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1章

味覚

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 腕装備を受け取ってから数日がたっているのだが、キャリーさんがまだ戻ってこない。

 
「キャリーさん遅いね、まだ帰ってこないね、手こずってるのかな?」 
「うん、心配だねヒデ兄師匠、ところで何やってるの?」

「風林火山の兄弟が出来たからさ、持つとこの後ろに名前彫ってるの」
「ふ~ん、手切らないでね」
「フフン、大丈夫だよ、昔も木刀に彫った事あるし。あの時は彫刻刀だったけど、ナイフだと難しいな」
「みんな、同じに見えるけどどれがどれだか見分けつくの?」

 裏の所に火と漢字で彫りながら。
「フフ、つくさ~ほら見てごらんザン様は少し大きいでしょ?リンさんは少しスリムだし、カちゃんは一番小ぶりだけど元気いっぱいさ。フウ君はこう、落ち着いた感じがにじみ出てるし、ね、つくでしょ」

「…………ウン、ソウダネ」


「よ、ヒデさんいる?」
「ん、なに、久し振りに見たね、どっか行ってたの?」
「クエストでブラックタイガー退治」
「え、キャリーさんと一緒?」
「ああ、でキャロラインさんから伝言預かってる」
「何々?怪我とかしてないよね?」
「クエストは、キャロラインさん来たら直ぐ片付いた。その後村に怪我人やら病人やらがいたから少し治療して様子見るから、戻るの遅れますって、さ」

「そうなのか、伝言ありがとね」
「おう、気にすんなじゃあな」
「はい、お疲れ様」
「ヒデ兄師匠ニッコニコだね」
「う、そう?キャリーさんの無事で良かったなって思って」
「うん、無事でよかったね」

「キャリーさんの新しい道ってこれの事かな?なら嬉しいな」
「ん?何ヒデ兄師匠」
「なんでもな~い」

 ミラを持ち上げて高いたかーいして、今までの経験上急いで入り口を見る。
「セーフ、誰も居ない」

 ミラを降ろすと後ろから声をかけられた。
「あの~、ここで、病気治してもらえるって聞いたんですけど……」
「ヒッ、ハイハイ、そうですよ、どうしました?こちらにおかけ下さいね」

 俺よりちょっとだけ上の年くらいの男性に席を勧める。
「あ、すいません、失礼します」
「今日は、どうしました?」

「はい、あの、信じてもらえ無いかもしれないんですけど、あの。私、何を食べても味がしなくなってしまったんです。」
「なるほど、それは、辛いですね。原因みたいななのは何か思い当たりますか?」
「え?あの、信じてくれるんですか?」
「はい?えっと、ウソなんですか?」
「いいえ、本当です。本当なんですよ、何処に相談に行っても信じてもらえなくて、最後には、私を嘘つき呼ばわりして」
「あ、なるほど、それは、お辛い目にあいましたね」


「はい、えっと、私、今キャラバン隊に入ってましていずれは自分でキャラバン隊を持つのが夢なんですよ。味覚がなければ仕事にも支障が出るかも知れないので」

「なるほど、そうですね、それで、何か思い当たる事は無いですか?」
「えっと、あ、味覚が無くなる前にモンスターに襲われて、モンスターは雇っていた冒険者が全て倒してくれたのですが、私は運悪く隊から少し離れた所にキノコとかの食材を取りに出てたんですよ、そのせいで逃げ遅れて、モンスターの攻撃でふっ飛ばされてしまったんです。その後は覚えてないのですが、気付いた時は隊の馬車の中でした。頭を強く打ち付けたみたいなんですけど。その時薬やらなにやらのせいじゃないのかって言われたのですが……」

「フムフム、なるほど、じゃあ診せてもらいますね」
 【診断】

≪どう?薬云々より、頭強打した時じゃないかな?≫
『そうですね、脳に傷が出来ています』
≪治るよね?大丈夫だよね?≫
『マスターは頭部にヒールを放出し続けてください、コントロールして傷の場所の頭蓋骨を治すのと傷を治すのと同時に行います』
≪お願いね≫

「えっと、モンスターの攻撃か飛ばされた時に頭を打ったみたいですね。その時の傷のせいで味覚が無くなってしまったんです」
「え、頭打ったせいで味覚が?そうなんですか?」
「はい、今から治しますので、そちらの診察台に横になってもらいますか?」
「あ、はい、治るんでしたら、何でもします」
「麻酔で少しだけ眠った状態になりますけど、起きた時には治ってますからね、大丈夫ですよ」
「はい、お願いします。お願いします」

「いきますよ。」
 【診断】
≪お願いね≫
『はい、麻酔を全体にかけます』
≪ヒールかけるね≫
『お願いします』
《ヒール》
頭部を中心にほんのりと光る。
放出したまましばらくすると

『はい、終わりました。放出を止めてください』
≪わかった、お疲れ様、ありがとうね≫
『いえ、お疲れ様でした』

 まだ、麻酔の影響か男は眠っているようだ。

「ふう~、脳とか繊細過ぎて怖いよ」
「ヒデ兄師匠お疲れ様」
「うん、お疲れ様」

 その声で気が付いたのか目を開けた。
「うん、あれ?もう、おわったのですか?」
「はい、終わりましたよ、気持ち悪いとか、めまいがするとかありませんか?」
「えっと、はい、大丈夫です。それよりなんかとってもスッキリした気分です。なんて言うんだろうこう、モヤが晴れたような」
「そうですか、治療は終わりましたよ」
「ありがとうございます」

「明日もう一度来れますか?」
「はい?時間はあるので来れますが、何かあるんですか?」
「いえ、明日もう一度来てもらって治っていたら、治療費銀貨一枚持ってきてください」
「えっと、明日でいいのですか?」
「いいんですよ、経過も診たいですから」
「はい、明日必ず伺います。失礼します」
「待ってます、お大事に」


「ヒデ兄師匠治ってるといいね」
「そうだね~」

「あのね、ヒデ兄師匠、さっきの人をスキルで見たんだけど私には痛いの出て無かったの」
「む、そうなのか?脳が複雑過ぎて傷の場所とかがわかんなかったのかな?」
「でも、今日初めて味が無くなちゃう病気がある事を知ったの、診えなくてもお話を聞いて病気だってわかるようになる為にもっともっと色々な事教えてねヒデ兄師匠」
「ハハハ、ミラは頼もしいな~」
「そうだよ、一番弟子だもん、キャリーちゃんに負けてられません」

次の日

「ありがとうございます。味がちゃんと味がしたんです。塩辛くて、甘すぎで、焦げてて、味がくどい、おふくろの料理の味がちゃんとしたんですよ。ありがとうございます」
「フフフ、おふくろの味ですか、良かったですね」
「はい、次は、いつこの地方に来るかわからないですから、お約束の銀貨一枚です」
「はい、ありがとうございます。お大事に」
「はい、失礼します」

「ヒデ兄師匠、本当に良かったの?」
「ん?何が?」
「なんか、凄い不味そうな料理みたいだったけど」
「ハハハ、いいんだよ、思い出の味ってそんなもんだよ。あの人も商売云々言ってたけど本当の目的はこっちだったのかもね」

「ふ~ん、私は美味しい方が良いな」
「お、じゃあ、アン先生にいっぱい教わるといいぞ」
「うん、ちゃんとお手伝いしてるもん」
 
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