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1章

試作品

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 ギルドに戻るとキャリーさんがクエストから戻ってきていた。
「あれ?キャリーさん早いねもう戻ってたんだ」

「ええ、ちょっと身体を動かしたくて森に行った程度でしたので。そこで少し奇妙なと言うか信じがたい?いえ、お師匠様もやはり健康な男性なのでそう言った場所に行かれるのは自然ですけども、やはり何と言うか」

「ちょ、ちょっと落ち着こうかキャリーさん。もしかして昨日の事かな?」
「えーっとそうですわ、ハッキリとお聞きしたいのですが」
「だ、だから落ち着いてつ、吊るし上げられたら……話しでき……ない……から」
「あ、あら、失礼しましたわ。何故かしら何かこう、イライラしてしまって。森で暴れたりなかったかしら?」

「ゴホゴホッ、ま、まあ、大丈夫。軽々と持ち上げられた時はチョット焦ったけど。それで昨日はですね……」
 ジョージの依頼で花街まで治療に行った事と、そこで見つけた化粧品の話をした。

「ま、まあ、そうでしたの?ホーホホホ、私最初からそうだと信じてましたわ。何でしょう?スッキリしたらお腹が空いてきましたわ。お化粧品でしたら少しはわかりますのでお話はギルドの酒場でお聞きしますわ」

 何故かテンションの高いキャリーさんが酒場に向かっって歩き始めた。ミラと顔を合わせて首をひねりながら後について行く。確かに元とはいえ、お嬢様だったんだから化粧品にも詳しいだろう。

酒場に着くとママさんがこっちに向かって来た。
「ヒデちゃんどういう事かしら?私というものがありながら花街に行くなんて」

「なに言ってんだ”私と言うものがありながら”なんてないわーそんなもん、大体、治療の為に行ったんです。遊びにじゃないです」

「まあ、そうだったの?私ったらつい早とちりをホホホ」
「まったく、遊びに行ったとしてもーー」……ゾクッ

 な、なに?何か今色んな方向から殺気?というか、蛇に睨まれた蛙のような被食者の危機的状況になりそうになった?この件は余り触れないように、サラリとかわす事にしよう。

「ま、まあまあ、そんな事よりご飯三人前ね。お願いします」
「もう、仕方ないわね、信じてあげるわ」
 そう言うとカウンターの中に入って行った。三人で席に着くとキャリーさんに件の化粧品を見せた。
「あら、懐かしいですわね。マルーツの化粧品ですわね」
「え?これ造ってる所ってそんなに有名なの?」
「そうですわね、今はしてないですが国にいる時は毎日してましたからね。ここの化粧品も良く使ってましたわ」

 違う国のキャリーさんが知っているほどの老舗か、これじゃあ危険性を訴えたってこっちが簡単につぶされるだけだな。

「この化粧品がどうかしましたの?」
「うん、この中の原料に良くない物が混ざってるんだよね」
「良くない物?ってなんですの?」
「この中に使われている鉛白って言うのが良くなくてね、まあ使い続けるとって事なんだけど。身体の調子が悪くなって病気になってしまうんだ」

「まあ、ではマルーツに言って販売を止めなければいけませんわ」
「どうやって?これには危険な物が入ってますから売るのをやめて下さいって言いに行くの?」
「う、そうですわね。そんな事言っても門前払いされるのが関の山ですわね」

「そうだね。だから今ポールさんとウィルさんで化粧品の改良をしてもらってる。良い物を作って貰えれば後は営業と宣伝力で売れるようにしないとね。売れれば少しでも被害が減らせるからね」

「消極的ですわね?」
「それヒューイさんにも言われたよ。まあ前にも言ったけど俺は手の届く範囲の人を救うので手いっぱいだよ。言い方悪いけど、悪い薬を造る組織を潰せる力なんかないしね」

「充分大きな手だと思いますが。私に何かお手伝い出来る事がありましたら何でも言ってくださいね」
「うん、お願いすると思う。お化粧の事詳しくないからね使い心地とかの意見を訊きたいかも」
「わかりましたわ。いつでもいってくださいねお師匠様」
「ありがとう」

