座敷わらしの恋

みん

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3.新たな日常

20澤井

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 今回の撮影はスタジオではなく、会社で契約しているアパートを使うようだ。
 松永に連れられて到着した部屋は、こぢんまりとした普通の部屋のように見えた。
 家具の横に三脚に乗ったカメラが何台も置いてあり、部屋に対しての人数が多いことがこの空間を異質に作り上げている。


 シャワーを浴びるために隣の部屋に連れてこられた雪也は、松永から撮影の流れを教えてもらっていた。
 スタッフに渡された台本を読まずにそのまま松永に渡しても、松永は嫌な顔一つしない。
 ここ数日で雪也の識字能力についてはすでにバレてしまっている。

 今回の撮影のテーマは、先輩と後輩のイケナイお遊び。
 先輩に誘われておもちゃプレイをしてみたら、後輩が思った以上に淫乱だった、という設定だった。

 大丈夫か?と優しく問われて、こくんと頷く。
 緊張は感じなかった。
 ただ松永に見られながら淫乱になるだけだ。

 何故かその松永の方が緊張しているように見えて、頬が緩んでしまう。


「俺にまかせて」
「……おう」

 
 雪也の頭にドライヤーをあてていたヘアメイクの女性があわあわしているのを尻目に雪也は松永の赤い顔を見つめた。




 時間が近づくと、松永の手ずからシャツにジーンズを着せられる。
 今日は服なんだな、と思いながら撮影場所へ入室した。
 ベッドの上にちょこんと腰を下ろすと、同じタイミングで相手役のタレントが入室する。


「おはようございまーす! えっ社長?!」


 刈り上がった明るい茶髪に、日焼けした肌。体に密着したティーシャツが引き締まった肉体を強調している。
 外国の血が入っているのか、日本人にしては彫りが深い。

 フォーシーズン所属の男優、澤井さわいタカユキである。
 部屋に立ち入った澤井は、一番に松永の姿を見とめてぎょっと目を見開いた。


「俺がいちゃ悪いか?」
「いや全然。びっくりしただけっす。篤史から聞いたけど、ほんとなんすね、社長のお気に入りって」


 澤井が苦笑しつつも雪也を振り返る。
 首を傾げると、澤井は手を差し出した。


「俺は澤井タカユキ。今日はよろしく、雪也」
「澤井さん! こちらこそー」


 差し出された手を握って笑顔を向ける。
 澤井は勢いよく顔だけで松永を振り返った。


「めっちゃ可愛いっすね! 俺がノーマルじゃなかったらコロっといきそうっす!」
「やらんぞ」
「俺にはかっこよくて可愛い年上の彼女がいるんで!」


 澤井は体の前で腕をクロスさせて、誇らしそうに胸を張った。
 真似してポーズを取ると、驚いたような澤井と頭を抱える松永が出来上がった。
 なんで?


「……絡みの撮影は初めてだからリードしてやれよ」
「ふふーん……もちろんっすよ! 雪也、今日は気持ちよくしてあげるからね」


 澤井が笑顔で雪也の頭に触れる。


「ん。きもちくしてね」


 へらりと笑うと松永は複雑そうな顔でベッドの横から退いた。
 澤井が自然な動作で横に滑り込むように座る。
 肩と腕を触れ合わせて、澤井は悪戯に笑みを深めた。


 カメラが音もなく回り出す。


(俺の、仕事をしなくちゃ)
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