美形×平凡 短編BL小説集2

鯛田オロロ

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生まれ変わって(オメガバース)

生まれ変わって

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悲惨な最期だった。

俺は、何度も何度も刺されて死んだ。

夢の中で。



俺は、笑ってしまうのだが、夢の中ではどこかの国の王子だった。俺は王子なんて柄じゃないのに。

俺の国には別の国の王子が、人質として来ていた。

俺は、その子と仲良くなりたくて、遊びに誘ったり、贈り物をしていた。

だけど、その子は、俺が王子だから付き合ってくれているだけだった。それがわかって、俺は付き合わせるのをやめた。

そのうちに、その子の父親が死んで、その子は国に帰って、王位を継いだ。

それから少しして、その子が俺の国を滅ぼした。俺の両親の王と王妃も、王族も殺された。

王族でたったひとり殺されなかった俺は、その子の、なんていうか、性奴隷になった。夢の中の俺も、オメガだった。

それで、なんだかんだとあって、俺はその子の息子たちに刺し殺された。



悲惨だ。俺は、子供のころから、この夢をうんざりするほど見てきた。

子供ながらに、親には言えない夢だと思っていた。

それで、中学校に入って、俺にはわかった。

同級生のひとりが、夢の中のその子だって。

はじめは、自然と視線が吸い寄せられた。

俺は、あの子じゃないかと思った。あの子とおんなじ魂の持ち主じゃないかって。

でも、その子をつい見てしまうのは、すごく顔が整っているからだと、思おうとしていた。

完全にヤバいやつだな、俺。妄想も大概にしろ。



相手は俺のこと、なんとも思ってないみたい。気づいてないみたいだった。

いやいや、前世だとか生まれ変わりだとか、こんな妄想に取り憑かれてる俺がおかしいのだが。

その子は、樽岡永介と言った。

俺とその子の席は隣同士だった。

俺は入学早々、授業中にシャーペンを忘れていることに気づいて、隣の席の樽岡に借りることにした。隣の樽岡以外に声を掛けるのも不自然な気がして。

声をひそめて、樽岡に話しかけた。

「ごめん、シャーペン余分に持ってたら貸してくれない?」

樽岡は黙って俺にシャーペンを差し出した。

受け取るとき、たまたま手が触れて、その時にその子だとはっきりと確信した。



俺たちは、同じ給食委員になってしまった。

人気のない給食委員は、最後までじゃんけんで負け残った四人ということになり、俺も樽岡も負け残った。

樽岡といると、変に意識してしまってヤバい。

なぜなら、俺と樽岡ーーというか、夢の中のあの子は、夢の中では数え切れないほどセックスしてしまっているからだ。

中学生には刺激が強すぎるし、何より、樽岡をそういう目で見てしまう罪悪感が半端ない。

給食委員っていっても、うちの中学は昼飯は弁当で、給食は紙パックの牛乳だけだった。だから、正確には牛乳委員だ。

給食委員はその牛乳をクラスまで運んで、配って、飲み終えた紙パックを回収して、給食室まで持っていく委員会だ。

四人で担当するとはいえ、毎日のことだから結構めんどくさい。

二人一組でやるのだが、俺は極力、樽岡と絡まないようにしてた。

だけど、いつも組んでる同じ小学校出身の友達が休んで、牛乳をえっちらおっちら樽岡と運ぶ羽目になった。

会話もないし、ものすごく気まずかった。

学年が上がっても、なんとなく同じクラスにいたり、なんとなく同じ文化祭実行委員になったり、でも特に仲良くなるでもなく。

樽岡は陸上部で、俺はバドミントン部で、属するグループも違った。

時々、校庭をきれいなフォームで走る樽岡を一方的に眺めていた。だって、樽岡だけ、光って見えるから。



高校も同じだった。

大学も同じだった。

大学で樽岡を見つけたときは、飛び上がりそうになった。

俺は、樽岡と同じとこに行きたくて選んだわけじゃない。ほんとに偶然。

アパートも近くでびっくりしてしまった。

なんだか、自分が樽岡のストーカーのような気がしてくる。

それがなんと、バイト先も同じだった。本屋のバイト。俺が先に採用されてて、樽岡が後から面接受けて採用された。逆だったら、ストーカーだってまじで思われたかもしれない。

