、これから始まる戦闘にわくわくしている。
 これだけ聞くと戦闘狂のルフィだと思われる可能性があるので一応説明すると、まだ見ぬチートスキルに胸を躍らせているのである。
 おい、おまえらもしてるか? いやまあ、これからの展開はあらすじとかタイトルとかに書いてあるからしてないだろうけど、俺はしてるぞ!

 なんだろうなあ、俺のスキル!
 こんなことなら、あれやっとけば良かった。「ステータス、オープン!」ってやつ。
 いやまあこの世界でできるかは知らんけど――――。
 
「うあっ……!」

 身体の内側から、どん、と音がした。

 車に轢かれたのと同じくらいの衝撃に突如襲われて、肺腑の空気が全て口から漏れた。
 なにが起きた?

「……?」

 ……?
 
 ………………?
 
 ……だけでは状況を理解できないと思うので描写したいのだが、
 
 ちょっとまってほしい、俺も、
 
 なんだこれ、分かんねえ、
 
 血が出てて、
 
 苦し、息が
 
 ああ、ここから逆転するとかそういう、
 
 気持ちわるい、目の前が暗くて、
 
 なんかのチート能力、
 
 すごい力に目覚めるとか、
 
 
 苦しい、苦し――――――。

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