佐藤君のおませな冒険

64. お見舞い④

　西田は跪くと静かに両手でそれを支えて口に含んだ。まるで神聖なものを扱うように恭しい動作だった。さっきまでの興奮した様子が嘘のように落ち着き、“静謐”という言葉が浮かんだ。
　その様子が俺を少し冷静にさせ、現実的にさせた。廊下を歩くスリッパの音が聞こえた。西田のお母さんがいる、もし急にドアを開けられたら……それは恐ろしいことなのに、再び俺の興奮を高め、急速に血流が集まるのを感じた。
　西田はそんな俺とは正反対で、行為にひどく集中していた。俺は初めて先生に口で奉仕したときのことを思い出した。あの時の俺は、こんな様子だった気がする。切実なひたむきさとでも言おうか。西田は罰を求めて奉仕している、ふとそんな考えが閃いた。
　それにしても罰とはなんなのだろうか。俺にとっての罰は、第一に親父からの体罰だ。それはただただ恐怖の対象だった。俺が子供だったからか。いや、違う。父は俺の中の女性的な部分を憎み打ち据えた。罰を与えるための罰だった。
　同じ打ち据えられるのでも、橘先生にされるのは全く違った。泣いていた子供の俺をそのまま受け止めてくれているような気がした。それは言い換えれば赦しなのかもしれない。
　俺は赦すための罰を西田に与えよう。でも……！俺は人に罰を与えられるような人間じゃない。だから、罰を与えるごっこ遊び……西田と俺とのやりとりもごっこ遊びから始まった。俺たちの関係はどこまで行ってもごっこ遊びなのだろうか。
　おもむろに西田の髪を掴んだ。指からすり抜けそうなほどさらさらして美しい。髪を後ろへ引っ張って顔を上げさせた。西田は驚いた目をしていた。上を向いた弾みで、口から俺の陰茎がぽろんと飛び出した。ぽかんと開いた口がかわいくて口付けしたい衝動にかられたが我慢した。
「罰として、喉を使わせてもらうよ。お母さんがいるんだから静かにね。」
　俺の声は緊張で少し震えた。西田はこくんと頷き、俺の目を見た。やはりその目は澄んでいた。
　俺は先生にも西田にも喉を使われたことがある。素手で尻をぶたれるほうが罰らしい雰囲気がある気もするが、こちらのほうがよっぽど辛い。俺にうまくできるだろうか。果たしてこの行為が西田の求めるものなのか、それとも俺の押し付けなのか確信が持てない。だが、西田の瞳の様子を信じることにした。
　俺は両手で西田の頭を固定すると、開いた口に陰茎を突き入れた。ずずっと進め、根元まで西田の中に収めた。西田は苦しそうに眉間に皺を寄せ、声にならないうめきが漏れた。かわいそうになるが、抽挿を開始した。徐々にスピードを早める。リズミカルに、ごぷごぷと音を立てながら、性欲を発散させるためのものとして扱うように。
　再びスリッパの足音と床板が軋む音が聞こえた。一瞬、動きを止めたが、部屋の前を通り過ぎたので再開した。西田はお母さんに恋人がいると言っていた。あのキツそうなお母さんも男の陰茎をしゃぶったりするのだろうか。妙に生々しく思えて、膨張した。俺はたまに男であるのが嫌になる（しかし、女になりたいわけではない）。男の欲望はあからさま過ぎる。こうしてすぐに反応して見た目に丸分かりなのだから、滑稽だ。
　西田の目尻に涙が浮かび、口からは粘度の高いよだれがダラダラと無様に垂れた。恥も外聞もない様子がたまらなくかわいくて、俺は西田の顔に触れた。形を確認するみたいに、額や鼻や頬や、顔中を撫で回した。本当は舐め回したかった。西田のどこもかしこも全てを。西田は信頼し切った様子で目を閉じていた。