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はじまり*名村 千鶴*

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電話が切れてから約20分、貴志さんが来てくれた。

車を停め、私の部屋の前まで来た貴志さんに

「どうぞ」

と中へ入るよう促すと

「……ああ」

一瞬戸惑いの表情を浮かべつつも中へ入ってくれた。

貴志さんが来るのを待つ間、少し片付けたもののまだ多少散らかっている。
それが気になるのか、彼の視線が部屋のあちこちに向いていた。

「すみません、少し散らかってて……飲み物、お茶で大丈夫ですか?」

本題に入る事を避けていた私は話題を逸らそしながらキッチンに向かおうとするも貴志さんに

「飲み物はいい。それより、何があった?話してくれないか?」

腕を掴まれて動きを止められてしまう。

「あ……はい……」

貴志さんの真剣な瞳に見つめられた私は誤魔化せないと判断し、彼と向かい合う形になる。
そして

「実は――」

私は空き巣に遭った事、それが原因で1人で居る事が不安になり、心細くなって電話をしてしまった事を正直に話した。


「そうか……よく頑張ったな」

私の話を聞き終えた貴志さんはそう優しく言葉を紡ぐと、

「もう大丈夫だ」

私の身体を自分の胸に引き寄せて、ギュッと抱き締めてくれた。

「貴志……さん」

「よく、俺を頼ってくれたな。ありがとう」

そう言いながら子供をあやす様にポンポンと優しく頭を撫でてくれる貴志さん。

「……っ」

彼の言動があまりにも優しく、そして何だか凄く懐かしくて、気付けば私の瞳からは大粒の涙が零れ落ちていた。

「うっ……ひっく……」

「我慢しなくていい、泣きたい時は、泣けばいいんだ」

父と母以外、そんな風に言ってくれる人はいなかった。
今までどんなに辛い事があっても決して人前で泣いたりはしなかったのに。

私は父と母が亡くなった日以降、初めて人前で声を上げて泣いてしまっていた。
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