上 下
15 / 15
友達と彼氏の境界線*名村 千鶴*

しおりを挟む
「名村さん」

ある日、講義を終えて帰ろうとした私は男の人に呼び止められた。

「……どちら様ですか?」

相手は私を知っている様だけど、私には覚えがない。大学構内だし、見た感じ歳も近そうだから、恐らく同じ大学の人だと思う。

「あ、俺、富谷とみや  敬士けいしって言います。あの、ちょっとお時間いいですか?」

名前を聞いてもやっぱりピンとこない。だけど、彼――富谷くんは何ていうか優しそうな感じの人で、悪い人では無さそうだ。

「あの、この後予定があるので、少しだけなら」

「ありがとう!本当にすぐ済むから。ちょっとこっちに来てもらってもいい?」

「は、はい」

流れで彼に付いていく事になってしまった私は彼の後に続いて来た道を戻って行く。



着いた先は図書館の裏辺りで建物が死角になって人目につきにくい場所。
来る途中でどうしてこんな所に、と思ったものの、問い掛けるタイミングを失った私は結局着いてきてしまった。

「ごめんね、こんな所で」

「い、いえ、大丈夫です」

優しそうな人とはいえ、こんな所にのこのこ着いて来てしまったのはまずいかなと思った私は、なるべく早く用件を済ませて立ち去りたかった。
内心穏やかではない私をよそに、富谷くんは何か言いたげな表情で私を見つめてくる。
そして、

「――実は俺、名村さんに一目惚れしました」

彼が口にした言葉に、驚いた私は一瞬固まってしまう。

「あの、名村さんって彼氏……いたりする?」

「…………」

これは、所謂『告白』というものだろう。今までの人生で初めての経験だ。

「名村さん?」

「え、あ……す、すみません」

経験した事のない出来事が今まさに目の前で起きている。こういう場合、一体どうすればいいのか、よく分からない。

「か、彼氏はいません。その……恋愛自体、した事ないので」

「本当に!?」

「は、はい」

漫画とか、テレビドラマ何かでは目にした事のあった告白現場。
一生懸命想いを伝えてくれたのだろうし、良い人そうではあるけど、全く知りもしない人と付き合うなんて流石に怖くて出来ない。

そんな私の心を読み取ったかの様に彼は

「あの、突然こんな事言われて戸惑うかもしれないけど、俺、本気なんだ。友達からでもいいから、前向きに考えてくれないかな?」

友達からでもいいと言ってくれた。

「じゃ、じゃあ、友達からなら」

人見知りの激しい私には『友達』と呼べる人自体数少ない。
まして異性の友達なんて初めての事。

「ありがとう!じゃあ、早速連絡先の交換いいかな?」

慣れていない私を積極的にリードしてくれる富谷くん。




この出逢いが今後の私の人生を大きく変える事になるのだった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する