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第五章 「火の国、動乱」
第五話 「神代」
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「えー、では……終了条件はどちらかが死ぬまでってことで。お二人さん、よろしいかな?」
「無論だ」「問題ないよ」
僕は改めて装備を整え、右手の中指に【神装・極聖神殿】を装備した状態で団長の前に立つ。
この終了条件は、仕方がないのだ。団長はこれ以外の条件で試合を受けない。彼にとって、試合とはその悉くが死合いなのだ。
尤も、それも団長が今ご存命でおられることからわかるように僕が状況的に圧倒さえすれば反故にできる契約に過ぎないのだが。
団長が正眼に構える、僕の身の丈よりも遥かに巨大な両手剣。斬る、というよりも叩き潰すという言葉が的確だと思える漆黒の刀身のそれこそが、【神装・極聖神殿】と対を為す神器。【神装・漆黒冥闇】に他ならない。
「では、双方準備もよろしいようだ。この手を振り下ろすことを開始の合図とするよ」
────────
極限まで神経を研ぎ澄ます。
この集中がほんの少しでも途切れては彼の前に立っていることは出来ない。
最悪、最初のコンマ一秒で首が飛ぶことすらあり得る。
彼我の実力差はそれほどまでに圧倒的。
某国民的RPGで例えるのなら、僕がスライムなら団長はさまようよろいだ。
アリア○ン周辺に出てこられた日には、ゲームは詰み、箱が積まれるレベルである。
「………………ッ!」
腕が振り下ろされる。と同時に。いや寧ろ早く。強烈な踏み込みとともに団長の剣が僕の頸もとに迫り来る。
幸い切っ先が届くかどうかくらいだったので、首を軽くスウェーの要領で背後に下げ、辛うじて回避。
風圧で首の皮が切断されてか、完全に躱したはずなのに鋭い痛みが走る。
それを認識している間もなく、視界から団長が消えている。
「起動! 【動かない座標】!!」
叫ぶと同時、座標を自分の首の後ろに打つ。
ガギャァン!! という激しい金属音。僕は振り向くことなく足を背後に突き出し、背後にいるだろう団長に蹴りをくれる。
それは彼の胴体部の鎧に命中し、彼が数歩後退したことで僕はようやく態勢を立て直す。
ふう、と短く強く息を吐く。
強い、としか言いようがない。
目の前から標的が消える、なんて事象をあの恐るべきケモノ以外に起こす者がいて、それが人間とは信じたくもない。驚異的な瞬発力。
その巨大な刀身には相応の重量が存在するはずなのだが、まるでそれが紙ででもできているかのように団長はそれを軽々と振り回す。其処まで大柄でもないのに膂力も人外じみている。
もしこれが戦場であり、僕と団長が初対面とかなら確実にもう死んでいる。五回は死んでいる。
座標で凌いだのにしたって、それ以前に視界からいなくなったから後ろにいるだろうと混乱せずに即座に対応できたのすら。相手のとてつもない強さをあらかじめ知っており、彼の人間性に深いところまで触れていた時期があるために人読みが可能だったからにすぎない。
ぎりぎりの綱渡り。はっきり言って挑んだのは無謀だったかとも思う。
でも、後悔はしていない。
「……準備運動はこれくらいでいいだろう。そろそろお互いに本領を発揮するとしよう」
「言ってくれますね……! 僕の方はもう、いっぱいいっぱいなんですが……!」
「戯言をぬかすな。反吐が出る。いい加減にこのような下等な争いはやめ、神代の闘争に至るとしよう──!!」
ため息を吐く。
だが、どのみち彼に勝とうとするならこれしかない。
僕は指輪を手ごと前に突き出し、輝くそれに命令を下す。
「…………来たれ。何人にも触れることを許さぬ貴き社。【神装・極聖神殿】!!」
