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1章

薬師

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「ここだよ」

 自慢げに紹介したお店は、商店街の端の方にある小ざっぱりしたお店だった。
「今なら、母ちゃんが店番してるはずだから……」
 ブツブツとつぶやきながら店の扉をコッソリ開けているが小さな鐘が鳴りお客の来店を知らせている。
「はい、いらっしゃいまーー、何だ、ラウラじゃない、おじいちゃん探してたわよ」
「う、怒ってた?」
「怒ってないわ、おじいちゃんの所にいってらっしゃいな」
「ホッ、よかった、じいちゃんにお客様なんだ、ちょっと知らせて来る」
「まあ、いらっしゃいませ、少しここで待っててくださいね」

 ここに連れて来てくれた子供、ラウラ(髪を短めにしているので男の子かと思った)に口元が似てる。ちょっとおっとりしている女性はいたずらが成功した子供のように嬉しそうに笑みを浮かべる。次の瞬間奥から大声が聞こえた。

「ばっかも~~ん、人の話は最後まで聞かんか~~」
 ゴッとここまで聞こえてくる音がした。
「フフ、成功ね、怒ってるって言うとまた逃げちゃうからね。待っててねお義父さんに貴方の事伝えて来るわ」
「はい、お願いします」


 店の中はいくつかの椅子とカウンター、カウンターの後ろにはたくさんの棚が並んでいる。何点かのポーション類がカウンターの端に並んでいるぐらいでサッパリした感じ。
 薬がズラッと並んでる薬屋さんじゃなくって調剤薬局みたいな印象が近いかも。実際に症状を訊いてから薬を調合するのだろう。

「母ちゃん、ヒデ~よじいちゃん怒ってたじゃんか」
「フフ、だって、怒ってるって言うと貴方逃げちゃうじゃない」
「そうだけど、覚悟の問題だよ」
 ラウラが頭にてっぺんをさすりながら話す。
「お義父さんが、是非お会いしたいって言ってます。中に入ってください」

「はい、お邪魔します」
「お邪魔します」

「じいちゃん、連れて来たよ」
「おお、よく来てくれたな、若い回復師よ」

 部屋の中には、胸辺りまで伸びた白い髭にメガネをかけた好好爺がいた。

「こんにちは、回復師のヒデと言います。こっちは弟子のミラです」
「ほほ~、この子も回復師をしているのか?」
「はい、優秀なんですよ」
「おお、それは頼もしいのう。そこに腰を下ろして話しをしようかの」
「ありがとうございます」

「おお、そうじゃった、ワシはポールじゃ。それで、ヒデ君や鍛冶屋の病を治したそうだね。話せる範囲でかまわんから聞かせてくれないかね?」
「はい、もちろんいいですよ、ここの手首のーーーー…………」
「ほほ~なるほどのう~、では、そこの炎症を抑えるための薬はキチンと効いていたということかの?」
「はい、恐らく、少し良くなったので仕事してまた痛くなっての繰り返しだったのでしょう」
「フム、休めと言っても。休まんしな職人達は、フォフォ」

「じいちゃん、スゲ~ご機嫌だな?」
「フォフォ、じいちゃんな、ラウラくらいの頃に回復師になりたくてな~、たまに来る回復師の人に手ほどきしてもらったんじゃがどうも、適性が無いらしくてな、でも何とか人助けがしたくて薬師になったんじゃよ、だから回復師さんと話すと知らない事が聞けて楽しいのじゃ」
「へ~、それ初めて聞いたよ、じいちゃん」
「そうじゃったかの?」

「そうだったんですか、それで、この様な高い技術を身に着けたのですね」
「高い技術などとお恥ずかしい治すことも出来ぬ薬ですじゃ」
「いえいえ、違いますよ。この薬を飲んでキチンと言われた通りにしていれば治ったんですよ。しかも、高価な素材を使わずこの値段で」

「おお、わかってくるか。そうなんじゃよ、本当は高価なモンスターの肝や、貴重な薬草など使えばここまで苦労はせんのだがの、同じ効果のある調合を考えて失敗に失敗を重ねてやっと作ったんじゃよ」

「俺は治療を一回銀貨一枚でしています。これは、手軽な値段だと思ってますが、この薬より高いです。この様な値段で利益出てるんですか?」

「フォフォ、ヒデ君は面白いのう、商売敵の心配をするなんて。でも大丈夫じゃ、家族三人で暮らすくらいは儲かってるからの。それに調合して渡す時は1つでなく五回分くらい渡すからのう」

「そうですか、流石ですね。ラウラも薬師になるのか?」
「うん、もちろんだよ」
「おお、そうか、ポールさんにしっかりしごいてもらえば街一番の薬師になれるぞ」
「おう、絶対なってやる」
「掛け声は、頼もしいがの、フォフォ」


