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はじまり*名村 千鶴*

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私には心を許せる様な友人もいなくて、相談出来る相手がいない。

酷く荒らされた部屋、不安と恐怖が入り混じり、心細さが増していく。

「とにかく、片付けないと……」

通帳や印鑑などは目立たない所に隠してあったから無事だった。
他に金目の物はないから、被害は無かったのが不幸中の幸いだった。

床に散らばった物を拾い片付けていたその時、1枚の紙が私の目に止まった。

「これ……」

それは、以前貰った貴志さんの名刺だった。
『困った事があればいつでも連絡してくれ』
これを渡された時に言われた言葉を思い出す。

「……貴志……さん」

あの時会ったきりの人だし、いつでもと言ってはいたけど、今は深夜。

流石にこんな時間に連絡するのはどうかという思いはあったのだけど、1人で居る事が怖くなってしまった私は気付けば無意識に電話を掛けてしまっていた。

「――もしもし」

数回のコールの後に、彼は電話に出た。

「あ……あの……」

掛けようと思って掛けた訳じゃない私は何を言えばいいのか分からずに口ごもってしまう。

「…………もしかして、名村か?」

少しの沈黙の後、貴志さんが優しい声でそう尋ねてきた。

「は……はい、そうです、あの、すみません……こんな時間に……」

「そんな事は気にしなくていい。それより、どうした?」

「あの……えっと……」

私は焦っていたのだと思う。上手く言葉が出てこなくて、言葉を紡ぐ事が出来ない。
そんな私に貴志さんは

「何かあったんだな?今、どこに居る?」

焦らせる事なく、私のペースに合わせて話し掛けてくれる。

「自宅、アパートです……」

「良ければ場所を教えて欲しい。嫌なら、近くでもいい。会って直接話そう」

私を気遣ってか、そう提案してくれたのだ。
けれど、こんな時間に、そんな事をしてもらう訳にはいかないと断ろうとすると彼はそれを見越していたかの様に

「気を遣う事はない。言ったろ?困った事があれば力になると。教えてくれないか?」

そう口にしてくれたのだ。
募る不安から彼の優しさに甘えてしまった私はアパートの住所を教えると

「分かった。20分くらいで着くから、着いたらまた連絡する」

と言って電話は切れてしまった。
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