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1章

交渉 当日 その3

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マルーツさんが決心をした顔してこちらに話し出した。

「ヒデ、すまんな。少し時間を貰うぞ」
「……はい、わかりました」
 何かさっきのマルーツさんとは人が変わったような感じがして大人しく下がった。

「ジェフ、心して答えろよ。つまらんウソや護身など考えるな時間の無駄だし護身は意味がないからな」

「父さんそれはどういうーーー」
「私の質問も回答以外するな。まず最初に、お前に誰が鉛白を渡した?」
「あ、あれは僕が見つけてきーーーー」
「ジェフ、もう一度聞くぞ、だ・れ・だ」
「そ、それはグレゴリーから渡されました」

「クソッ、まさかグレゴリーが?いや、ありえないな、利用されたか?今はお前の補佐をさせているんだグレゴリーは来ているな?」

「は、はい、グ、グレゴリーは待機させてます」
 秘書の方を見ると部屋から飛び出して行った。直ぐに戻ってきて四十歳くらいの神経質そうな男性を連れてきていた。あの人がグレゴリーさんなのか?

 マルーツさんがグレゴリーさんを睨む。
「会頭、お呼びですか?」
「グレゴリーお前が鉛白を渡したのか?」
「そうですよ、何か問題でもありましたか?」
「何だと?リヴァーが許可を出してない物を販売するなと言っていたはずだ。お前も覚えているだろう?リヴァーが発売寸前で発見してくれたおかげで問題が回避出来たのを」

「ええ、知っておりますとも、化粧品が合わなかった人の肌が少々かぶれる程度の問題でしたね?」
「そうだ。女性の肌を守り美しくするのが、我々の仕事だ肌がかぶれるなどあってはならん」

「ハァ、会頭その時の被害総額がいくらかご報告しましたか覚えていますか?」
「む、いくらだったかな?」

「ハハ、やっぱり聞いてもいなかったですか?肌に合わない人がかぶれる程度の、しかもヒール一つで治るかぶれで、販売を中止したおかげで違約金、生産した商品の処分全て合わせて大赤字を出したんですようちは」

「いや、確かに被害は大きかったが取り返せない金額ではなかったはずだ?」
「そうですな。通常でしたら。あの処分したはずの商品が他の商店がすべて買い取りたった一文を入れただけで自社の商品として売り出し大儲けした話は覚えてますか?」

「そんな話は知らんぞ?」
「ハァ、ちゃんとしました。”もしお肌に合わないようなら使用をやめて回復師に診てもらう事をお勧めします”と書いて販売をしたそうだと」
「ああ、その件か確かに聞いたな。実に恥ずかしい商品だ」

「ハァ、あの商品がどれだけ売れているかご存知ですかな?」
「不良品が売れているのか?」
「うちが卸すはずだった自社店以外のほとんどに入ってますよ。それと同時にわが社の技術者も引っこ抜かれてます。商品の生産も始めたそうです。加えて信用を無くしうちを切って来た店もあります。これも二回目ですなお話しするのは」

「その時は次の商品の開発が忙しくて任せっきりにしていた時だったか?」
「そうですな。一応書面にして残していたはずですよ?まあ、見てはいないでしょうがね。」

「い、今は、前の商品の話しではなく今回の鉛白の話しだ。なぜ許可を出した?」

「ハァ、まだわかりませんか?さっきの話しと繋がっているんですよ。前の大きな穴を埋める商品が必要だったのです。鉛白は今までより白く伸びも良く必ず売れる商品だった。それを根拠がなくただ嫌いだなどという理由で切られてはこっちは納得できない。ましてや前作は問題なく他社から発売していて問題にもなっていない」

「落ち着け、グレゴリーお前の言いたい事はわかるが待ってくれ。実際に問題が起きるかもしれないと話しをしに来た人達が来ている」

「それは聞いています。貴方達はこの商品の何が悪いというのですか?きちんと証明は出来ますか?」
グレゴリーさんがこちらを向いて話しかける。

「まずは、ご挨拶を私はヒデと言います。今ご質問いただいた事ですが、証明は出来ないです。ただ、私は嫌な感じがするではなく。知っているのです。この鉛白を使用し続けるとどうなるかを」