「あら、お化粧品?マルーツのじゃない?どうしたのこれ?今品切れで全然手に入らないってやつじゃない?」
「え?ママさんも化粧品使ってるの?」
「私が?いやねえ使って無いわよ、噂話で知ってるだけ。私は寝る前にキュウリでパックしてるもの、だからお肌ぷりっぷりでしょ?」

「ゴツゴツしてそうです」
「なんで敬語なのよ。はい、ご飯食べちゃって」
「「「いただきます」」」

 まったりしていたらゲン達も戻ってきて、今日の狩りの話などを聞いて時間になったので院に帰って行った。

 ポールさんとウィルさんからもう二、三日待っては欲しいと言われたので三日後に工場に集合となった。


 三日後工場にキャリーさんとミラの三人で行ってみると試作品が出来上がっていた。

「おはよう。ゴメン俺待ちだった?」
「いや、今単価計算とかしてるから、まだ準備段階だよ」
「そうか、良かった。ポールさん、ウィルさんお疲れ様です」
「いやいや、まだじゃよ。使い心地優先の物と定価を抑えた物の二種類を作ったのじゃがな」

「値段重視の方はマルーツの化粧品と同じくらいだね。上手くいけば少し安く出来そうだよ。使い心地重視は少しだけど値段が高くなっちゃうね」

「じゃあ、キャリーさんこの二つの使い心地見てくれる?腕とかでもいいから試してみて」
「わかりましたわ。まずは使い心地の良い方を……」
 水に溶いて調整しながら混ぜていく。満足いく具合になったのか腕に付けて試している。
 もう一つの方も同じ様に水に溶いて腕に付けて試している。

「どちらも、お化粧のノリもいいですわね。若干安い方が伸びにくい気がするくらいですわね。お師匠様マルーツのお化粧品をお持ちですよね?お貸しください。今のマルーツは使った事無いですから、試してみないとわかりませんわ」

「あるけど、落とす時にお湯の湯気とか吸わない様に気を付けてね」
はい、と言って同じ様に試していく。

「マルーツの物が一番白が鮮やかですわ。今の流行が分かりませんけどお年を召した方は白く塗る方が多いですが、若い方なんかは薄く塗って血色を良く見せる為にピンク色にして使ったりしますわ」
「フム、使い心地はどうじゃな?」
「塗ったばかりの感想はどれも一緒に思えますわ」
「フム、ワシらが作った方は二つとも伸びより肌に負担をかけえない様に造ってみたんじゃよ」
「それは、毎日お化粧をする貴族の人達にはそちらの方が喜ばれますわ」


 キャリーさんとポールさん、ウィルさんが話し合っている中、俺はローさんに集めてもらった情報を訊いていた。

「まず、マルーツ商会ですが化粧品を中心にその業界では追随を許さない感じで独走ですね。この国はもちろん、他の国でも間違いなくトップクラスです」

「うーん、想像以上だった。まあ、商人ギルドの人間ならマルーツの名前は知らない人はいないですよ。それで鉛白を使い始めたのは今回の新製品と一つ前の商品からみたいです。以前は植物を中心に使っていたそうですが鉛白の方が安定しているので値段が安く提供できるためこちらの生産に切り替えたそうです」

「短い間に随分調べてきたね」
「まあこれくらいは、相手が有名ですからね」
「なるほど、じゃあマルーツ商会ってこの国に本拠地があるの?」

「そうです、この国の城下町にあります」
「マルーツ商会もエル商会もそうだけど、一流どこは皆城下町に店を構えてるね」

「そりゃあそうですよ。商売している人間はいつか城下町に店を出すのが夢ですよ。そうだ、今名前の出たマルーツ商会の会頭とエル商会の会頭って同郷の親友なんですよ。成功した二人なんで色々な逸話があるんですよ」

「ほほー、そうなんだ。有名人になると凄いな、そのうち本とか出すんじゃない?でも、そんなに有名なら鉛白が危険な物だって知らないで取り扱ったんだろうね」

「その本は読んでみたいですね。後、間違いなく知らないと思います。マルーツさんの逸話で、昔の化粧品は女性の肌の事を何も考えていない、女性はいつまでも健康で美しくあるべき、と言って新しい化粧品を次々と生み出したと聞いてますから」

 商品の改良に熱心に話し合っている皆の姿を見ながらこれからの事を考えていた。
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