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大切な存在*貴志 正宗*

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「千鶴、バイトはどうするか決めたか?」

静かな部屋でただ黙々と食べるだけというのは息が詰まるだろうと思い、何か話題をと千鶴に話しかける。

「はい。とりあえずどれも急には辞められないので暫くは続けるつもりです」

「バイト、いくつ掛け持ちしてるんだ?」

「コンビニと居酒屋とスーパーの3つです」

「そんなにしてるのか」

掛け持ちしているというのは予想していたがせいぜい2箇所くらいだと思っていた俺は驚いた。

「働くの、結構好きなので」

と千鶴は小さく笑みを浮かべながら口にする。働く事が好きなんて、なかなか言える台詞ではない。それが本当に本心からなのか俺には分からないが、好きだと言いながらも無理をしている事は分かる。

「無理はするなよ。それと、居酒屋は夜中までだろ?続けるのは構わないが、帰りが遅くなるなら俺が迎えに行く」

「そんな!そこまでしてもらう訳にはいきません。今まで1人で帰っていましたし大丈夫です」

「今までとこれからは違うんだ。一緒に住んでいる以上、今は俺がお前の保護者でもある。遠慮せずに頼ればいい」

「でも……」

「俺がそうしたいんだ。お前に何かあったらと思うと気が気でないからな。それに迎えに行くくらい手間でも何でもない」

どう言えば千鶴が気を遣わなくて済むのか分からず、頭の中であれこれ考えながら口にしていく。そんな俺の言葉に千鶴は

「……ありがとうございます。でも、居酒屋のバイトは近いうちに辞めるつもりなので、それまでの間だけ、よろしくお願いします」

持っていた箸を置き、律儀に頭を下げてきた。こういう真面目な所はやはり父親似なんだろう。

「ああ、分かったよ」

少しずつでも俺に遠慮しないで頼ったり何か我侭を言ってくれればいいと思ってはいるが、時間がかかりそうだと思った。
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