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1章

双六

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 あの後、キャリーさんがオンブしましょうかと言って来たので、丁重にお断りして何とか立ち上がりボックスからフウ君を出して、杖代わりにしてギルドに帰った。

「あ~も~、何か右耳の金属音が消えないよ」

「まったく、絶対飛び出すと思ったよ。ヒデ兄」
「キャロライン姉ちゃん居なかったら本当に危なかったからね。ヒデ兄」
「私だって飛び出したかったけど、ミラちゃん人質とかにされたらと思って我慢したんだよ。ヒデ兄」
「私、スキル使ってたからよくわからなかった、でも危ない事は止めてね。ヒデ兄師匠」

 それぞれみんな俺の名前の所を強調して言ってくる。
「う、ゴメンゴメンもうしないよ、多分」
 最後の一言はすっごい小さい声で言ったのに聞こえたようでみんな目に力が入った。

「ホホホ、まあ、お師匠様はわかりやすいですからね、あの時いつでも抜けるように構えてましたわ」
「ううう、悪かったよ、ほらママさんの所でグレプのジュース奢るから行こ、お昼ご飯もね」
「もう、俺達がもっと強くなるまで無茶しないでね?」
「しないしない、無双は夢の中だけでいいや」

「ん?なんの話?」
「なんでもないよ~、早くママさんとこ行こ」

 みんなをせかすようにして酒場に向かう。酒場に着いて椅子に座るとハルナがさっきの顛末をママさんに話していた。物凄い勢いでママさんに抱きつかれそうになったので、テーブルの下に滑るように潜り込んで事なきを得た。
「もう、ヒデちゃん危ない事しちゃダメよ。でも、ブルースねえ」
「ママさん知ってるの?」
「この街に少しいたら名前くらい聞くわよ、あんまりいい噂じゃないけどね」
「やっぱりそうなんだ、まあ、もう、関わる事も無いだろうからね」
 
 食事が終わってもゲンとトラン、ハルナが鍛練所に向かわないので尋ねてみた。
「あれ?三人とも鍛練はいいの?」
「うん、まあ、もうちょっとね」
「そんな直ぐには動けないよね」
「まだ、平気だよね」

 うん?どうしたんだろう?何か子供っぽい?いや、子供なんだけどさ……
「ホホホ、今日の鍛練はやめときましょうか、こんな感じでは怪我をしてしまいますわ」

 キャリーさんの言葉に申し訳なさそうにしながらも、ホッとしているような三人の顔を見ていると何か最近見た事があるような気がしてきた。
 ……あ、あの時だ院長先生の病気を治した時の子供達と同じだ。
 そうか、俺が死にそうになったのを剣の腕が上の三人の方が強く感じ取ってるのかな?

「フフフそうか~~、お休みか~~」
ゲン達の上に身体ごと乗っかって頭をグリグリ撫でる。

「うわ、何だよヒデ兄、やめろよ~~」
「ヒデ兄重いよ~」
「ハハハ、ヒデ兄頭取れちゃうよ」
「クスクス、くすぐったいヒデ兄師匠」

「よし、俺の故郷の遊びを教えてあげよう。ママさん何かデカい紙ない?」
「どれくらいかしら?」
「とにかくデカい方が良い」
「う~ん、あ、これの裏使っていいわよ」
ん?何々、ビッグホーン追い祭り開催近しか、いいのかこれ使って?まあ、いいや見なかった事にしよ

「よーし、ここの端にスタートって書いて、こうやってグニグニと書いて少し大きめに区切ってと」
「ヒデ兄なにこれ?」
「ふふふ、双六だな」
「双六?どうやるの?」
「まあまあ、まだ出来上がってないぞここからみんなで、ここにやる事を書くんだ」
「やる事?ん?ん?」

「例えば、スタートのすぐ次に”もう一回サイコロを振れる”こんな風に書いてくんだよ」
「ヒデ兄サイコロって何?」
「ん?サイコロ無いの?ママさんサイコロ知ってる?」
「知ってるし、あるわよでもあれって博打の時に使うんじゃないの?」
「博打以外でも使えるよ、1個貸して」
「はい、どうぞ」
「何かデカくない?こんなもんなの?」
「そうよ、普通よそれ」
 正方形だけど五センチくらいあるよこれ

「これをこうやって転がして出た目だけ進めるんだよ」
トランが俺の説明を聞きながら質問をしてきた。

「ヒデ兄、ここに書くのはどんな事でもいいの」
「そうだな、例えばこんな事とかでもいいぞ”大きな声で歌をうたう”と書き込む」
「うわ、そこ止まりたくない」
「フフフ、そんな感じで埋めていくんだ」