「有象無象の区別なく。昏き底へと牽引せよ。【神装・漆黒冥闇】」
瞬間。日光が差すガルムエントに、夜が来た。
「無論だ」「問題ないよ」
僕は改めて装備を整え、右手の中指に【神装・極聖神殿】を装備した状態で団長の前に立つ。
この終了条件は、仕方がないのだ。団長はこれ以外の条件で試合を受けない。彼にとって、試合とはその悉くが死合いなのだ。
尤も、それも団長が今ご存命でおられることからわかるように僕が状況的に圧倒さえすれば反故にできる契約に過ぎないのだが。
団長が正眼に構える、僕の身の丈よりも遥かに巨大な両手剣。斬る、というよりも叩き潰すという言葉が的確だと思える漆黒の刀身のそれこそが、【神装・極聖神殿】と対を為す神器。【神装・漆黒冥闇】に他ならない。
「では、双方準備もよろしいようだ。この手を振り下ろすことを開始の合図とするよ」
────────
極限まで神経を研ぎ澄ます。
この集中がほんの少しでも途切れては彼の前に立っていることは出来ない。
最悪、最初のコンマ一秒で首が飛ぶことすらあり得る。
彼我の実力差はそれほどまでに圧倒的。
某国民的RPGで例えるのなら、僕がスライムなら団長はさまようよろいだ。
アリア○ン周辺に出てこられた日には、ゲームは詰み、箱が積まれるレベルである。
「………………ッ!」
腕が振り下ろされる。と同時に。いや寧ろ早く。強烈な踏み込みとともに団長の剣が僕の頸もとに迫り来る。
幸い切っ先が届くかどうかくらいだったので、首を軽くスウェーの要領で背後に下げ、辛うじて回避。
風圧で首の皮が切断されてか、完全に躱したはずなのに鋭い痛みが走る。
それを認識している間もなく、視界から団長が消えている。
「起動! 【動かない座標】!!」
叫ぶと同時、座標を自分の首の後ろに打つ。
ガギャァン!! という激しい金属音。僕は振り向くことなく足を背後に突き出し、背後にいるだろう団長に蹴りをくれる。
それは彼の胴体部の鎧に命中し、彼が数歩後退したことで僕はようやく態勢を立て直す。
ふう、と短く強く息を吐く。
強い、としか言いようがない。
目の前から標的が消える、なんて事象をあの恐るべきケモノ以外に起こす者がいて、それが人間とは信じたくもない。驚異的な瞬発力。
その巨大な刀身には相応の重量が存在するはずなのだが、まるでそれが紙ででもできているかのように団長はそれを軽々と振り回す。其処まで大柄でもないのに膂力も人外じみている。
もしこれが戦場であり、僕と団長が初対面とかなら確実にもう死んでいる。五回は死んでいる。
座標で凌いだのにしたって、それ以前に視界からいなくなったから後ろにいるだろうと混乱せずに即座に対応できたのすら。相手のとてつもない強さをあらかじめ知っており、彼の人間性に深いところまで触れていた時期があるために人読みが可能だったからにすぎない。
ぎりぎりの綱渡り。はっきり言って挑んだのは無謀だったかとも思う。
でも、後悔はしていない。
「……準備運動はこれくらいでいいだろう。そろそろお互いに本領を発揮するとしよう」
「言ってくれますね……! 僕の方はもう、いっぱいいっぱいなんですが……!」
「戯言をぬかすな。反吐が出る。いい加減にこのような下等な争いはやめ、神代の闘争に至るとしよう──!!」
ため息を吐く。
だが、どのみち彼に勝とうとするならこれしかない。
僕は指輪を手ごと前に突き出し、輝くそれに命令を下す。
「…………来たれ。何人にも触れることを許さぬ貴き社。【神装・極聖神殿】!!」
「有象無象の区別なく。昏き底へと牽引せよ。【神装・漆黒冥闇】」
瞬間。日光が差すガルムエントに、夜が来た。
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