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はじまり*名村 千鶴*

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どれくらい経っただろう。
ひとしきり泣いた私は今になって恥ずかしくなってきた。

「す、すみません、子供みたいに泣いてしまって」

泣いている間、ずっと抱き締めてくれていた貴志さんの顔を直視出来ず、失礼だと思いながらも顔を背けたまま彼から離れた。

「気にするな」

貴志さんは変わらず優しい声で言ってくれる。

「もう大丈夫なのか?」

「はい」

大丈夫、というのは半分本当で、半分は嘘。
本当はまだ不安が拭えていない。
けれど、これ以上迷惑をかけられないから私は大丈夫だと答えた。

でも、貴志さんには見透かされていた。

「なぁ、お前さえ良ければ、俺の所に来ないか?」

「え?」

「1人になるのは、不安なんじゃないか?」

「そ、そんな事……」

「……俺、家事全般苦手でな、今、住み込みで家事やってくれる人を探してるんだ」

「家事……」

「俺は、お前の力になりたい。大切な友人の娘の力に。俺の所に来ないか?」

多分、貴志さんは私が気を遣わない様に提案してくれたんだと思う。

(お父さん、お母さん、私、貴志さんに頼っても、いいのかな?)

本当は、ずっと孤独だった。
温もりが、欲しかった。


「――よろしく、お願いします」

「ああ、こちらこそ」


こうしてこの日私は、父と母の友人の貴志さんの元でお世話になる事を決めたのだった。
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