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1章

交渉 当日 その2

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「疲れた。まだ序盤なのにドッと疲れが……」

「フォフォ、いやいや、なかなか良かったぞ。ヒデ君」
「堂々としていて誠意が出ていたよヒデ君」

「ハハ、採点の甘い二人に褒められてもなー」
「ひどいな、本当だよ。あの二人はこの国の商人の中でも特に成功をした二人だよ。その二人に休憩を挟ませたんだよ。それだけでも凄いよ」

「ハハ、ありがとうございます。でもポールさんの試作品の力が大きいよね」
「フォフォ、相変わらず謙虚じゃのう」

「それより、次はマルーツの技術者も来るだろうしポールさんお願いしますね」
「フム、任せておくのじゃ」

 メイドさんが二回目のお茶を入れ替えてくれた時もうしばらくしたら再開しますと伝言が来た。気合を入れるため両手でほっぺを叩く。

 しばらくしてからマルーツさんとケネスさんの後ろに大きなメガネがやたら印象的な中年の男が入って来た。

「待たせてすまんな。彼がうちの開発責任者のリヴァーだ」
「そのテーブルの上にあるのがサンプルかい?」
そう言うともうそれしか見えてない様に試作品にかぶりつく。

「えっと、私はヒデ。こちらが試作品を開発したポールさんです」
多分聞いてないだろうが挨拶だけはしておいた。

「あー、すまんな。こいつは研究一筋と言うか、研究バカでな開発や分析が大好きでな」

 実験が好きな技術者のポールさんの方を見ると、試作品の蓋を開けてブツブツと独り言をしゃべりながら手に取ったり、水に溶いてみたり持って来た容器に移して色々しているリヴァーさんを懐かしそうに眺めてる」

「フォフォ、変わらんのう。分析好きのリヴァーよ」

 ポールさんの一言に今まで誰の言葉にも反応しなかったリヴァーさんが顔をあげた。
「やっぱり、実験好きのポール先輩の作品でしたか。手の加え方や癖が良く出てますよ」
「そんなので区別が出来るのはお前くらいじゃよ」

「特に素晴らしい出来の物はいつまでも消えないですから」
 大きなメガネを指で押し上げながら楽し気に笑っている。それを見ながらマルーツさんが話し出す。

「お前が研究中以外で楽しげなのは初めて見たよ」
「失礼な、そんな事より、覚えてないんですか?ポール先輩の事」
「ん?いや、一度会った人間は大体覚えてるつもりだが……わからんな」

「フォフォ、マルーツ殿に直接会うのは今回が初めてじゃよ」
「あれ?そうでしたっけ?じゃあ知らなくても仕方ないか。試作品見るまでは僕もわかんなかったしそんな年取ってるんだもん」

「リヴァーも年取ってるじゃろが」
「待て待て、俺とポールさんは関係があるのか?」

「えっと、一番最初に出来の悪い化粧品を持ってきてこれを改良してもっと女性の肌に良く美しい物は出来ないだろうかって師匠の所に来たでしょ」

「む、それこそ俺が二十代くらいの話しじゃないか?」
「そんな前の話しだっけ?まあ、その時弟子の中でももっとも実力を持っていたポール先輩と僕が忙しい師匠の代わりに受け持ったんだよ」

「何だと、あのわが社の一番初めの化粧品の製作者なのかこの人が?」
「悔しいけどそうだね、核になる部分を造ったのはポール先輩だよ」
「フォフォ、何を言っておるその後の組み立てはリヴァーが全部造り上げたじゃろ」
「僕にはその核の部分が出来なかったからね」

「それに、今回のこの作品は素晴らしい。女性の肌の事をよく考えて造ってますね」
「おお、そうじゃろ?それを見てわかるとは流石じゃ。ここは配列を……こうして……」
「え?じゃあここは……そうなるとこっちのほうがいいのでは?こう……」


 何か二人でわからん言葉で話し始めた。
「えっと、どうしましょ?」

 マルーツさんの方を見ながら助けを求める。
「いや、こうなると研究者達はどうにもならんが……そうも言ってられん。リヴァー、リヴァー少しいいか?」

 少し大きな声でリヴァーさんを呼ぶ。
「ん?何だいマルーツ」
「仕事中は会頭を付けろと言ったろが。まあいい、そこの試作品の出来はどうなんだ?後うちの製品には危険な成分が入っていると言われているがどうなんだ?」