 ”ドラゴンが暴れて四マス戻る”
 ”ワイバーンに攫われてスタートに戻る”
 ”空飛ぶ箒に乗って三マス進む”
 ”宿屋に泊まって一回休み”
「ちょっと、誰これ書いたのひどすぎでしょ~」
「何この恥ずかしい話をするとか」

 みんなでワイワイ言いながら手書きの、双六のマスがドンドン埋っていく。


「ヒデこっちか?」
 名前を呼ばれて顔を上げるとアードルが左腕をかばいながら店内を見ている。

「あれ、アードル如何したの?珍しいね怪我?」
「おう、そこか悪いちょっと診てくれるか?」
「うん、もちろんだよ。怪我した時直ぐに洗浄した?」
「いいや、した方が良いのか?」
「うん、バイ菌が入らないようにしてくれるから今度からかけといてね」
「ほほ~わかったよこれからはやっていくよ」

「うん、じゃあ診てみるね」
 【診断】
『毒など検出されませんでした』
≪はい、ありがとう≫

「うん、大丈夫みたいだね」
 《ヒール》

左腕がほんのり光り出す。

「おお、ありがとな魔法球に後で登録しておくな」
「はい毎度ー、お大事にね」

 酒場に戻るとミーシャさんとイールさんの眉間が寄っている。危険を感じて回れ右をしたら後ろから声をかけられた。
「ヒデ、また危険な事をしたそうだな」
「いやいや、してないよ全然」

 アードルが俺を睨みながら話す。
「ん?何だよイールまた、ヒデが何かしたのか?」
「話しを聞くと、どうも掃除屋スミーに絡んだらしい」
「ヒデ、なんで安全な街に居てそう危険なカード引き当てるだよ」
「いやいや、待って、今ちゃんと説明するから、俺に非ないから」
 馬車が止まってるとこから話し始めて全部を話し終えた。

「ね、俺悪くないでしょ?」
「いやいや、掃除屋が出て来た時点で帰っちゃえよ」
「いや、だってあの咳は不味いってあの病気は咳が止まらなくなって、息が出来なくなって最悪死んじゃう事もあるんだから」

「いや、病気の事は知らんが、掃除屋がヤバいのはわかる」
「ヒデ、こないだのオークの時に言っただろ危険な事するなって」
「キャロラインさんがいたから良かったものの」

クッ、三人がかりでは太刀打ちできん
「ほ、ほら、今みんなで双六やるんだよ一緒にやろうぜ」
「話そらして、でも面白そうねどうやるの?」
「ほら、ハルナさんご説明してあげてください」
ふぅ~助かった~と思ったら、カルナさんとマナさんが返って来て同じ事言われた。


 出来上がった双六はチームを組んでやった。
二回ほどやったらもう子供達は帰る時間になっってしまったが、院に戻って弟達と作ると言って急いで帰って行った。少しは気がまぎれただろうか?元気に走る子供達の姿が見えなくなるまで眺めていた。


 酒場に戻ると双六を見ていた他の冒険者達が自作し始めた。覗いてみるとちょっとエッチなマスがたくさんあった。
「それ、欲望がダダ漏れになってるじゃん」
「おう、大人の双六だ、いいだろ?」
「う~ん、それやってくれる女の子いるの?」
「…………え、言われてみれば、いやいや、いるさきっと」

 この後双六を持ちながらウロウロナンパして双六を見せては、断られている姿を見続けていた。見かねて声をかける。

「いやいや、初めから双六で誘うんじゃなくてさいい感じになってから、さり気なく双六やらない?みたいな誘い方すればいいんじゃない?」

「ヒデ、スゲ~なお前、天才かよ」

「その双六みて喜んでやるの君たちに気があるか、物凄いイケメン兄ちゃんからのお誘いじゃなきゃ女の子達やらないよきっと」

「よし、その作戦で行くぞ」
「うむ、次こそは」

 ウロウロしてるのを見かけないから成功したのだろうと思ったら、向かいの席に座ってるのってよりにもよってケイトの姐さんだった、何か凄い勢いで飲んでるけど……よく見るとあの双六のちょっとエッチなマスが、全部止まったらジョッキ一気飲みに書き換えられてる。
 見つかる前にいそいそと退散する。

 明日の朝、間違いなくあの二人は二日酔いの所に並んでるな。


 
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