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第1話 陶器が眠る部屋※
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恋というのは狂っている。だから毎晩こうやって兄の部屋に忍び込んで寝顔を見る。常軌を逸した行動に、これ以外の動機や意味など何もない。
気持ちが暴れ出してどうにもならない時は兄の絵を描いて気を紛らわせていた。しかしもうそんなことでは自分を制御できなくなっている。
兄は陶器の置物のようだ。しっかりと閉じた目の流線、睫毛や二重の彫り、つるりとした肌。完璧で美しいものはなぜこんなにも不思議な気持ちにさせるのだろう。吸い込まれるように瞳を奪われるのに、その最中は摂理や運命といった無意味な思想に囚われるのだ。
兄は不思議だ。
兄の頬に指を寄せる。そっと触れた瞬間、その熱に罪悪感がどっと流れ込む。血の繋がらない、他人同士。この世の倫理から何一つ外れていないのに、こんなにも兄は遠い。罪悪は相手の寝込みに自分本位な行為をすることにあって、それ以外に何一つ所以はないのに、兄はこんなにも遠いのだ。
これが血が繋がっていたらどうだろう。血の繋がった男同士という十字を背負いゴルゴタの丘を登るのだろうか。
「夜……」
兄の名を夜という。こんなに美しい名を他には知らない。春夏秋冬の夜、様々な表情を持ちながら、何者にも染められないその美しさが、兄そのものだった。
頬をかすめた指が行き場を失って、夜着の襟元に伸びる。ボタンに手をかけたその時、兄の呼吸が変わった。目を覚まさないでほしい、ほしくない、両方の感情が鼓動を加速させる。ボタンとボタンの間の隙間から指を一本差し込む。夜の肌に触れ、その体温に胸が締め付けられる。
「夜……起きて……」
夜、夜、心で呼ぶ声とは裏腹に自分から漏れ出す声はくぐもって小さい。このまま目を覚まさなければ取り返しのつかないことをしてしまう。心から分離したように体は勝手に動き、夜の唇に顔が吸い寄せられる。置き去りの心が後ろから兄の名を必死に呼ぶ。その時。
「灯……どうしたの……」
さっきまで分離していた心の場所に体が戻った。でも心臓はさっきまでいた場所で打つかのように自分の前で鳴っている。
「兄さんの……イビキが凄いから……死んじゃうのかと思って……」
「え……ごめん、そんなにうるさかった……?」
「ううん、ごめん嘘だよ……」
陶器のような寝顔だったその美しさに、自分の嘘を押し通せず、目を合わすことができない。
「どうしたの? 眠れないの?」
「うん……」
「灯……最近変だよ……」
夜は無防備に手を伸ばし、俺の頭を撫でる。2回、俺の髪の毛をくしゃくしゃにしたら、腕を下ろした。その時に手が俺の頬をかすめる。なんの動機も意味も持ち合わせない、手の感触だった。
「たまには一緒に寝る?」
昔みたいにさ、夜のその言葉は置き去りにされた自分の心が聞いていた。体は反射的に動いてとっくに夜に覆いかぶさっている。
唇を重ねられた夜は一度もまばたきをしなかった。唇は固く閉ざされ俺を押しやろうと渾身の力で拒絶している。俺は構わず夜の夜着のボタンを丁寧に外していく。それに抗議しようと夜が口を少し開けたから、舌を入れた。噛まれるくらいは覚悟をしていた。でも夜は俺の舌から逃げ回るだけで噛みはしなかった。
唇を離した瞬間、俺は夜の上着を上に引き上げる。腕が引っかかって外れないことを確認したらそのまま服を、枕の先のベッドのパイプに括り付け固く縛った。
「灯っ!」
「大きな声出さないで、夜。声出したらもっと怖いことするよ」
美しい顔を引きつらせて夜は慄き口を噤む。その顔を見ていられなくて、俺は露わになった夜の上半身に舌を這わせた。くすぐったいのか俺から逃れるように身を捩らせる。そしてベッドに括り付けられた服から手を抜こうと必死で腕を動かしていた。
「夜……夜……痛いことはしないから……動かないで……」
観念したのかじっと俺を見つめる夜の瞳が少し潤んでいる。その目を眺めながら上の服をたくし上げ脱いだ。服が自分の顔を通過した後見た夜の顔はさっきとは違っていた。恐怖に加え、やめてくれという懇願の色が滲んでいる。
