俺の調教開発では美しい兄を飼犬にはできない

大田ネクロマンサー

文字の大きさ
10 / 25

第10話 あの日の2人※

しおりを挟む
 風呂まで夜に手を引かれて歩いた。いつも見上げていた兄は今、俺よりも小さい。脱衣所に入るなり兄は俺の上着のボタンを外しはじめる。その震える指に無理を隠しているような気がしてつい横槍を入れてしまう。

「自分でできるよ……」

 兄は困ったような顔で俺の喉元らへんを見ていた。ボタンを外そうとしていた手で襟元を掴み俺は夜に手繰り寄せられる。
 兄は俺の唇に自身のそれを重ねた。あまりの自然なその動作に、一体なにをされたのかわからなかった。

「人のは脱がすくせに……」

 服なんてどうでもいい、もう一度夜の唇に触れたい、そう思うのに体が痺れて動かない。以前に投げ込まれた気持ち悪いという言葉と夜の表情が胸を縛って離さない。俺が動けずにいる間に夜はテキパキと服を脱がしていく。夜が下着とともに下を脱がすために屈んだ時、小さな声で言った。

「先に入ってて」

 声が小さかったというよりも、状況が理解ができず、言われた通りに風呂に進み湯船に浸かった。しばらくぼんやりしていたら風呂の戸が開き人が入ってくる気配がする。その様子を顔を向けて確認することもできず、俺の視界に右足、左足と入って来るまで、それが夜だとわからなかった。夜は俺とは反対側の風呂の端に座るがそんなに広くない風呂に男2人は窮屈で足が絡むように当たる。

「灯とお風呂なんて久しぶり……2人とも大きくなったね……」

 その言葉に答えることもできなければ顔を上げることもできずにいると、夜は一つ息をした。

「お母さんに怒られたよ。灯の誕生日どうして忘れたんだって。プレゼントもらったって僕を庇ってたって」

「違う……」

「昔の灯みたいにずっと泣き出しそうなのは僕のせいなのかって、怒られた……」

「違う……ごめんね……」

「僕にひどいこと言われたから……」

「違うよ! 夜はなにも悪くない!」

 思わず顔をあげる。夜はすごく綺麗な顔で少し笑っていた。その顔に見惚れてその目を鼻を唇を眺めていたら、夜がゆっくり口を開いた。

「灯の言う通りだったよ。大学に来てくれた時一緒にいた人……」

 その言葉に血の気が引いて、血が集まったその手で夜の腕を掴んだ。

「大丈夫、灯が教えてくれたでしょ。押し倒されたけど、ちゃんと急所を蹴って帰ってきたよ」

 普通の会話のトーンで夜はとんでもないことを言う。安堵とともに、掴んでしまった自分の手の置き場に困っていたら、夜がその手を撫でた。

「その時に、嫌だって思った」

 夜は一目でわかるくらい瞳に強い意志を宿らせて俺を見つめた。

「灯じゃないと嫌だって思った」

 風呂が思い出したかのように静かになる。俺は頭も視界も真っ白で、微動だにできない。夜が水をかき分け、俺の方へやって来る。俺の胸に手をつき、首に頭をもたげ、俺の名を呼ぶ。

「灯……ひどいこと言って……ひどいことして……ごめん……」

「夜はなにも悪くない……」

 オウムのように何度も同じことを言う。しかしこれ以外の感情がなかった。俺の自分本位な欲望で夜を汚した、急所を蹴られても文句を言えないのはあの男と同じだった。夜がゆっくり上を向いて、また俺の唇にキスをする。軽く触れたら夜は唇同士の隙間に言葉を挟んだ。

「あんなこと言ってごめん。でももうお兄ちゃんでいられなくなるような気がして……怖かったんだ……」

「兄さんは兄さんだよ……」

 また夜がキスをする。恐る恐る夜の背中を触ったら、夜が腕を上げて水音が風呂に響き渡る。俺の首に腕を回して夜は口の中を求めた。夜の舌や口の中は燃えるように熱く、自分の舌はその熱で溶け出し夜にまとわりつく空気のようだった。その空気を名残惜しむかのように唇が離れ、優しい顔で微笑む。

「どっちがお兄ちゃんだかわからないね……」

「夜が……好き……夜以外いらない……」

 夜は軽くキスをして俺を見た。頬を撫でてそのまま耳の上から髪をすいて頭を撫でた。

「灯……そこに座って……」

 唐突に夜が風呂の縁を見ながら言ったから、俺はそれに従い風呂の水を引き揚げながら立ち上がり、浴槽の縁に座った。夜は俺の股を手で押し広げその間にすっぽりと入る。夜が口を開けた時、なにをしようとしているのか理解した。

「夜……! 夜はそんなことしなくてもいい!」

「人にはするくせに……」

 そう言いながら夜は俺のだらしなくなっていた陰茎を口に含んだ。その感触にそれはすぐに反応して夜の口になにかを求めるように大きくなる。夜が丁寧に輪郭を舌でなぞるその軌道が俺の背筋まで快感をもたらした。

「夜……ダメだって……」

 夜は俺の言葉など聞こえないふりをして構わず軌道を描き続ける。まるで飴を舐めるような優しい舌の感触に我慢ができず息を漏らす。俺の眼下で一生懸命にしている夜が急に小さく見えた。夜の肩を掴んで少し押して、口を離してもらう。

 風呂の縁から下りて夜の唇を丁寧に舐める。そのまま腰を引き寄せ、仰反る拍子に露わになった夜の乳首を吸った。最後に吸った日からだいぶ経っていたが、夜の体は覚えていてくれた。それが嬉しくてもっと思い出してもらえるよう、夜が嫌がり、でも触ってほしいと願っていた場所を丹念に舌でなぞる。

「あかる……最後まで……しよ……?」

 その言葉でも夜の肌から唇を離すことはできなかった。夜の胸の中で唸るように質問する。

「夜はお兄ちゃんだからそんなこと言うの?」

 兄が兄の義務感からそんなことを言い出したのかと思った。償いなんて的外れな理由で自分の体を預けて欲しくはない。

「さっきも言ったでしょ……ねぇ灯、ちゃんと聞いてよ……あかる……」

 兄の言葉などよくわからなかった。下半身に這わせた俺の手を掴んで夜が真っ直ぐ俺を見る。

「最後までして……怖い……?」

 夜の顔にそっと顔を寄せて、あの日以来近づけなかった唇を見つめる。自分の迷いを振り切るにはかなり遅いスピードで夜の唇に到達した時、不覚にも涙がボロッと溢れて慌てて体を離した。

「灯先に出て、部屋で待ってて」

 ね? と俺が近づけない唇を容易に俺の唇に重ねる。しばらく見つめていたが、これ以上夜を困らせてはのぼせてしまうと考え至り、黙って風呂を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...