上 下
7 / 15
大切な存在*貴志 正宗*

しおりを挟む
突然の事だった。
親友の名村夫妻が亡くなったと報せを受けたのは。

報せを受けた時俺は仕事で海外に行っていてすぐに駆け付ける事が出来なかった。

葬儀に出席した時、2人の娘を見た。
まだ幼いそいつは、ただ泣くばかりだった。

数回しか会った事のない俺の事を覚えている訳もなく、その時の俺は彼女に何もしてやる事が出来なかった。

けどいつか、アイツがもう少し大人になった時、親友の大切な娘の為に何かしてやれたらとずっと思っていた。




そして月日は流れ、高校卒業を控えたアイツに再会した。

成長したアイツは驚く程明日香あすかに似ていた。

今度こそ何か力になってやりたいと思って声を掛けたが、俺の事を覚えていない彼女は当然俺を警戒していた。

名刺だけは渡せたが、連絡が来る事はないと諦めていた。


だから、連絡があった時俺は、

心の底から嬉しく思ったんだ。





「――さん…………貴志さん」

「ん……」

「貴志さん」

「……」

名前を呼ばれ、俺は薄らと目を開けると

「おはようございます……あの、朝食の用意が出来たので……」

俺を覗き込みながら彼女――名村  千鶴は控えめにそう口にする。

「ああ、ありがとう」

身体を起こし、ベッド代わりに使っていたソファーから降りた俺は食事が用意されているテーブルに着く。

「すみません、勝手に使わせてもらいました」

俺に遅れて彼女も席に着き、俺らは向かい合って座った。

「いや、それは構わない。それより悪いな、食事の用意させちまって」

「いえ、私は家事をやらせてもらう約束で置いてもらうので、これくらい当然です」

そう言いながら彼女は目を閉じ、両手を合わせると「いただきます」と口にした。
その姿が、啓太郎けいたろうそっくりで驚いてしまった。


名村  啓太郎、明日香は千鶴の父母だ。
啓太郎と俺は中学1年の時同じクラスで、明日香は俺の所属するバスケ部のマネージャーをしていて仲良くなった。

当時の俺は、明日香に好意を寄せていたが、明日香は俺の親友でもある啓太郎に想いを寄せていた。
啓太郎も明日香に惚れたらしく、程なく2人は付き合い始めた。

明日香への想いはあったが、啓太郎の親友として、友の恋を、大切な想い人の幸せを願い、俺は自分の気持ちを2人に悟られる事なくしまいこんだ。



しおりを挟む