座敷わらしの恋

みん

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3.新たな日常

18新しい日々

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「雪也さん、今日はペペロンチーノですよ」
「わー! 聡子さとこさんありがとう!」


 テーブルの上に乗せられた食事を見て、雪也はキラキラと目を輝かせた。
 ベージュ色のつやつやとした紐のようなものの乗った皿が、カップに入ったスープと共に並べられている。
 肉と野菜が一緒に炒められたそれは彩りもよく、香りもいい。


「俺なんかのためにありがとー」
「いやですよぉ。これが私の仕事ですからね。さっ食べてくださいませ」


 勧められるがままに笑顔で椅子に座る。
 家政婦の安川やすかわは苦笑して向かい側に腰を下ろした。

 松永の家の座敷童になってから早三日。
 昨日と今日は雪也は留守番である。
 フォーシーズン以外にも会社を経営する松永は、暇ではない。
 別の会社に出勤する時は雪也を連れて行かないことにした松永は、雪也のために家政婦を雇った。

 家事代行サービスで訪れた安川は、五十代半ばほどの恰幅のいい女性である。

 初めこそびくびくしていた雪也であったが、安川の面倒見の良さと遠慮のない態度にすぐにその緊張を解いた。
 誰かに親身に世話を焼かれることに気恥ずかしさは感じるものの、嫌ではない。

 何も知らない雪也に、知りたがれば安川はなんでも教えてくれた。
 洗濯機の使い方、暖房の使い方、掃除機の使い方。料理だけは危ないからと遠ざけられたが、テレビの使い方まで。

 もちろんそのすべてを身につけられたわけではないが、雪也は洗濯物を畳むことは昨日でマスターした。
 松永と雪也の分しかないそれの量はけして多くはないが、やり遂げた達成感が乾いた心を癒す。


「おいしい!」
「ふふふ、それは良かったわ」


 恐る恐る咀嚼した初めてのペペロンチーノに感動を覚える。
 昨日は寒いからと鍋料理を夕飯に用意してくれた。
 その温かさがずっと胃の中にあるようだ。
 雪也の様子に安川も微笑んで、フォークを口に運んだ。


「毎日聡子さんのご飯が食べられたらいいのにー」
「そう言ってもらえて嬉しいけど、明日は私はお休みですよ」
「ちぇー」
「ふふ、社長さんと美味しいものでも食べてきてくださいませね。それで次に会った時に私にも教えてくださいな」
「わかった!」


 安川は出勤する松永と入れ替えで部屋を訪れて、雪也と会話しながら家事をこなしている。
 松永がフォーシーズンに出勤するときは雪也を連れて行くため、別の家で家事を代行するのだという。

 雪也は自分の仕事を進んで実行する安川や、毎日仕事に出かける松永を羨ましく思っていた。


「俺にもできる仕事がもっとあればいいのにな」
「雪也さんは出来ることをしてくださってますよ」


 漏れ出た願望に安川が苦笑して答える。


「そうかなぁ」
「そうですよ。洗濯物も畳んでくださいましたし、何より社長さんを笑顔でお出迎えするお仕事があるでしょう」


 それは果たして松永のためになる仕事なのだろうか。
 にこにこと微笑む安川に首を傾げて、雪也は次の撮影を待ち遠しく思った。

 
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