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第7章:運命
お茶会04
しおりを挟む「さて、僕はノクティスが待っているからそろそろお暇させていただきますね」
和やかに挨拶をして席を立ってから「あ!」と、思い返す。
「そうだ皇太后陛下。今日のお茶会で振る舞われた紅茶の茶葉はオータムナルのようですが、最も希少で高価なのはファーストフラッシュだと知っていますか?」
「だからなんだというのだ……?」
「いえ。それほどこの紅茶を気に入っているなら、今度は僕が”正式な手順”でお茶会にご招待しようかと思いまして。毎年僕の誕生日には、東の国からファーストフラッシュの茶葉が贈られてくるので、おすそ分けしたいなって」
オレンジ色の瞳が憤怒に染まる。
ここまでこけにしたのだ。自尊心は酷く傷ついたことだろう。
だが、これまでノクティスが味わってきた苦痛に比べたらなんてことないだろ?
怒りを感じていることさえ、僕からすると許し難いというのに。
「では失礼——」
「待ちなさい!」
かな切り声が挨拶を遮った。
声の主は、さきほど見覚えがあると思ったきつそうな顔立ちの令嬢だ。
ズカズカと鼻息荒く僕の前までやってくると、「失礼にもほどがありますよ!」と怒鳴りつける。
その姿に記憶が刺激されて、ぼんやりとしていた既視感が明確になった。
「……んん?」
頭に響くキンキン声。
わずかな乱れもなくきっちりと纏められた髪に、糸で吊られたようピンと伸びた背筋……
「ああっ! もしかして君ってベルデ領に居たあの使用人?」
「——ッ」
そうか、だから僕を見て怯えていたのか。
でもなんで恐れているくせに、こんなふうに突っかかってくるのかな?
僕は彼女の方に近づいて、「元気そうだね?」と囁く。
彼女の目がぞっとしたように大きく開いた。
「まだ懲りてないの? それとも僕の悪い噂でも流して敵を作ろうとしているのかな?」
「っ失礼な! それに皇太后陛下に招いてもらったにもかかわらず、これほどまでに無礼なふるまいをするなんてさすが獣人と言わざるを得ませんね!」
失礼なのはそっちだろうに。
興奮状態の彼女を呆れてじっとり見返すと、突然手首を掴まれる。
いつぞやと似たような展開だな、と思っていると「皇太后陛下に謝りなさい!」と、命令までされてしまった。
当然、聞く気などない。
のりくらりと彼女をからかって遊ぶと、ついに怒りに支配された彼女が手を振り上げようとした。
今度はビンタでもする気か? 学習しない奴。
胸中でうんざりした時だった。
「なにをする気だ?」
腹に響くような低い声とともに、がっしりとした大きな手が、僕を打とうとした彼女の手首を掴む。
「彼は貴賓として招いているアンニーク王国の王子だ。たかだか令嬢ごときが手をあげていい存在ではないのだが……命が惜しくないようだな?」
「ひっ」
ノクティスから漂う殺気を真っ正面から浴びた令嬢が、怯えるように尻餅をつく。
冷たい紫の瞳は、地面に転んだままの彼女をゴミのように見下ろして、皇太后陛下を睨みつけた。
「皇太后陛下。前触れもなく突然招待したうえに、結果がこれですか?」
「これはこれはベルデ大公、久しいな。なに、その娘も悪気はなかったのだろう。我を守ろうとした一心のこと、許してくれるな?」
「許すかどうかは私が決めることではありません。この件については正式に抗議させていただきます」
ノクティスはそう言うなり僕の手を取り歩き出す。
だが、ぴたりと歩みを止めたノクティスは、最後に皇太后陛下に向き、
「皇族であるならば、それ相応の責任と品位を保っていただきたい」
最後にそう言い捨てたのだった。
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