「なるほど。それは根拠のない話だとわかって言っているのですか?」
「そうですね。貴方には根拠のない話でしょうね?でも私にはここにいる人達が信じていてくれている事が根拠なんですがね?まあいいです。では貴方なりの回答を教えていただきたいのですが、ここに完成した試作品を持参して、これを無料で製法を教える私達の利益を教えてもらえますか?」

「フム、そうですな。……うちがこの商品に変えてから鉛白を使った化粧品を出すとか?」
「では、鉛白を使った化粧品は発売しない事を誓いましょう」
「フム、となると……思い当たる事が無いですね?しかし、なぜこの試作品を売り出さないのですか?それこそ後ろの若様の力を借りればこの国だけでもうちの商品の販売を止められると思いますが?」


「そうですね。ただ私はこの国以外の人も被害にあってほしくないんですよ」


「……貴方もそうですか?なぜ貴方達はそう輝いているのですか?」
「ん?えっと?何を言っているんですか?」

「貴方の目は二十年前マルーツ会頭が世界の女性を美しくしたいと語った時の目だ。私はその目に憧れて身を粉にして働いた。今回の事もそうだ何とか穴埋めをしようと躍起だった。新製品でやっとめどがついたのに、この新製品の発売を止められたらマルーツは終わりです」


「フム、そこまでいっていたか。マルーツに聞いても大丈夫だ問題ないしか言わんから気になっていたのだが……」
 今まで黙って成り行きを見守っていたケネスさんが口を開いた後に、座ったまま手で顎を撫でなら考えている。

 その時頭に声が響いた。
『マスター!』
「えっ?」
 あまりにも突然だったので声を出してしまった。沈黙の中の突然声を出したので部屋にいた皆が注目した。一人を除いて。

 気になる方向を見ると、お腹を押さえて蹲るグレゴリーさんがいた。そして、口から吐血している。急いでグレゴリーさんの隣に行くと何も出なくなるまで吐いてもらう。

「我慢しないで全部出してください。もう出ませんか?」

 俺の質問に力なく頷く。背は高いけど瘦せていてそこまで重くなかったので血を吐いた場所から少し離して横向きに寝てもらう。
「大丈夫ですよ。血が出ちゃったのでチョットフラフラしますけど大丈夫ですからね」
 なるべく穏やかな声で話す。胃潰瘍かな?吐血の量が凄いと聞いたけどチョットビビった。

 【診断】
≪どう?胃潰瘍かな?≫
『はい、胃潰瘍です。かなり前から治ったりできたりを繰り返してましたね』
≪う、この世界に来る前の自分と重なるよ≫
『出てしまった血液は多少の回復は出来ますが完ぺきではないです。胃潰瘍の治療をお願いします』
≪そうだった。わかった≫

「直ぐよくなりますよ」
胃潰瘍なくなれー胃が綺麗になれー
《ヒール》

グレゴリーさんのお腹の辺りがほんのりと光りだす。

 光が消えるとそのままグレゴリーさんが静かに寝息を立てた。睡眠不足もあったのだろう。貧血も起こしてるだろうし、ちょうどいいのでメイドさんに言ってそのまま別室で寝かしてもらった。

 他のメイドさんが来てスキルなのだろうか血溜まりに手を向けると掃除機に吸われるように無くなっていった。跡も残ってない?ボケっとその様子を見ていたら俺のヒールを何度か目にした事のある若様が声をかける。
「ヒデ君さっき人はもう大丈夫なのかい?」
「はい、出血が多かったですがしばらくすれば元に戻ります」

「ほほー、今のが回復師のいや、ヒデ君のヒールの力か」
 椅子の上で微動たりせず俺の行動を見ていたケネスさんが唸る様に呟く。

「グレゴリーは大丈夫なのか?あんなに血を吐いてしまって?」
「はい、お腹の中の臓器に傷が出来てそこから出血して、溜まった血が出たので。傷も塞ぎましたから」
「そ、そうか、よかった」

「マルーツさんこのお腹の傷は胃潰瘍という病気です。原因はですね大体が仕事の心配事が重なった時に起こります」

 そればかりでは、ないだろうが倒れる前の話を聞いていたらそんな気がするのでそう言っておく。

「まさか、そんな事があるのか?」
「ありますよ、肌だって無理をさせれば荒れたりするでしょ?人間だって同じですよ無理をさせれば壊れますよ」

この人にはハッキリと言った方がいいだろ。

 動かなかったケネスさんが動き始めた。
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