「ん?この試作品の事?今その素晴らしさの分析をしているとこだよ。こんな優しい化粧品は今までにないよ、マルーツ鈍ったのかい?それと、危険なのって鉛白の事でしょ?僕は元々鉛白の使用を許可出してないよ」

「何だと?ではなぜ発売されているんだ?いや、それより、なぜだ?なぜ許可を出さなかった?」
「えーっと、なんとなく、この鉛白っていうのが気にくわなかっただけ。根拠ないけど」

「はあ?十分な根拠じゃないか。お前が許可を出さない商品は発売させないと言っていたはずだが?」
「そうだね、副会頭のえーっと誰だっけ?マルーツの息子に言っておいたはずだよ」

「はあ?まて、そんな事、ジェフから聞いてないぞ?」
「そうそう、ジェフだ。ジェフに言っておいたよ鉛白の使用はしない方がいい気がするって」
「チョット待って。俺はお前が許可を出したと聞いたぞ?」

「出す訳ないじゃん、こんなに嫌な感じがするのに。だからあの商品僕は一回も分析してないよ」

 その答えを訊いたとたん立ち上がっていたマルーツさんがソファーに座りこんだ。そしてソファーの後ろで待機していた秘書に低い声で指示を出す。
「ジェフを呼べ、今すぐだ」
「は、はい、直ぐに呼び出します」
そう言うと部屋から飛び出して行った。


 今まで黙っていたケネスさんが呆れ顔で話し出す。
「いつかこんな事が起こる気がしていたよマルーツ。だから俺の所に預けろと言ったろ?」
「しかし、まだそうと決まった訳ではない」

「マルーツ、俺がこのヒデ君の言い分に口を挟まないのが、何故なのかわからない訳はあるまい?」
「わかっている。スキルを使ったのだろ?だが……いや、そうだな。ここまでの経緯を考えれば答えは出ているな。ケネスが認めて俺に会わせたんだ、その時点で気付くべきだったよ」

「……ここのとこのお前は少しおかしかったからな、まあ、全てはジェフを副会頭にしてからおかしくなっていったのだがな」

「俺がきちんと目を光らせて育てればよいと思ったのだが……」
「まったく、鬼のマルーツが聞いてあきれるな。上司だろうと、貴族だろと、化粧品の品質の為には絶対に妥協しなかったお前がなんて失態だ」

 話している時秘書が戻って来て、マルーツさんに耳打ちをしている。
「わかった、ケネスまた部屋を借りるぞ」
「はあ、好きに使え」

 言い終わらないうちに、マルーツさんにどことなく似ているが全体的にふっくらしてしまって、残念な感じになってしまっている二十代の男が入って来た。入ってくるなりこちらを睨み付け言い放った。

「父さん、話しは聞ましたよ。こんな薄汚い庶民の言い分を聞くなどどうかしています。どうせ金欲しさにいいががりをつけに来たのでしょ」

 あまりにもな言われ様にポカンとしてしまったが、言われっぱなしも癪なので言い返そうと話し出した。
「待ってください。私たーーーー」

「黙れ!薄汚い庶民が貴様の様な者が私に話しかけるな!」

 ああ、こんなキャラアニメで見た事あるなーとか現実逃避をしていたら、後ろからただならぬオーラを感じて振り返る。若様が下を向きながら立ち上がっている。マズイ、あの温厚な若様が怒ってらっしゃる。

「わ、若様落ち着いてください。ここで若様が出たら話しがややこしくなってしまうからね。ヴァネッサさんも若様止めて」
「若様、ご指示を下さればいつでも切って捨てますが」
「ワァーーーー、落ち着いて二人共ね」

ジェフが小馬鹿にしたような笑みを浮かべて鼻で笑った。
「フン、何だ?仲間割れかこれだから卑しい庶民はーー」ブチッ

「いい加減にしろよ。この残念大福が!俺の事はいいが友人の事まで言ったのは許さんぞ。なんだ庶民、庶民と。お前はそんなに偉いのか?その庶民に物を売って生活してるんじゃないのか?その似合ってない上着は?その趣味の悪いズボンは何処から手にいれた金で買った?言ってみろ」

「な、な、な、何だと?残念大福ってなんだ?それに服の趣味は良いし似合ってる」

もう残念大福の方など見ずにマルーツさんに話しかける。

「これがマルーツ商会の回答ですか?」

マルーツさんが決心をした顔してこちらに話し出した。
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