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しばらくして、赤い車が校門の前に止まった。運転席から女性が降りてきた。
『あれが、私のお母さん。お母さんはちゃんと耳が聞こえるよ』
その女性は車から降りると、クイクイ、と小さく小刻みに僕らに手招きした。
「あなたが翔くんですか?」
「あ、はい、そうです。」
「そうですか。話は夏海から聞いています。夏海を助けてくれたらしいですね。本当にありがとうございます」
夏海のお母さんは少し頭を下げた。きっと僕が隠れて彼女が暴力を振るわれるのを指を咥えて見ていたことを知らずに、こうやって感謝をしているのだろう。夏海からの感謝も、彼女のお母さんからの感謝も、言われる時は心苦しかった。隠れてばかりいた罪悪感、もそうだが、何だかどんどん真実を言える機会を逃しているようで。
「いえいえ、こちらこそわざわざ乗せて頂けるようで、ありがとうございます」
そんな会話をしていると、夏海に半袖のワイシャツの裾をクイクイっと引っ張られた。僕は彼女に続いて車の後部座席に乗り込んだ。
しばらく車を走らせていると、運転席から声をかけられた。
「昨日、夏海とやりとりしてたのって、翔くん?」
「え、あ、はい。多分そうです。何でですか?」
「昨日、あなたとやりとりしてる時、夏海すごく嬉しそうだったから。『明日また学校に行きたい』なんて言われたの、久しぶりだったから、何か言ってくれたのかと思って」
そんな経緯があったのか。もちろんそんなの僕に知る由もないが、自分とやりとりをして嬉しそう、と言われて嬉しくないわけはない。ただ、やはりどこか心苦しかった。そんな会話をしていると、僕のスマホがなった。
『なんの話してるの?』
「昨日の話。力になれて嬉しいよ」
少し彼女の打つ手が止まったのち
『もしかして、お母さん、昨日の話したの??』
「うん、こっちもありがとうね」
彼女がみるみる頬を赤らめていく。何か恥ずかしいことを聞かれた、みたいに。そんな彼女を見て、不覚にもそのいじらしい表情に見惚れてしまった。自然と表情が緩んだ。そうこうしているうちに、駅に着いた。
「駅で下ろせばいい?」
「はい、わざわざありがとうございます」
わざわざ、車を駅前のロータリーに止めてくれて、僕は車を降りた。
「じゃあね」
と僕は打ち込んだら、彼女は車内から手を振ってくれた。車が道に出て向こうに行って見えなくなるまで見送って、僕は家に帰った。
その晩も、彼女と軽くやりとりをした。今日、あの表情を見てから、僕の脳裏に彼女が焼き付いて離れなかった。僕はそんな彼女の過去に興味を持った。
「ここに転入する前は、どこにいたの?」
『私、違う学校にいた。でもすぐに辞めちゃった。その前も違う学校にいたけど、やっぱりそんなに持たなかった。』
そう聞いて、何だか聞いてはいけないことを聞いてしまった気になった。
「ごめん、変なこと聞いて。気分を悪くしたなら、謝るよ」
『ううん、大丈夫。それにこれは私が情けないだけだから』
もうそれ以上は詮索しなかった。これ以上、この話題に触れる気になれなかった。
少し重い話に揺れてしまったが、この日も、前日のようにたわいのない会話をして、終えた。この日も最後のメッセージは
『おやすみ』
だった。
『あれが、私のお母さん。お母さんはちゃんと耳が聞こえるよ』
その女性は車から降りると、クイクイ、と小さく小刻みに僕らに手招きした。
「あなたが翔くんですか?」
「あ、はい、そうです。」
「そうですか。話は夏海から聞いています。夏海を助けてくれたらしいですね。本当にありがとうございます」
夏海のお母さんは少し頭を下げた。きっと僕が隠れて彼女が暴力を振るわれるのを指を咥えて見ていたことを知らずに、こうやって感謝をしているのだろう。夏海からの感謝も、彼女のお母さんからの感謝も、言われる時は心苦しかった。隠れてばかりいた罪悪感、もそうだが、何だかどんどん真実を言える機会を逃しているようで。
「いえいえ、こちらこそわざわざ乗せて頂けるようで、ありがとうございます」
そんな会話をしていると、夏海に半袖のワイシャツの裾をクイクイっと引っ張られた。僕は彼女に続いて車の後部座席に乗り込んだ。
しばらく車を走らせていると、運転席から声をかけられた。
「昨日、夏海とやりとりしてたのって、翔くん?」
「え、あ、はい。多分そうです。何でですか?」
「昨日、あなたとやりとりしてる時、夏海すごく嬉しそうだったから。『明日また学校に行きたい』なんて言われたの、久しぶりだったから、何か言ってくれたのかと思って」
そんな経緯があったのか。もちろんそんなの僕に知る由もないが、自分とやりとりをして嬉しそう、と言われて嬉しくないわけはない。ただ、やはりどこか心苦しかった。そんな会話をしていると、僕のスマホがなった。
『なんの話してるの?』
「昨日の話。力になれて嬉しいよ」
少し彼女の打つ手が止まったのち
『もしかして、お母さん、昨日の話したの??』
「うん、こっちもありがとうね」
彼女がみるみる頬を赤らめていく。何か恥ずかしいことを聞かれた、みたいに。そんな彼女を見て、不覚にもそのいじらしい表情に見惚れてしまった。自然と表情が緩んだ。そうこうしているうちに、駅に着いた。
「駅で下ろせばいい?」
「はい、わざわざありがとうございます」
わざわざ、車を駅前のロータリーに止めてくれて、僕は車を降りた。
「じゃあね」
と僕は打ち込んだら、彼女は車内から手を振ってくれた。車が道に出て向こうに行って見えなくなるまで見送って、僕は家に帰った。
その晩も、彼女と軽くやりとりをした。今日、あの表情を見てから、僕の脳裏に彼女が焼き付いて離れなかった。僕はそんな彼女の過去に興味を持った。
「ここに転入する前は、どこにいたの?」
『私、違う学校にいた。でもすぐに辞めちゃった。その前も違う学校にいたけど、やっぱりそんなに持たなかった。』
そう聞いて、何だか聞いてはいけないことを聞いてしまった気になった。
「ごめん、変なこと聞いて。気分を悪くしたなら、謝るよ」
『ううん、大丈夫。それにこれは私が情けないだけだから』
もうそれ以上は詮索しなかった。これ以上、この話題に触れる気になれなかった。
少し重い話に揺れてしまったが、この日も、前日のようにたわいのない会話をして、終えた。この日も最後のメッセージは
『おやすみ』
だった。
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