「それで、今日伺ったのは薬と言うか湿布薬という物なんですが、外部から患部を治したり炎症を抑えるような効果の薬なんです」
「ほほ~、ポーションや、薬が無い時は怪我をした上から薬草などを貼り付けておけば少しは効果があるがそういった事かの?」
「そうですね、塗り薬の効果を粘着性の高いもので固定させ効果を長く引き出させる感じです」
「フム、しかし、肌に直接貼り付けるというと、肌の弱い人はかぶれてしまったりしそうじゃの?」
「そうなんですよ、何か良い手は無いですか?直接つけないと効果は出ないでしょうから。これがクリア出来れば腰痛や肩こりで悩んでる人が減らせるはずです」
「フム、おーいモニカ」
「はいはい、何ですかお義父さん」
「こないだのスライムの核から出てる液体持ってきてくれるか?」
「あら、あのネバネバのですか?紙袋作るのに便利なので少し使っちゃいましたよ」
「ほほ~、どうだ?取れたり、ズレたりせんか?」
「え、そうですね、取れたりは全然しないですけど、手にくっついたのが逆に取れなくて困りましたねえ。今持ってきますね」

「何です?スライムの核って?」
「ん?スライムは知っているか?」
「聞いたことがあるぐらいで見たことは無いですが」
「フム、スライムは核さえあれば復活するんじゃよ」
「え、じゃあ危険なのでは?」
「いやいや、言い方が悪かったの、魔物のスライムは核と魔素があれば復活が出来るんじゃよ。核だけ置いとくと身体を作ろうとして粘液をだすのじゃこの粘液が何かに使えんか研究をしているんじゃがのう」

「はい持ってきましたよ」
「モニカさん手に付いた粘液どうやって取ったの?」
「う~ん、なんか知らない間に取れてたわ、洗濯したり家事してたら、あ、でも水やお湯で洗っても取れなかったわ」
「ありがとございます、これが、スライムの粘液か」
「フム、時間で剥がれるのか、他の要素か、まあ、実験してみるかの、どのみち、かぶれないか試さにゃなるらんしの」
「そうですね、俺も付けて試してみますね」
「む、どうなるかわからんのだぞ?」
「はい、でも、試さないと先に進めないですから」
「フォフォ、そうじゃな、まあ被験者は多い方がよかろうて」

「じいちゃん俺もやるぜ」
「フム、じゃ、じいちゃん達がなんともなかったら頼むわい」
「わかった、絶対だよちゃんと手伝うからな」
「フォフォ、頼もしくなったもんじゃ」

「手の甲辺りに塗って確かめてみますね」
「フム、これは、なかなかの粘着力だの」
「そうですね、あ、袖にくっついちゃた。うわ、取れねえ、イテテ、肌が引っ張られる。う~ん、取れた、ああ、袖がなんかカピカピになってる」
「ヒデ兄師匠、洗浄で取れないかな?」
「取れるかな?結構気に入ってるのにこの服」
 《洗浄》
シュワシュワ……ポロッ
「「取れた!」」

「もしかして、洗浄で取れる?モニカさん洗浄使えます?」
「はい、お隣の奥さんに教えてもらいましたよ」
「それだ、よし」
 《洗浄》
シュワシュワ……ポロッ

「フム、取れたな、後はかぶれの実験だけじゃな」
「はい、もう一度付けてと、一日くらいでいいですかね?」
「そうじゃのう、先ずはそれくらいから始めるかの」
「はい、わかりました」
「ヒデ兄師匠、楽しそうだね?」

「フフフ、そうだよ、だってこれで腰痛や肩こりで悩んでる人が減るかもしれないんだからね」
「フォフォ、そうじゃのう、ヒデ君はワシの若い時にそっくりじゃの」
「え、本当ですか、俺もポールさんみたいにおじいちゃんになっても回復師の仕事してたいです」
「フォフォ、なれるなれる、じじいになるなんぞ直ぐじゃぞ、いや、じじいになってからこそ本番じゃ」
「わお、じゃあ、まだまだ俺はひよっ子ですね~」
「フォフォ、面白い男じゃのヒデ君は、あの病を治せるのになぜ湿布薬なんぞを作るんじゃ?恐らく腰痛や肩こりなども治せるじゃろ?」

「はい、治せますよ。でも俺は一人しかいませんから、この薬が出来て広まれば、この街どころか近隣の街や村、この国に全土に広まればたくさんの人が元気になりますからね」
「フォフォ、国単位で考えているとは、やはり面白いの~、痛快じゃわい」

 
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