家出令嬢が海賊王の嫁!?〜新大陸でパン屋さんになるはずが巻き込まれました〜

香月みまり

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まずは説得

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納屋に軟禁されているロブは、手を縛られているだけで、目立った外傷は無かった。
それに少しばかりホッと息を吐く。

「お嬢様!」

薄暗い納屋の中で、突如入ってきた強い光に眩しそうに目を細めた彼が、来訪者が私である事に気づいたのはすぐだった。 
私の後ろに続いてディーンが入り、扉を閉めた。そのまま彼は、扉にもたれかかるように立った。

私は薄暗い小屋の中をゆっくり進んで、ロブの少し手前の、積まれた干し草の上に座る。

「ケガはない?」
念のためそう聞けば、ロブはハッとした顔で見上げてきた。

「私はなにも・・・お嬢様こそ・・・ひどい扱いを受けてはおりませんか?」

ゆっくり首を振って、彼に向けて出来るだけ柔らかく微笑む。

「大丈夫よ。」

なんとなく、そうだろうとは思っていた・・・いくらロブや私の事を誤解して腹が立っていても、ライルはそんな事だけで、危害を加える人だとは思えない。

その自分の認識が間違っていなかった事に、胸の奥で安堵する。


「あのね、私は貴方にきちんと説明に来たの」

「説明・・・ですか?」


問う様に見上げて来た彼に、私は軽く笑って「そうよ」と頷く。

「確かにね。ここに来たのは最初は半ば拉致状態だったのだけどね。でも、私はここの生活が今すごく気に入っているの。だからこの島を出る事は考えていないわ」

一気にそこまで言って呆然とこちらを見上げるロブに「折角探してくれたのに、ごめんね」と詫びる。

「しかし・・・あの男が無理やり妻にと」

「んん~それはね・・・確かに強引にそうはなったんだけどね」

チラリと戸口のディーンを見れば、彼もなんとなく複雑な顔をしている。

そして、私はこれを今、ライルの側近である彼の前でいわなければならない事に少しばかり後悔しているのだ。

同席して後から貴方から伝えたらいい!なんて啖呵を切らなきゃ良かった。

でもきっと、これを言わなければロブは引き下がる事はしない・・・だから


「最初は強引だったけどね・・・でも今はそんな事ないの。私自身が彼と一緒にいる事を望んでいるから、彼と住んでいるの」

思い切って言い切る。ここで少しでも迷うような事をしたら、きっとロブはまた私が無理をしているのではないかと違う方向に勘ぐるかもしれない。

目の前のロブが、驚いたように目を見開き、後ろに控えているディーンがゴクリと唾をのみ込む気配を感じる。

ライルと顔を合わせなくなって…いや、カリーナの件からずっと私の胸の中にモダモダとたまっていたものがすっと解けていくように胸がすっとしていった。

結局の所、私はいつからかライルに惹かれていたのだ。
だからこそ、彼が単なる物珍しさで私を妻に望んだことが面白くなくて、彼の言葉を正面から受け取る事をしなかった。
触られるのだって抱きしめられて眠るのだって嫌でもなかった。

ただ、私は自分に自信がなくて…だからいつもライルの都合に付き合ってあげているというスタンスで自分を守っていたのだ。

「確かに最初の家出の目的とはずいぶん違うところに行きついてしまったのだけど…でも私はここで生きて行きたいの、だからごめんね、ロブ。あなたは、もう何も縛られないでいいの…自由に生きて?」

驚いた顔のままのロブに微笑みかけて告げれば、彼の双眸がわずかに揺れる。
私の護衛についていた騎士の中でも、彼は私の仕草や表情で意思をくみ取る事には長けていた。
だからこそ、私が無理をして強がっているわけではないことは伝わるはずだ。

後方に控えているディーンを振り返る。突然視線を向けられた彼は、驚いたように姿勢を正した。
そんな彼に私は、落ち着いた静かな声で問う。

「ねぇ、もしロブが私がここに居ることを他言しないのなら、島の外に出すことはできる?」

そう、ロブはおそらくライルが何者であるのか気づいていない。
騎士ではあるものの、しがない伯爵家に仕えるだけであった彼が、王子時代のライルを見ている可能性は低い。
知らなくても不思議ではない…そうであるならば、彼は私の事だけを黙っていると約束したら、この島から出ていく事も許されるのではないだろうか…。

暗にそうした内容を含んでディーンに問えば、流石は王子に一番近い位置にいた臣下である。
心得た顔になった彼は、眉を寄せて思案しだした。

「おそらくは…しかし、それも全ては頭の判断ですね。本人を説得してみるしかありませんね」

結局は、ライルに指示を仰げという返答ではあるものの、どうやら何とかなる可能性はあるらしい。

まぁ最後は、結局ライルだろうと踏んではいたので、予想通りの返答だった。

「そう、ロブ…あなたはどうする?」

何よりも、彼自身の事だ。彼がどうしたいのかを問うようにもう一度ロブに視線を移せば、ロブはがくりとその場に項垂れている。

「ん?あれ?どうしたの?」

解放されるのに嬉しくないのだろうか?それとも気が抜けたのだろうか?

不思議に思って彼の顔色を窺うように覗き込もうとすると、彼が「はぁ~」と大きく息を吐いた。

「できる事なら、私があなたのそばにずっといる男でありたかったです」

ぽつりとつぶやかれた言葉は、私の耳には入って来たけれど…その言葉の意味を理解するのに数拍時間がかかった。

「えっと…」
つまりそれは…。と確認しようとした矢先に。

「恐れ多い事です。忘れてください」
と話を切られてしまった。

「許されるのならば、私はここの島を出ましょう。もちろんここで見聞きしたことは他言いたしません。この際ですから、お嬢様の代わりに新大陸に渡って、色々見てきましょう。」
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