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大切な存在*貴志 正宗*

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「おかえりなさい」

仕事を終えて帰宅すると、千鶴が笑顔で出迎えてくれた。
ドアを開けて、こうして部屋の明かりが灯っている事、誰かに出迎えてもらう事なんて、何年ぶりだろう。

「……ただいま」

あまりにも久々な事で、少し照れ臭くなる。

「ご飯にしますか?それとも、お風呂先に入りますか?」

「……風呂に入る。千鶴、俺の事は構わなくていいぞ。飯も自分でよそって食うから」

初日からこんな風に気を遣っていたら休まらないだろうと思って口にしたが、

「あの、貴志さんが迷惑でなければやらせてください。施設では小さい子の面倒をみたりして常に動いていたので、1人でボーッとしているのは何だか逆に落ち着かないんです」

千鶴にとっては色々やっている方が気が休まるらしい。

「……そうか、なら頼むよ」

「はい!」



独り者の俺が、親子程年の離れた女とひとつ屋根の下というのはなかなか難しい。
それでも、大切な親友の娘だ。アイツらが叶えられなかった分、千鶴を幸せにしてやらないとならない。
俺の元へ来たからには、淋しい思いや辛い思いもさせたくない。
いつも笑顔でいられるような環境を作ってやりたいと考えている。
が、女子供の扱いは経験が殆どなく、戸惑いしかない。
それに加えて千鶴自身、他人に甘えるという事が出来ない性格だ。

(俺が積極的に行動を起こさないと、駄目だよな)

シャワーを頭から浴びながら、ただひたすらそんな事を考えていた。



風呂から上がると、千鶴はテーブルに2人分の料理を並べていた。

「千鶴、お前まだ食べてなかったのか?」

「はい。一緒に食べようと思って」

「先に食べてていいんだぞ。今日はまだ早く帰って来れたが、いつも早いとは限らない。日付けが変わることもあるんだ」

「……そうなんですね、でも、出来れば一緒に食べたいんです。1人で食べるより、誰かと一緒に食べた方がご飯も美味しいですから」

千鶴の言葉にハッとする。
千鶴は淋しいと口にはしないが、淋しさを必死に隠しているだけだと。

「……そうだな、1人より誰かとの方がいいよな。じゃあ、一緒に食おう」

「はい」

共に席に着くと、朝同様手を合わせ、目を閉じて「いただきます」と口にした千鶴。彼女に合わせ、俺も同じようにしてから2人で夕飯を食べた。
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