佐藤君のおませな冒険

105. ヤヌスの肛門②

　夜のくつろぎの時間、風呂場でシャワーを浴びるついでに軽く直腸の洗浄を行った。じっくり大量浣腸を味わうのも乙なものだが、明日も仕事なのだし手短に済ませることを優先した。
　そして湯船に浸かる。肛門を愛でるのは久々の私であるので、体を温めて肛門を解れやすくするのが得策だろう。普段はシャワーで済ませてしまう日も多いが、やはり入浴は格別に疲れを癒すと実感する。しかし、この空間でリラックスとは真逆の行為を何度も行ってきたのだ。次はどんなことをしよう。西田君と佐藤君を縄で縛り上げた状態で同時に浣腸し我慢比べなんて楽しそうだ。しかし、それだと西田君が負けるに決まっているから可哀想か。西田君が耐えきれずに懇願する様がありありと目に浮かんで思わず唇の端がキュッと上がった。惨めな君は愛らしい。私の下半身は既に硬さを兆していた。しかし、今日は久々の肛門気分だ。ここは我慢して、体も温まったことだしもう上がろう。湯船から立ち上がると、湯気が体を包み込んだ。
　脱衣所で体を拭き、準備しておいた特別な下着を手に取った。女もののランジェリー。以前はこれを着用して京子さんに思いを馳せることもしばしばだったが、もうずっと身につけることはなく、しかし捨てることもできずに、タンスの奥深くに眠っていた。私がこれに頼らなくなったのは、どう考えても西田君の存在によるだろう。寂しさを紛らわせるためが始まりだったかもしれない。未だに、苦しむ君の姿に夏の日がだぶることもある。それでも、確実に君は私の中で生きていて、君への執着で苦しむこともあるのだよ。例えば、君と佐藤君が兄弟か親友かみたいに慣れきった感じでおしゃべりしているのを見て、私は微笑ましいと思うんだ。本当にそう思うんだ。それなのに、微笑ましさが時に羨ましさに変化し、羨ましさがどどめ色の嫉妬に変わって、私は私の身勝手さに苦しくなる。その苦しみの甘美さは過去の私にはなかったものだ。私は君と佐藤君が与えてくれるこの苦しみを愛してさえいるんだよ。
　恭しくパンティを両手で広げてまじまじと見つめた。繊細なチュールとリバーレースが肌を透かして彩れば、女性の肉体は真っ裸よりも官能的になるだろう。うっとりとなよやかな気分で、私はそのパンティに脚を通した。股間は透け感のある生地、臀部は華やかなレースで覆われる。昂りが薄手の生地を押し破らんとして卑猥だ。私は悩ましく息を吐いた。
　次にパンティとお揃いのブラジャーを手に取った。イタリア製のそれは日本のものと違ってカップ部分にパッドがない。つまり乳房と乳首が透けて見える作りだ。しかし安物にありがちな下品さはなく、あくまで優雅に見せてくれる。私は久しぶりとはいえ慣れた手つきで着用した。ああ、このワイヤーが骨に当たる違和感。背筋をぞくっとした何かが駆けた。
　私は寝室に移動し、部屋の片隅にある全身鏡の前に立った。今はもう体毛の処理をしていない。肌も大学生のころのような滑らかさはない。もう二度と帰らない若い日の美しさを喪失した自分の姿に悲しくなる。しかし、こうも思う。私の姿形が昔よりも醜いからこそ、悪趣味な倒錯に酩酊を覚え、何か新たな世界が開ける予感めいたものがある。
　いったいどちらの私が本当なのだろうね。今、鏡に映る姿か、それとも年若い男を傲慢とも見える態度で扱う姿か。教師として無難に教鞭を執る私か、それとも倫理を侵して生徒との関係に没入する私か。自分の良心が実に軽薄で何かが欠けている、この感覚だけが確からしかった。