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第4章 「エイリアスくん、胃が痛い」
第十四話 「本領」
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剣と爪が衝突し、膂力の差で剣を握った右腕が高々と弾かれる。
「ッ……!」
がら空きになった胴体をすかさず左腕でカバーに入り、高速で胸に迫る爪を左手に握った剣で辛うじて逸らす。
攻撃を逸らされた事で異形の腕が伸びきり、即座には攻撃が来ないと見るや、身体に纏う【纏う暴風】を一部解放。前方に強風を発生させる事で身体を高速で吹き飛ばし、一度距離を取る。
──単純な力比べでは勝負にならないな。
冷静にそう断定し、搦め手を解放する。
「作動」
身体の各部に装備された様々なマジックアイテムがその合言葉で起動。いつでもその効力を発揮出来るようになる。ゴブリン退治と謎の獣討伐で得た報酬で揃えた装備一式だ。まだ完全とは言い難いが、それでも戦闘の幅を広げるに充分すぎる。
エイリアス・シーダン・ナインハイトは決して強い戦士ではない。だが、アイテムによる搦め手を用い、時には器用貧乏と笑われた様々な小技を用いる事で活躍を続け、果ては最強の騎士団にさえ入団を許された程の実力者だ。【斬獲する狼の牙】や【ガームイェン流流砕術】といった真っ向から戦う備えもあるためにたしかに真っ当な戦士としても優秀といえるが、彼の真価が発揮されるのは彼の小技と、適切なアイテム運用が上手くハマった時だった。
「ふっ……!!」
下がった事で出来た距離を走って詰め、右手の剣を右腕を狙って振るう。その一撃は、たしかに強力ではあったが分厚い皮と骨肉に覆われた右腕を切り裂く程ではない。右腕は避ける必要も無いと判断したのか回避することすらせず、攻撃を食らいながらも掌を俺に向けて猛進させる。
『触れれば勝てる。触れるだけで勝てる』。そう思っているのだろう。事実、種族の違いからくる膂力の差は圧倒的で、人間一人くらい力を込めて触れただけで容易に致命傷まで持っていけるだろう。メメルさんのように。
だが、それは攻撃が僕に届けばの話!
「……爆ぜろ、《フェントゥイセン》」
瞬間、僅かに異形の右腕に食い込み浅い傷をつけていた刀身が、焔を立ち上がられて爆ぜた。《フェントゥイセン》は、コロシアムの優勝賞品として手に入れ、以降愛用している二本一組の剣だ。ただの業物というわけではなく歴としたマジックアイテムで、その効果は『刀身に魔法を宿らせる』こと。予め魔法をストックしておくことで、合図一つでその魔法を発動させる事ができる優れものだ。あまり強力な魔法を宿すことは出来ない事が唯一の難点だが。
俺は予め二節程度の爆発魔法を刀身に宿し、一度きりの炸裂する刀身を完成させていた。しかし、二節程度の魔法ではこの異形にダメージを与えることはできない。そんな事は俺も重々理解していた。
しかし爆破の狙いはダメージではない。
爆炎で目をくらませ、不意をついて予想外の行動を起こす事で一瞬でも隙を作る事が真の目的!
