佐藤君のおませな冒険

円マリ子

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50. 内なる欲望の囁き②

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 アパートに到着すると、今日は西田の部屋に通された。ベッドと勉強机があるのは俺の部屋と同じだが、タンスではなく本棚があるのが目を引いた。そういえば、休み時間に読書をしているのを見かける。
「ちょっとベッドにでも座ってて。アナルプラグはクローゼットに隠してあるから今出すね。」
 西田がクローゼットでごそごそしている間、俺はベッドに座って本棚に並ぶ背表紙を観察した。文学作品が多いみたいだ。一番上の段を見ると、サドやマゾッホの名前がある。読んだことはないが、サディズムとマゾヒズムの由来だという知識ならある。その不穏さに、情事に耽る君の姿がよぎって、淫靡さに頭がくらくらした。
「本棚の一段目、過激そうな本があるけど面白いの?」
「それね、自分が変態だから、倒錯的な物語が気になってしまうんだよね。作風はいろいろだから正直そんなに面白くないと思った小説もあるよ。」
「じゃあ、西田が一番好きなのはどれ?俺も読んでみたい。」
「僕が好きなのは……バタイユの『眼球譚』かな。不潔だし殺人も出てくるから、佐藤君が気に入るとは思えないけど。」
「いいよ、君と同じ本を読んでみたいんだから。貸してもらえないかな?」
「いいよ、持っていって。返却はいつでもいいからじっくり読んでみて。僕がその本好きな理由、知りたい?」
「うん。」
「ふふ、その本読んだら勃起しちゃったんだ。」
「えっ。」
「あとがきによると哲学的な内容らしいけど、僕はそんなの分からない。そんなことよりオカズになったから好き。」
 俺は文学作品で自慰をするなんて経験がないので驚いた。
「橘先生に『眼球譚』でオナニーした話したら、びっくりしてたよ。先生さ、『私は読んでもそんな気分にならなかった、君はかなりこじれている。』なんて真顔で言うから笑っちゃった。」
 二人のやりとりが目に浮かぶみたいだ。
「じゃあ、お借りするね。」
 そう言って俺は本棚から『眼球譚』を取り出した。そしてカバンにしまっているとき、西田が「ねえ、見て。」と言った。
 俺が西田のほうを向くと、西田は後ろに手を組んで隠し持っていたものを披露した。これがアナルプラグなのか。西田は手に黒い塊を乗せていた。それは先端が細くだんだんと太くなりまたすぼまって、その下に柄のような部分があり、一番下には手で掴みやすいように台座がついていた。実物を見るとイメージよりもっと大きくて存在感がある。これがあの西田の小ぶりな尻に納まるというのか。
「本当にこれが入るの?」
「入るよ。今度、途中経過を橘先生に見てもらおうと思ってるから、佐藤君も見ててね。」
「う、うん。」
「あとね、これが僕がアナルフィストに憧れたきっかけ。」
 そう言って西田は一冊の『マニアの楽園』を差し出した。アナルプラグをいったんベッドの上に置くと、手にした雑誌のあるページを僕に見せた。
「読者投稿のページに、アナルフィストの写真が載ってたんだよね。」
 そこには肛門から腕が出ている姿が写っていた。言葉で聞くよりも衝撃的で、顔がこわばった。見てはいけないものを見てしまった気になった。こんなことをして、本当に体は大丈夫なのだろうか、西田の肛門が壊れてしまいそうで恐ろしい。
「どう?怖い?気持ち悪い?」
「……。」
 不安そうに西田に尋ねられ、返事をしなければと思うのに衝撃が強すぎて言葉が出なかった。西田は、ページを指でなぞりながら、どこか恍惚とした表情を浮かべていた。
「やっぱ気持ち悪いよね。僕もこの写真で初めてフィストファックを見たんだ。最初は怖くて気色悪かった。でも、頭から離れなくて、何度も何度も見ちゃうんだ。そしたら、授業中に黒板に文字を書く先生の手が思い浮かんだんだ!」
 西田の口ぶりがだんだんと熱を帯びるのが分かった。その目は夢見るように、遠くを見ていた。俺は先生の手を思い浮かべてみた。そして君の弛んだ肛門も……。
「あの端正な先生の御手が僕の体の中に入ってしまうと想像したら、お尻が燃えるように熱くなって、肛門がまるで火の輪にでもなったみたいな感覚に襲われた。」
 西田の語る、嫌悪を感じつつも抗いがたい欲望に呑まれる興奮、それは俺にも覚えがある。体の奥底から重い快楽と苦しさが膨らんで、しまいには体中を埋め尽くすのだ。そして今、君の心象に共鳴するように俺の体に反応が現れた。尻がじれったい。犯されたいと思った。俺の肛門は、熱い杭を求めてひくついた。
「最初は先生にこの願望を打ち明けるのはためらった。極端な行為だし、肛門を拡張したらガバガバになっちゃうから先生は嫌がるんじゃないかと思ってさ。でも、どうしても我慢できなくて言ってしまった。そしたら、先生は当然のように協力すると言ってくれたんだ。嬉しかったなぁ……。」
 さっきから君の口は先生ばかりを語る。それが少し寂しかった。俺だってここにいるじゃないか。
「お、俺も協力するよ!」
 先生だけじゃないと言いたかった。俺も君を思っている。
「佐藤君、そうだね。ありがとう。だから僕も、先生や君の望みはどんなことでも聞きたい。僕ってなんでもアリだしね、ふふふ。」
 そういうと西田は俺の尻を掴み、誘惑するように言った。
「君の願望を聞かせてよ。」
 俺の願望……先生の意のままになること、西田と一緒になること、それから、それから……。尻がますます疼いた。俺は西田にしなだれかかって言った。
「君に犯されたい。」
 今の俺は恋人というよりは、被虐的な気分に酔っている。図書館での行為が尾を引いていた。
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