「そんな顔してもやめないよ、夜が言ったんだよ。一緒に寝ようって」
「ちが……」
その否定は俺が口を塞いで飲み込んだ。口の中を犯しながら、その陶器のような顔を包む。頬を指で撫で、耳の輪郭をなぞった。それに合わせて夜がビクビクと痙攣する。口の奥を犯しては唇も喰み時々離せば離れたくないといやらしい音を立てる。さっきまで目の前で鳴っていた鼓動はドクドクと体を通り抜け腰の後ろに集約された。
「そういうこと言っちゃいけないってなんでわからないの?」
夜は恐怖のあまりか小刻みに首を振る。しばらく動かずにいたら、夜が唇を噛み締めて俺が伸ばした腕の先を目で追った。手が目的地に到達すると、夜は顔を背けた。それは夜が認めたくないと顔を背けるほど硬くなっていて、俺は湧き上がる喜びに自分の顔が綻ぶのがわかる。
「もう他の人にそういうこと言わないようにちゃんと教えてあげるね」
服の上から触るか触らないかのところで撫で回し、時々物欲しそうに跳ね上がるそれも無視して焦らす。そして同時に露わになった胸の先端を口に含んだ。本当にくすぐったいのだろう。体を捩らせ逃げるそれを執拗に追い回した。下半身とこれを同時に攻めて、快感を覚えさせなければならないという使命感でつい強めに噛んだ。
「ぃぁっ……!」
「ごめん……もう少しで気持ちよくなるから我慢して……」
その言葉に下半身がビクビクと動いて返事をする。乳首を飲むように吸い上げ、歯で輪郭をなぞり、全体を喰む。それを繰り返しているうちに、夜の息に小さな声が混ざるようになった。それに気がついて顔を上げると、夜は顔を紅潮させ短い息を必死に堪えていた。顎を掴みこっちを向かせてその顔を観察する。
「夜……すごく綺麗だ……」
夜に一つキスをしてもう一度顔を見る。短い息に怯える瞳が揺れている。もう一度唇同士を合わせて、舌を挿入する。
「ぁ……は……あか……ぅ……」
そして俺の手が夜の下の服を脱がしにかかった時、夜は腕を振り回し始めた。唇を少し離し、夜をじっと見る。
「恥ずかしがらないで……」
夜が安心できるように自分の下も脱いで、少し下ろした夜の下半身に押し付けた。
「ちが……もう……やめて……!」
「大きな声出さないで……お母さん来たら俺殺されちゃうよ……?」
夜と俺は連れ子同士の兄弟だ。そして夜は母の子。俺は今日、どんな汚い手でも使う。その覚悟を悟ったのか夜は目から涙を溢した。
気持ちが暴れ出してどうにもならない時は兄の絵を描いて気を紛らわせていた。しかしもうそんなことでは自分を制御できなくなっている。
兄は陶器の置物のようだ。しっかりと閉じた目の流線、睫毛や二重の彫り、つるりとした肌。完璧で美しいものはなぜこんなにも不思議な気持ちにさせるのだろう。吸い込まれるように瞳を奪われるのに、その最中は摂理や運命といった無意味な思想に囚われるのだ。
兄は不思議だ。
兄の頬に指を寄せる。そっと触れた瞬間、その熱に罪悪感がどっと流れ込む。血の繋がらない、他人同士。この世の倫理から何一つ外れていないのに、こんなにも兄は遠い。罪悪は相手の寝込みに自分本位な行為をすることにあって、それ以外に何一つ所以はないのに、兄はこんなにも遠いのだ。
これが血が繋がっていたらどうだろう。血の繋がった男同士という十字を背負いゴルゴタの丘を登るのだろうか。
「夜……」
兄の名を夜という。こんなに美しい名を他には知らない。春夏秋冬の夜、様々な表情を持ちながら、何者にも染められないその美しさが、兄そのものだった。
頬をかすめた指が行き場を失って、夜着の襟元に伸びる。ボタンに手をかけたその時、兄の呼吸が変わった。目を覚まさないでほしい、ほしくない、両方の感情が鼓動を加速させる。ボタンとボタンの間の隙間から指を一本差し込む。夜の肌に触れ、その体温に胸が締め付けられる。
「夜……起きて……」
夜、夜、心で呼ぶ声とは裏腹に自分から漏れ出す声はくぐもって小さい。このまま目を覚まさなければ取り返しのつかないことをしてしまう。心から分離したように体は勝手に動き、夜の唇に顔が吸い寄せられる。置き去りの心が後ろから兄の名を必死に呼ぶ。その時。
「灯……どうしたの……」
さっきまで分離していた心の場所に体が戻った。でも心臓はさっきまでいた場所で打つかのように自分の前で鳴っている。
