恋人と別れるために田舎に移住体験に行ったら元二股相手と再会しました

ゆまは なお

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トラブル続出7

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 そういえば、と思い出して食事を終えてから風香に電話を掛けた。
 今朝、松岡に掛けようとして明け方近くに着信があったのに気づいたのだ。向こうが何時かよく知らないが、風香は出なかった。また掛かってくるだろう、と一旦切る。
 午前中は念のため、二人とも布団でゴロゴロさせておいた。お腹が満たされたせいか、眠ってしまったから仕事をする。
 納期まであと二日、月曜午後にはデータを送信しなければならないので、すこし焦っていた。
 一時過ぎに起きて来たので昼は菓子パンを食べさせ、引き続き仕事部屋にこもる。朝遅くにしっかり食べたので時間節約のため灯里は昼は抜きだ。
「きょうはあまり外に出さずに、のんびりするように」
 と足立医師に言われたので午後はテレビを見せた。
 もうDVDは飽きたかと心配したが玲雄はお気に入りは何度見てもいいらしく、熱心に見ていた。流美は飽きているようで、お絵かきしたり折紙を折ったりしている。

 ピンポンとチャイムが鳴って出たら、佐野夫婦が立っていた。
「ごめんなさい、アポなしで来てしまって」
 連絡先を知らないから直接来たと妻の優子が頭を下げる。
「真希さんから話を聞いて様子を見に来たんですけど」
 移住者ネットワークのよしみで寄ってくれたらしい。
 手土産にスイカを渡され、リビングから玄関を覗いていた二人が優奈の姿を見てわーいと喜ぶ声が聞こえた。部屋で遊ぶのに飽きていたんだろう。
「どうぞ上がってください。優奈ちゃんと同じ年の女の子がいるよ」
「いえ、今から児童館の子ども広場に行くから誘いに来たんですよ。よかったら一緒にどうですか?」
「子ども広場?って何ですか?」
 図書館の二階が児童館になっているそうで、子供の遊び場として開放されているらしい。月曜から土曜日まで毎日開いているのだそうだ。

「実は朝ちょっと体調崩して、きょうはのんびりと言われたんですが、そこは大丈夫でしょうか?」
「お熱ですか?」
「いえ、脱水症状とあせもでべつに熱はなくて、ご飯も食べたしもう元気なんですけど」
 ざっと今朝の出来事を説明する。
「それは大変でしたね。子供の体調って急に変わるから、びっくりしたでしょう」
「ホント、たった三日でもうぐったりです」
「でも、じゃあちょうどいいと思いますよ。そこならエアコン効いた室内だし、おもちゃが色々あって楽しいんじゃないかな」
「るみ行きたい」
「れおもー」
 話を聞いていた二人が騒ぐので、行ってみることにする。仕事が中断されるのは辛いが、断るのもせっかく来てくれた佐野夫妻に悪い気がした。

 市役所に隣接した四階建ての建物の一階が図書館で、二階が児童館、三階は市民が集会に使える会議室や和室、四階が事務所になっていた。 
 児童館は広い部屋におままごと、つみ木やレゴブロック、灯里が初めて見たマグネットやネットの不思議なおもちゃ、赤ちゃんコーナーなど低い仕切りで分けられていて、子供たちは自由に遊べる。
 奥の部屋はもう少し大きな子供たちが卓球や立体的な迷路の遊具で遊んでいる。優奈と流美はおままごと、玲雄はレゴエリアへと走っていった。
「俺、図書館に行きますけど、富和さんも行きますか?」
「あ、いいですよ。私、見てますから」
 優子の言葉に甘えて二人を遊ばせたまま、佐野と一緒に階下の図書館へ降りる。

「けっこう広いんですね」
「ここ冬が長いでしょう。雪でどうしても外に出なくなるから、こういう児童館とか図書館を充実させようと頑張ってるみたいですよ」
 図書館なんかに来たのはいつぶりだろう。欲しい本はネットで頼むし、最近は仕事の資料にしか目を通さない日々だった。
 せっかく来たからと書架を見て回り興味を惹いたデザインの本や気になっていた小説を選び、ふと思いついて絵本コーナーに寄ってみた。
 今どきの絵本ってこんなカラフルで構図も色々なんだな……。子供の興味を引きそうなおもしろいタイトルが多い。適当に手に取って、自分が持っていた絵本のイメージと違うことに驚く。
 貸出カードは貸出機ですぐに作れたので何冊か借りてみた。

 しばらくして児童館に戻ってみれば、玲雄と見知らぬ子供が大泣きのケンカをしていた。
「おれがさきあそんどったやん」
「ちがうっ、ぼくのほうがここまでつかってた」
 レゴで遊んでいるうちに、隣で遊んでいた子とトラブルになったらしい。
「ほら、玲雄くん、こっちにすこし移ったら?」
 優子が声をかけているが、玲雄は悔しいのか顔を真っ赤にして相手の男の子を睨みつけている。
「佐野さん、すいません」
 あわてて灯里が駆け寄ると、優子はあらという顔をして「いいんですよ」と軽く笑って「よくあることですから」と言う。
「おまえがあとから来たのに、かってに入ってきたんやんか」
「ここ、いつもぼくがあそんでるよ。おまえ、だれ?」
「おまえこそだれやねん」
「へんな目とかみの色して、がいじんか?」
「がいじんちゃうわ、おまえこそ、あとから来たのにかってにつかうなやっ」
 そこに誰かが知らせたのか相手の親も駆けつけた。

「こら、祥平、お友達にそんなこと言ったらダメでしょ!」
「ともだちじゃないもん、こんな子見たことない」
「ここは誰が来てもいい遊び場なの。祥平の場所じゃないでしょ。うちの子が、すみません」
 灯里に向かって謝るので、灯里も軽く会釈して玲雄に向き直る。
「玲雄。こんな広いんだから一緒に遊んだらいいだろ」
「おれがこっちつかってたのに、あとから入ってきたんはあいつのほうやもん」
 それぞれ仲裁に入ってみたものの、機嫌を損ねた二人が仲良く遊ぶことはなく、そっぽを向いている。
 相手の親が「失礼なことを言ってすみません」と言ってくれたので灯里は「いえ、こちらこそ」と穏便に済んでよかったとほっとした。 

「優子さんにも迷惑かけて、すいませんでした」
 灯里が優子に頭を下げたら笑って首を振った。
 玲雄はプラレールコーナーへ移動して、そこにいた男の子ともう一緒に遊んでいる。
「ほんとに気にしなくていいですよ。ここで遊ばせていればあんなのしょっちゅうです。相手の親御さんも気にしてないと思います。うちの優奈は一人っ子だから、ここでああして少しは揉まれるのもいいなと思ってるくらいだし。玲雄くんは自己主張がはっきりできていいと思いますよ」
「そうですか?」
「そうですよ。ああしてケンカして、そのうち仲良くなったりしますから。暴力までいったらダメですけどね」
 周りの親たちを見まわしても、ちょくちょくケンカや泣き声が上がるが、あまり気にする様子はなかった。
 そういうもんなのか? 子供と接触のない灯里はこういうとき、どんな態度でいいのかよくわからなかった。玲雄や流美が誰かとケンカしたらと思うとひやひやしながら見守った。
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