佐藤君のおませな冒険

円マリ子

文字の大きさ
46 / 116

46. 交換日記③

しおりを挟む
 堤防のすみに自転車を停めて河原へと降りた。真夏は草いきれで苦しいほどだが、九月も末になると夕方は過ごしやすい。
 俺たちは川べりのコンクリートブロックに座った。

「日記、一緒に選んでくれてありがとう。」
「うん、僕も楽しかった。」
「西田……西田はどうして友達を作らないの?」
「必要ないから。」
「違うだろ、俺に嬉しいと言ってくれたじゃないか。」
「それはそうだけど。」
「俺は心配なんだよ。これから進学したり社会に出たりするけど、ずっと人付き合いはついて回る。だから少しずつ慣れていかないとさ。」
「僕だって分かってるよ!それくらい分かってる……でも、人に嫌われるのが怖い。」
「怖いから、そもそも付き合わなければ嫌われないってこと?」
「そうだよ、ずっとそうしてきた。」
「何故そんなに怖がる?橘先生や俺と話すときみたいに自然にしていれば嫌われないと思うけどな。」
「君は人から嫌われたことないからそう言えるんだ。僕はずっとずっと……。」
 西田はじっと一点を見つめて黙りこくってしまった。余計なお世話だったのだろうか。
 人に嫌われるのが怖いー確かに俺は、そんなことを感じた覚えがない。そうである以上、俺はその言葉の重さを本当には分かっていないのだと思う。
 どうしたら君をもっと理解できるのだろうか。俺には無理なのだろうか。そう思うと悲しさと悔しさがないまぜになって、目頭が熱くなった。
「俺さ、もっと君のことを知りたいんだ。どんな経験をして、どんなことを考えてきたのか。でも、立ち入りすぎたのなら謝る。」
「佐藤君……。君、泣いてる?目が……。」
 まだあふれてはいないけど、確かに涙が溜まっている。鼻の奥も痛い。
「君は、俺に嫌われるのが怖いと言った。先生に嫌われるのを怖がっていた。今も人から嫌われるのが怖いって。そんなふうに感じてしまうのは何故なんだろうと考えると、悲しくなる。」
「佐藤君……。」
「そりゃ俺には理由を聞いても分からないかもしれないよ。いつか話したくなったら、教えてほしい。」
 二人で川の流れを眺めていた。川風が優しく頬を撫でて気持ち良い。川面が夕焼けの色に染まって穏やかに揺れていた。
「もう暗くなる、帰ろうか。」
 西田にそう言いながら俺は立ち上がった。
「佐藤君、交換日記の一日目は僕が書いてもいいかな?」
「もちろん。」
「さっきの話、日記に書くよ。」
「西田!」
「そんな驚いた声出さなくたって。君が聞いてきたんだよ。」
「そうだけど、無理してないか?」
「大丈夫。先生にはこの話、したことあるんだ。だから君にも。」
 橘先生!先生はこんなにも西田の拠り所なのだ。先生は歪んだ愛と言っていたけれど、そうなのだろうか。

 自転車まで戻ると、家の方角が反対なのでそこで別れた。
 もうすっかり日が沈みあたりは暗くなっていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

BL短編まとめ(現) ①

よしゆき
BL
BL短編まとめ。 冒頭にあらすじがあります。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...