「発動」
そして、 畳み掛けるように腰にかけた小さな匣の効果を発動。合言葉とともに匣が開き、中から眩いが漏れ出る。
《日輪の匣》。太陽の光よりも強い光を中に閉じ込めたマジックアイテムで、その光は発動者が狙った相手にだけ害を及ぼす。
普通は目くらましに使う道具だが、本体が靄──闇といえる敵には恐らくこれ以上ない程適したマジックアイテムだ。事実、靄は苦しそうに靄を不定形に流動させている。
そして出来た明確な隙を、俺が見逃す訳はない。
身体は、顎。
刃は、牙。
「【斬獲する狼の牙】──」
俺は理解していた。こいつに俺がダメージを与えられるとすれば、それは最強の【斬獲する狼の牙】しかないと。
狙うは腕。靄への攻撃は無効化される恐れがある。先程と同じ失敗を、繰り返す事だけはしない。
超高速で上下から迫る刀身に、隙だらけの腕は為すすべもなく。
「────くたばれ」
怨みのこもったエイリアスの声とともに、その腕をボトリと落とした。
「ッ……!」
がら空きになった胴体をすかさず左腕でカバーに入り、高速で胸に迫る爪を左手に握った剣で辛うじて逸らす。
攻撃を逸らされた事で異形の腕が伸びきり、即座には攻撃が来ないと見るや、身体に纏う【纏う暴風】を一部解放。前方に強風を発生させる事で身体を高速で吹き飛ばし、一度距離を取る。
──単純な力比べでは勝負にならないな。
冷静にそう断定し、搦め手を解放する。
「作動」
身体の各部に装備された様々なマジックアイテムがその合言葉で起動。いつでもその効力を発揮出来るようになる。ゴブリン退治と謎の獣討伐で得た報酬で揃えた装備一式だ。まだ完全とは言い難いが、それでも戦闘の幅を広げるに充分すぎる。
エイリアス・シーダン・ナインハイトは決して強い戦士ではない。だが、アイテムによる搦め手を用い、時には器用貧乏と笑われた様々な小技を用いる事で活躍を続け、果ては最強の騎士団にさえ入団を許された程の実力者だ。【斬獲する狼の牙】や【ガームイェン流流砕術】といった真っ向から戦う備えもあるためにたしかに真っ当な戦士としても優秀といえるが、彼の真価が発揮されるのは彼の小技と、適切なアイテム運用が上手くハマった時だった。
「ふっ……!!」
下がった事で出来た距離を走って詰め、右手の剣を右腕を狙って振るう。その一撃は、たしかに強力ではあったが分厚い皮と骨肉に覆われた右腕を切り裂く程ではない。右腕は避ける必要も無いと判断したのか回避することすらせず、攻撃を食らいながらも掌を俺に向けて猛進させる。
『触れれば勝てる。触れるだけで勝てる』。そう思っているのだろう。事実、種族の違いからくる膂力の差は圧倒的で、人間一人くらい力を込めて触れただけで容易に致命傷まで持っていけるだろう。メメルさんのように。
だが、それは攻撃が僕に届けばの話!
「……爆ぜろ、《フェントゥイセン》」
瞬間、僅かに異形の右腕に食い込み浅い傷をつけていた刀身が、焔を立ち上がられて爆ぜた。《フェントゥイセン》は、コロシアムの優勝賞品として手に入れ、以降愛用している二本一組の剣だ。ただの業物というわけではなく歴としたマジックアイテムで、その効果は『刀身に魔法を宿らせる』こと。予め魔法をストックしておくことで、合図一つでその魔法を発動させる事ができる優れものだ。あまり強力な魔法を宿すことは出来ない事が唯一の難点だが。
俺は予め二節程度の爆発魔法を刀身に宿し、一度きりの炸裂する刀身を完成させていた。しかし、二節程度の魔法ではこの異形にダメージを与えることはできない。そんな事は俺も重々理解していた。
しかし爆破の狙いはダメージではない。
爆炎で目をくらませ、不意をついて予想外の行動を起こす事で一瞬でも隙を作る事が真の目的!
「発動」
そして、 畳み掛けるように腰にかけた小さな匣の効果を発動。合言葉とともに匣が開き、中から眩いが漏れ出る。
《日輪の匣》。太陽の光よりも強い光を中に閉じ込めたマジックアイテムで、その光は発動者が狙った相手にだけ害を及ぼす。
普通は目くらましに使う道具だが、本体が靄──闇といえる敵には恐らくこれ以上ない程適したマジックアイテムだ。事実、靄は苦しそうに靄を不定形に流動させている。
そして出来た明確な隙を、俺が見逃す訳はない。
身体は、顎。
刃は、牙。
「【斬獲する狼の牙】──」
俺は理解していた。こいつに俺がダメージを与えられるとすれば、それは最強の【斬獲する狼の牙】しかないと。
狙うは腕。靄への攻撃は無効化される恐れがある。先程と同じ失敗を、繰り返す事だけはしない。
超高速で上下から迫る刀身に、隙だらけの腕は為すすべもなく。
「────くたばれ」
怨みのこもったエイリアスの声とともに、その腕をボトリと落とした。
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