「兄さんの……イビキが凄いから……死んじゃうのかと思って……」
「え……ごめん、そんなにうるさかった……?」
「ううん、ごめん嘘だよ……」
陶器のような寝顔だったその美しさに、自分の嘘を押し通せず、目を合わすことができない。
「どうしたの? 眠れないの?」
「うん……」
「灯……最近変だよ……」
夜は無防備に手を伸ばし、俺の頭を撫でる。2回、俺の髪の毛をくしゃくしゃにしたら、腕を下ろした。その時に手が俺の頬をかすめる。なんの動機も意味も持ち合わせない、手の感触だった。
「たまには一緒に寝る?」
昔みたいにさ、夜のその言葉は置き去りにされた自分の心が聞いていた。体は反射的に動いてとっくに夜に覆いかぶさっている。
唇を重ねられた夜は一度もまばたきをしなかった。唇は固く閉ざされ俺を押しやろうと渾身の力で拒絶している。俺は構わず夜の夜着のボタンを丁寧に外していく。それに抗議しようと夜が口を少し開けたから、舌を入れた。噛まれるくらいは覚悟をしていた。でも夜は俺の舌から逃げ回るだけで噛みはしなかった。
唇を離した瞬間、俺は夜の上着を上に引き上げる。腕が引っかかって外れないことを確認したらそのまま服を、枕の先のベッドのパイプに括り付け固く縛った。
「灯っ!」
「大きな声出さないで、夜。声出したらもっと怖いことするよ」
美しい顔を引きつらせて夜は慄き口を噤む。その顔を見ていられなくて、俺は露わになった夜の上半身に舌を這わせた。くすぐったいのか俺から逃れるように身を捩らせる。そしてベッドに括り付けられた服から手を抜こうと必死で腕を動かしていた。
「夜……夜……痛いことはしないから……動かないで……」
観念したのかじっと俺を見つめる夜の瞳が少し潤んでいる。その目を眺めながら上の服をたくし上げ脱いだ。服が自分の顔を通過した後見た夜の顔はさっきとは違っていた。恐怖に加え、やめてくれという懇願の色が滲んでいる。
「そんな顔してもやめないよ、夜が言ったんだよ。一緒に寝ようって」
「ちが……」
その否定は俺が口を塞いで飲み込んだ。口の中を犯しながら、その陶器のような顔を包む。頬を指で撫で、耳の輪郭をなぞった。それに合わせて夜がビクビクと痙攣する。口の奥を犯しては唇も喰み時々離せば離れたくないといやらしい音を立てる。さっきまで目の前で鳴っていた鼓動はドクドクと体を通り抜け腰の後ろに集約された。
「そういうこと言っちゃいけないってなんでわからないの?」
夜は恐怖のあまりか小刻みに首を振る。しばらく動かずにいたら、夜が唇を噛み締めて俺が伸ばした腕の先を目で追った。手が目的地に到達すると、夜は顔を背けた。それは夜が認めたくないと顔を背けるほど硬くなっていて、俺は湧き上がる喜びに自分の顔が綻ぶのがわかる。
「もう他の人にそういうこと言わないようにちゃんと教えてあげるね」
服の上から触るか触らないかのところで撫で回し、時々物欲しそうに跳ね上がるそれも無視して焦らす。そして同時に露わになった胸の先端を口に含んだ。本当にくすぐったいのだろう。体を捩らせ逃げるそれを執拗に追い回した。下半身とこれを同時に攻めて、快感を覚えさせなければならないという使命感でつい強めに噛んだ。
「ぃぁっ……!」
「ごめん……もう少しで気持ちよくなるから我慢して……」
その言葉に下半身がビクビクと動いて返事をする。乳首を飲むように吸い上げ、歯で輪郭をなぞり、全体を喰む。それを繰り返しているうちに、夜の息に小さな声が混ざるようになった。それに気がついて顔を上げると、夜は顔を紅潮させ短い息を必死に堪えていた。顎を掴みこっちを向かせてその顔を観察する。
「夜……すごく綺麗だ……」
夜に一つキスをしてもう一度顔を見る。短い息に怯える瞳が揺れている。もう一度唇同士を合わせて、舌を挿入する。
「ぁ……は……あか……ぅ……」
そして俺の手が夜の下の服を脱がしにかかった時、夜は腕を振り回し始めた。唇を少し離し、夜をじっと見る。
「恥ずかしがらないで……」
夜が安心できるように自分の下も脱いで、少し下ろした夜の下半身に押し付けた。
「ちが……もう……やめて……!」
「大きな声出さないで……お母さん来たら俺殺されちゃうよ……?」
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