佐藤君のおませな冒険

円マリ子

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84. 鶏遊び⑤

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 先生はローションまみれになった西田の尻と自分の手をティッシュペーパーできれいにした。西田は安堵の表情で四つん這いから起き上がった。俺は勝手に私語をしていいのか迷ったが、我慢できずに西田に話しかけた。
「すごいね、本当にあんなのが入るんだね。びっくりしちゃった。」
「別にすごくないよ。時間をかければいいだけだもん。」
「西田はすぐ謙遜する。俺がすごいと思ってるんだからそれでいいだろ。」
「ありがと……佐藤君も4.5センチくらいなら入るんじゃないかな。そんな感じする。」
「えっ、そんなことまで分かるのか。」
「なんとなく触った感じでそう思うだけだよ。」
 左手の親指と人差し指を4.5センチくらいに広げてみる。いや、無理だろ、と思う。
 神妙な面持ちで自分の手を見つめる俺を見て西田は微笑んでいたが、先生が俺たちの様子をじっと観察しているのに気がつくと一瞬はっとして、ベッドの上で正座し、居住まいを正した。
「先生、ありがとうございます。」
「そのプラグはあげるから、自宅でも使うんだよ。」
「はい。」
「今日はまだ入れたままにする。私が許可するまで出すんじゃないぞ。」
「はい。」
「さあ、次は佐藤君、君だよ。」
 急に話を振られてどきっとした。
「西田君から『眼球譚』の話を聞いたよ。あの小説の中の重要なモチーフの一つは“玉子”だが、人間に一番馴染みのある卵はニワトリの卵だね。」
「はい。」
「それで、ニワトリから連想してね。君らは鶏姦けいかんという言葉を知っているか。」
 頭の中に“景観”の文字が浮かんだが、そんな誰でも知っている言葉について問うはずがないので質問した。
「それはどういう字を書くんですか。」
にわとりけい強姦ごうかんかんだ。」
 すると西田が口を挟んだ。
「それなら分かります。」
「さすが読書家だ。意味を言ってごらん。」
男色なんしょくのことです。」
「正解だ。とり一穴いっけつという言葉もあってな、鶏は総排泄腔と呼ばれる穴が一つあるだけだ。そこから糞尿もすれば交尾もする。雌ならば産卵も行う。だから男性同士が一つの穴、つまり肛門で性交するのとかけているんだろう。」
 先生は顔色ひとつ変えずに話しているが、その内容の気まずさに目を伏せ、横目で西田の様子を伺った。西田は真っ直ぐ顔を上げて先生の話に聞き入っている。いたって真面目な顔をしているが、今も大きな塊を肛門に咥え込んでいるのだ。まぶたの裏にプラグが出てくる様子が蘇った。それは少し産卵に似ていると思い、先生の思惑がわずかに分かった気がして喉の奥が震えた。欲望が骨の髄まで染み込んで、俺の心が待ちきれないと囁く。
「佐藤君、ちゃんと聞いているか?」
 先生の目が俺を射抜いた。先生はもう俺の欲を知っている。先生はそういう人だ。俺は不安と期待に胸を焦がしながら先生を見た。強く視線が絡んだ。
「佐藤君にはニワトリになってもらう。ニワトリは外部に晒した性器がないから、これはいらない。」
 先生が俺の性器をやんわりと手で包んだ。ずんと重く、だが甘い毒が全身に回って俺を冒す。
「反応してしまう前にさっさとこれを。」と言うと、先生は見慣れぬ器具を手際よく俺に装着しながら、この器具は貞操帯だと教えてくれた。
 まず片側に金属製のリングが付いた革製のベルトのリング部分を俺の性器にはめ、陰嚢の付け根に配置し、ベルトを腰に巻いて固定した。次に、銀色に輝く小さい筒状の金属製容器の中に陰茎を納め、リングと容器を接続(リングに突起が付いており、それが容器にある穴にぴたりとはまる)した。容器上部には鍵穴があり、鍵をかけると外せなくなってしまう。そうすると俺はもう勃起さえすることもできない。
 先生が鍵を掛けた。カチリと無機質な音が、心も去勢されたような惨めさを喚起し、そこに暗い悦びが見え隠れする。俺の哀れっぽい様子に、先生は嬉しそうに目を細め腰を撫でた。悪寒のようなざわめきが肌を伝った。
「君は生まれたてのヒヨコだ。家畜としてのニワトリのヒナは生まれるとすぐに雌雄鑑別を行って雄と雌に分けられるが、その鑑別方法に肛門鑑別法がある。実に佐藤君にぴったりだと思わないか、なあ西田君。」
 同意を求められた西田は、最初こそ言い淀んだが、俺の期待に濡れた瞳に呼応するように、蠱惑的に舌が動いた。
「はい、肛門マゾの佐藤君にはぴったりだと思います。」
 言葉になぶられ、今日初めて聞いた単語の数々がぐるぐると回り出した。鶏姦、総排泄腔、貞操帯、肛門鑑別法……。その時、俺は卑しい一羽になっていた。
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