佐藤君のおませな冒険

円マリ子

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63. お見舞い③

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 室内に入ると西田は勢いよくドアを閉めた。そしてドアにもたれかかって言った。
「本当は……本当はズル休み。」
 予感が的中した。やはり悩み事だった。俺は手を握りしめて西田の次の言葉を待った。
「日記を書いて渡したのはいいけど、返事をもらうのが怖くなっちゃって。僕って昔からこうなんだ、逃げちゃうのが癖になってる。僕が病欠したときはズル休みだって思ってくれていいよ、アハハ。こんなんじゃ、ちゃんとした大人になんてなれないよね。」
「そう自分を悪く言うなよ。俺だってそうだよ。本音を隠すことで厄介事から逃げている。」
「違うよ、それはうまく対処してるんだよ。僕とは全然違う。僕は本当に逃げちゃう。」
「逃げるのってそんなに悪いことかな。例えば洪水が起こったら逃げないと死んじゃうだろ。」
「はぁ……それは極論ってもんだ。無理して僕を庇わないでよ。」
「君はしょっちゅう自分で自分をいじめているように俺には見えるよ。」
「アハッ、そうかもね。だって僕マゾだもん。」
 西田は急におどけて、真面目な会話を終わらせようとしている。俺はまだ終われないと思い、西田が逃げないよう彼の肩の両横に手を突いて、じっと目を見た。西田はすぐさま目を逸らした。それが妙に癪に触った。イライラした。最初それは西田の態度に対してだと思ったが、しばらくすると己の無力さに対してだと気がついた。どんな言葉を尽くせば西田に真っ直ぐ響くのか分からない自分への苛立ちだった。
 俺は西田をそっと抱きしめた。人肌の優しさが心を和らげるようにと願いながら。しかし、今日の西田は頑なだった。俺の腕から逃れようと身をよじったが、俺のほうが腕力はあるので徒労に終わった。西田は観念したのかじっと動かなくなり、今度は饒舌になった。
「抱っこされたくらいで誤魔化されないよ。本当の僕、汚い僕……先生に会って会話してたらどうしようもなく欲情しちゃった。で、先生のおちんちん舐めてあげようとしたんだけど、ルール違反だって断られちゃった。当然、僕はルールのことを覚えてた。それなのに破ろうとした。君を裏切ろうとした。それどころか、先生のをしゃぶりながら自分のを扱く浅ましい僕の姿を、君に軽蔑の眼差しで見られるのを想像して、ギンギンになっちゃった。僕ってそんな奴なんだ。呆れるでしょ。ふふ、ふふふ。」
 西田はそこまで言って一度大きく息を吸うと、続けて捲し立てた。
「なんなら今も、自分で話してたら思い出して勃ってきちゃった。真面目な話の最中なのにね。君のこと好きなのに、自分でもよく分かんないよ。」
 俺は彼の話に引き込まれて、体内で熱が渦巻くのを感じた。もしかしたら俺は、親切を装って、自分さえも騙して、ここに来たのかもしれない。本当の目的はもしかしたら。
「君のことも先生のことも、僕は堕落して傷付けるんだ。アハッ、アハハハ。」
 俺は西田に体を密着させ、下半身を押し付けた。西田は「あっ」と小さく驚きの声を上げ、息を吸い込んだ。
「俺だって堕落してる。西田と同じだよ。」
 西田の熱を感じたくて、一緒に堕ちてしまいたくて、更にぐいと押し付けた。西田の目を見た。西田は熱に浮かされた目で俺を見返し、熱い息を漏らした。
「俺に軽蔑されたいの?」
 西田が冷たくされたがっていると感じたから、俺はいつもより冷たい口調だった。
「嫌だっ……嫌だよ、君に嫌われたくない。分かんない……あぁっ、……。好き、好き、でも君に好かれるのがどこかで怖い。」
 西田の興奮は俺の冷たさに反応して明らかに昂まった。君を軽蔑はできないけれど、少しくらいの意地悪は俺だって……そこまで考えて、俺は自嘲した。俺はいつもこうだ、性的欲求に流されてしまう優柔不断さ。君の汚いという言葉が俺の本性を暴くように感じ、君の熱が俺の欲望を煽って抑えきれなくなった。軽蔑されるべきは俺なのかもしれない。でも、肉体の繋がりが精神を繋ぐこともあると思う。実際、俺はそれで心を開けるようになったと思うのだ。これは言い訳かもしれない。でも、言葉を持たない俺にはこうするしかない。
 西田も激しく俺に股間を擦り付けて感じていた。擦れるたびに熱い吐息が首筋を濡らし、細い肩が小さく震えた。まるで何かに取り憑かれたみたいな必死さがあった。君の必死さに俺は応えたい。このまま君の熱に応え続ければ、君にもっと近付けるのか、それとも傷を深めるのか分からない。でも、君の熱に飲み込まれて、君の中に飛び込みたい、そう思った。
「はぁはぁ……佐藤君、僕に罰を与えて、僕に奉仕させて。お願いだよ。」
 君は罰を受ければ、奉仕をすれば、自分を許せるの?俺は心の中で問いかけた。もしそうならば、俺はそれを厭わない。
 俺はズボンのボタンをはずしファスナーをおろすと、己の一物を取り出した。西田は小さく驚いた素振りをした後、それを凝視した。その瞳は潤みながらも妙に澄んでいた。
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