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流されても・・・
しおりを挟むカリーナの件があってから数日、以降私達の間でもその事に触れることはなく、カリーナが再来訪することもなく、表面上は穏やかな日常が戻ってきた。
私自身は少しばかりのもやもやを胸に抱えつつも、それでもライルとの生活はなんだかんだ言って楽しかった。
しばらくは私のご機嫌を取る事に必死だったライルも、少しずつこちらの様子を窺うようにすることも無くなって…なんなら前のように少しばかり悪戯に手を出してくるようなことも増えてきた。
そしてその晩も、私が先にベッドに入っていると、その身体を後ろから抱き寄せて彼がすり寄ってくる。
「暑い…」
短く抗議の声を上げるけれど、そんな事で堪える男でもない。
「ん~」と甘えた声を出して、更に私の後頭部にすり寄ってくる。
普段の豪快で、それでもってどこか紳士的な彼が時々見せるこの甘えた姿は、正直ドキリとさせられるし、反則だと思う。
思えばカリーナの一件があってから、こうして甘えつつ、私の反応を探っているような節も見受けられる。
それが意識的なのか無意識なのかは分からないけれど…。
なんとなく、それがくすぐったい。
少しばかり頬が火照るのに気づかないふりをしながら、されるがままにしていると、不意に彼の手が腹を撫でてその手が上へ上へと上がってくる。
「っ――――!」
驚いて息を飲む。そんな私の反応に気付いているくせに、彼の息遣いもゆっくりな動きも変わらない。
拒否しなきゃ…そう焦る気持ちと、このまま受け入れてしまうのも案外嫌でもない…という気持ちが交錯して、どうすべきなのかという判断が咄嗟にできない。
どうしよう…。
きゅうっと目を閉じて、考えるその間に
「リリー」
甘い彼の声がため息をこぼすように熱く私の名前を呼んだ。
あぁ…これは逃げられないかも。
頭の片隅で、そんな諦めに似たような、それでいてどこか腹をくくったような思いが湧いてきた…時だった。
ドンドンドンドン
家の玄関扉を激しく叩く音が響いた。
私の脇腹を撫でていたライルの手の動きと、私の呼吸がぴたりと止まった。
そうして、ここで初めて互いに視線を合わせた。
ドンドン
扉を叩く音はなおも続いている…どうやら緊急の知らせらしい。
叩き方のリズムは、あらかじめ決められているライルの部下の者達の合図ではあるので、不審人者ではないので警戒する事はないのだが…。
こんなに夜遅くに礼儀正しい彼らが尋ねてくるのも珍しい。
「はぁ~くそっ!」
大きく息を吐いて、小さく毒づいたライルの腕が解かれ、解放される。
次の瞬間には背中にあった彼の熱が消え去り、彼が足早に部屋を出ていく気配を感じた。
ころりと転がって、少し隙間の空いた扉を見つめる。
灯が灯されて、ライルが玄関先で誰かと会話をしている様子が分かる。
どうやら状況としては、彼がすぐ飛び出していくような事態ではないらしい。
何か問題があって…その報告なのだろうか?
そうぼんやり考えて居た耳に、突如飛び込んできた声と言葉に、私は耳を疑う事になる。
「離せ!!俺の素性などどうだっていい!!リリーシャお嬢様はどこだ!!」
怒りをあらわにする低くうなるような声は、聞きなれた声だった。
「っ!?」
咄嗟に、布団をまくり上げ、はだしで駆け出す。
寝室の扉を開けて、一気に明るくなった視界に目を細めつつ、玄関先を確認すれば、こちらを驚いたように振り返るライルと、その向い側にいるディーン…そしてディーンの他数名の臣下達に拘束されながらも、こちらを見つめてきた男が目に入る。
「っ…ロブ!!」
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