心カヨワセ

Yakijyake

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気づけば保健室で寝ていた。まだクラクラする頭を起こすと横に座っていた夏海と目が合った。すると何を思ったのか、突然彼女は僕の方に倒れ掛かってきたと思いきや、涙を浮かべながらふわっと僕に抱き着いた。あまりにも突然だったからぼくは少し戸惑ったが、僕もしっかり彼女を抱きしめ返した。この時お互い一言も発することはなく、ただひたすら抱き合った。何もお互い言っていないのに、不思議なことに僕らはお互い何が伝えたいかが分かった。僕は彼女が言いたいことが手に取るように分かった。そして彼女も僕が言いたいことを理解してくれている。不思議に思っていたけど、ようやく理解した。
これが『通い合う』ってことなんだ。
これまで何度も気持ちを伝えようとしてきた。スマホを使ったり、紙に書いてみたり。その時ですでにお互いつながっているような気でいた。でもおそらくこの時点で初めて通えあったと思う。
そうして、なんとかまた仲良くなることができた。いじめもなくなったし、いじめてきた奴らはこぞって学校に来なくなった。ようやく人の目を気にせず、ただ仲良くすることができるようになったのだ。それからの半年はとても充実していて、幸せだった。
下校も二人で電車で帰るようになった。この下校の時間も好きだった。今までずっと一人で帰っていたのに、だれかと、特に夏海と一緒に帰るのはこんなにも楽しいことなのか、と実感した。
でも、そんな幸せも長続きしなかった。しかもそれは突然だった。木曜日の夕方。下校の時間を迎え、校門を出ると、久しぶりに夏海のお母さんと会った。
「今日は車ですか?」
「そう。翔くんも乗る?」
別に断る理由もないから、一緒に乗せてもらうことにした。最近は電車で帰っているのに、今日は車で、迎えがあったので何かあったのかと思って夏海のお母さんに聞いた。
「今日は何かあるんですか?」
「今日は何もないんだけどね。実は…」
いつもよりトーンの低い声で返ってきたので、僕は何か良くないことでもあるのかと思って、少し身構えた。結果、その勘は当たってしまった。

「実は。この街を離れることになったの。この週末には東京に行くことになったの」
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