恋人と別れるために田舎に移住体験に行ったら元二股相手と再会しました

ゆまは なお

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移住者交流会1

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 交流会と言う名の食事会は「カフェ・ラ・フェリーチェ」という店で行われた。
 夕方六時、七月の空は夕暮れの気配が見えるくらいだ。
 それほど広くない店には三組の夫婦と店のスタッフ二名がいた。松岡と榎本がその八人と親しげに挨拶している。ひとまず席に座って榎本が三組を紹介した。
「こちらの野田さん夫妻は農業をやりたいってことで、仕事を辞めて来られて、三年目ですかね」
「そうですね。丸二年は経ちました」
 灯里の向かいに座った五十前後に見える夫婦が穏やかに微笑んで会釈する。
 灯里もぺこりとお辞儀を返す。

「そちらの宮路さん夫妻はパン職人で、ご夫婦でパン屋さんをされてます。とてもおいしくて人気がありますよ」
 三十代前半くらいの夫婦が軽く頭を下げた。灯里も返す。
「向かいの佐野さん夫妻はお子さんがアレルギーをお持ちで、その療養のために引っ越してこられて、一年くらいですか」
「ええ、ここの空気がいいのか、あの温泉がいいのか、娘の体調がよくなりました」
 まだ二十代だろう、佐野夫妻はにこにこと榎本に返事をする。
 窓際のテーブルでこしょこちょしゃべりながら、お絵かきをしている子供が二人いるのに気がついた。幼稚園か小学校低学年くらいだろうか。
「宮路さんのお子さんで海斗(かいと)くんと、佐野さんのお子さんの優奈(ゆな)ちゃんです」
 目線に気づいた榎本が教えてくれる。灯里はうなずいて、目線を戻した。

「それから、ここのシェフの秋本さん。お手伝いしてる細野さんは秋本さんのお友達です」
 コックコートを着た小柄でやさしそうな笑顔の男が秋本で、でかくていかついエプロン姿が細野らしい。秋本はまだ二十代半ばの若いシェフで、細野はもう少し上だろう。
「細野さんはこの町にある私立高校の栄養士さんとして東京から転職してきたんですよ。開校時からいるから……もう五年目ですか? その後で秋本さんが引っ越してきたんですよね」
「ええ、細野さんのところに遊びに来たら、たまたまこのペンションが売りに出てて。で、カフェをやりたくて二年前に引っ越してきました。喘息もちなので、東京の空気はしんどくて田舎暮らしがしたかったんですよ」
 秋本は感じのいい笑顔で灯里に笑いかけ、最後に榎本がみんなに向かって灯里を紹介した。
「で、こちらはきょうの主役の富和さんです。東京でデザイン関係の会社にお勤めで移住を検討されてます。きょうは皆さんの本音のところをお話しして頂けたらと思いますので、ざっくばらんにお願いします」
「富和と申します。きょうはよろしくお願いします」
 榎本の紹介に灯里はぺこりとお辞儀をした。

「じゃあ紹介はこれくらいにして、食事にしましょう。みなさん、お腹もすいているでしょうから」
 榎本が言うと、細野が次々に料理を運んできた。
「海斗くん、優奈ちゃん、そっちで食べる?」
 秋本が子供たちに声をかけると、二人はテーブルの上を片づけた。
「うん、ここで食べる」
「ゆなのぶん、こっちにおいてー」
 秋本が持っているトレイの上には、オムライスにハンバーグ、海老フライとサラダにプリンが乗っている。お子様用のメニューに二人がわあと歓声を上げた。そのまま窓際の席に二人で仲良く座って「いただきまーす」と声を揃えた。

 ゆうべの持寄りの田舎料理の宴会とは打って変わって、木のぬくもりが感じられるログハウスのカフェにはおいしそうな匂いが漂っている。
 ジャガイモとキノコの冷製ポタージュ、たっぶりのサラダ、エビと夏野菜のグラタン、チキンと野菜のソテー、ナスとトマトのパスタなどがテーブルに並んだ。
 まずはみんなでビールで乾杯して、それぞれ料理を取り分ける。三組の夫婦はすでに仲がいいらしく和やかな雰囲気だ。
「このグラタンに使ってる野菜は野田さんから頂いたものなんです」
 秋本が教えると野田が照れ笑いをした。
 ズッキーニやパプリカが入った彩りもきれいなグラタンだ。
「いやまだまだおいしくできなくて、お恥ずかしいんですけど、きょうは交流会だってことで持ってきたんです」
「宮路さんのバゲットやクッペは最高ですよ。うちも仕入れさせてもらってます」
 今度はブルスケッタとガーリックトーストにしたバゲットをテーブルに出した。

「このあたりはあんまりこういう洋食の店がないから、このお店があって僕たちは喜んでるんですよ。子供もここが大好きだし」
「けっこう地元の奥さんたちもランチしに来てますよね」
「そうですね。ライバル店が少ないので、けっこう来てくださいますね」
 秋本は控えめな笑顔でうなずいた。給仕する奥さんの姿がないってことは、独身なんだろうか。こんなところに一人で来て、店を開くってどうなんだろう。
 まあでもこういう店だし、きっと出会いは色々あるんだろう。
 カウンターでドリンクを用意している細野も独身なんだろうか。子供用のジュースを運んでやり、何か話している。怖そうな顔をしているが、子供たちは懐いているようで楽しそうな笑い声が上がった。

「富和さんは独身ですか? お仕事は転職されるんですか?」
「え、はい。独身で、仕事はwebデザイナーなんで在宅勤務ができるんです」
「webデザイナーですか。よくわからないんですけど、なんかかっこいいですね」
「いえいえ、部屋に籠もってパソコンで作業するばっかりの地味な仕事ですけど」
 本当のことだ。デザイナーと言っても、ほとんどが資料を探したりパソコンでそれを加工したりといった地味な作業だ。
 最終的には広告としてネットや雑誌やテレビなどのメディアに載っていくけれど、クライアントの意向を聞いて修正を加えて、とその制作過程は派手さのかけらもない。
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