中高大と一緒で、バイト先も同じなのに、俺たちには事務的な会話しかない。

俺は、樽岡に嫌われてるのかもしれない。多分そう。

俺は、それが少しさみしくもあり。俺たち、前世では最期にすこし、気持ちが通じた気がしたのに。

まあ、あんな前世なら、思い出さないほうがいいよな。あんな前世なら、ないほうがいいし。

樽岡は残忍な征服王で、俺はその性奴隷とか。きついって。

それに、俺も、樽岡も、夢の中の人物とは別人だから。

なんと言っても、これはあくまで俺のリアルな妄想。俺の頭がおかしいんだと思う。

俺だけが、樽岡を前世だなんだと意識してるんだ。樽岡は俺のことをうざったいぐらいに思ってるだろうに。俺が変に意識してるから、樽岡に伝わってるのかも。

バイトの仲間にも、「椎名って樽岡くんのこと嫌いなの?」って聞かれたし。そんのことないよって言ったけど。

樽岡は、ありえないくらいのイケメンだし礼儀正しいし人当たりも悪くないけど、まあ自分の内面を話さないやつで、小中高と、ぼっちではないけど、ちょっと浮いてた、と思う。

モテるのに彼女がいるって話は聞いたことがない。

樽岡はバイト中、お客の女性から連絡先なんかを渡されそうになっても、すげなく断っていた。

まあ、しかし、内面を話さないし、げらげら笑わないし、羽目も外さない、そういうやつと仲良くなりようがないじゃん。

樽岡とシフトのときは苦痛といっても良かった。

樽岡がそういうやつなのもあるし、樽岡を見るだけで夢の中のセックスの光景が蘇るから。

書店名の印刷された紙のカバーを器用に本に掛けている、滑らかな指の動きにすらエロティシズムを感じてしまうのだから。

腹の奥が疼いてしまう。まじで困る。樽岡も俺から欲情されたら気持ち悪くてたまらないだろう。実は、もう、とっくにバレてるのかも。

俺が夢と同じオメガじゃなければ、こうも樽岡を意識しなかっただろうに。

ほんとは、俺が本屋を辞めて、違うバイトをはじめたらいいんだろうけど、仕事はたのしいし、樽岡以外とはうまくやれてるし、店長はいい人だし、シフトも融通きくし、辞めたくない。



もうバイトを始めて一年が経つ。だが、樽岡との関係は何も変化していない。

樽岡とシフトのときは、なるべく樽岡にレジを任せ、俺は返品をするか、ハンディモップ持って店内をぐるぐる歩き回っていた。

ほこりを取りながら、乱れた本を直し、声出して挨拶して、万引きの抑止にもなる。一石三鳥なのだ。

レジが混んでくると、樽岡が呼び出しメロディで俺を呼ぶ。



と、まあ、いつもこんなふうに働いている。

だけど、その日はそれで終わらなかった。

閉店間際、店内には俺と樽岡の二人だけで、ひましてる時間に、強盗があらわれた。

樽岡はフロアモップで床掃除していた。俺は店頭のパソコンで新刊の情報を見ていて、ぼちぼち、レジ締めを始めようかな、というところだった。

強盗が、レジの俺に、ナイフを突きつけた。

俺、一応男なのに。ヒョロヒョロのガリガリで舐められたらしい。

こういうときは、黙ってレジのお金を差し出すように店長から言われていたが、いざとなると俺は恐怖で頭が真っ白になっていた。

俺は、刃物が怖い。

ハサミはまだよくて、包丁、ナイフ、カッターあたりが怖い。何度も見る、夢の影響に違いなかった。

男が刃物を俺の喉元に突きつけ、早くしろ、と小さい声でどやした。

その時だった。

掃除からもどった樽岡が、床掃除用のフロアモップで、後ろから思いっきり男を殴りつけた。

そして、何度も男に振り下ろした。

「し、死んじゃうよ! やめろって!」

俺が叫ぶと、樽岡はモップを手から離した。床に落ちたモップががらんと音を立てた。

真っ青になって樽岡は床にしゃがみ込んでしまった。そして、ぶるぶると震えている。

男が頭から血を流して、床に倒れて呻いている。

俺は、救急車を呼んだ。その後、警察も呼んだ。



救急車か警察が来るまでの間、俺は顔面蒼白で震える樽岡をどうにかしてやらなくてはと思った。

樽岡は、俺を助けてくれたのだ。それで、人を殺しかけたのだ。

犯人には、どうにか助かってほしい。正当防衛とはいえ、樽岡に人殺しになってほしくない。

「せ、正当防衛、だよ、うん」

そう言って、少しためらって肩を抱き寄せると、樽岡が涙をたくさん溜めた目で、俺を見た。

「椎名が、ま、また、死んじゃうと、思って……」

また?



おわり



初出:2025/02/22
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