僕が償うべきもの

浅葱 絢瑪

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僕の罪は……

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 どれほど深いのかも分からない水辺。漆黒の闇と僅かな蒼が混ざった空に疎らに星が点在している。どこを見渡しても水平線が広がっている、そんな場所。昏くて、寂しい場所。

 そんな場所にどうして人間が一人ここにいるのか分からなかった。

いや、どうして人間が一人ここにいるのかは知っているのだ。本人も、神も、人間の定めを書いていると言っていたから。でも、それは元々神が決めること。


人間に任せていいわけではない。


そう抗議しても、大丈夫、あの子なら、と神は言う。それに、あの人間だって、償わないといけないから、って。

 例えそんなことを言われようと、納得できるわけもない。僅かな苛立ちを覚えつつも、神の決めたことだから。それだけで、与えられた役割をただ果たしていた。あの人間の隣で。


 だけど、長年あの人間の隣にいて少し分かったような気がする。

何で、あの人間がわざわざ神の役割を果たすのか。
あの人間が何を犯し、何を償わなければならないのか。

再度神に何故あの人間に神の領分を任せたのか訊いても、ただ笑うだけだった。それが僕の考えの同意なのか、それとも全く違うのか。それは確かではないが、もし、自分の考えが合っているのだとしたら。


 ――中々、神も酷なことをする。


 そう、思った。

人間とは言え、弱いことには変わりないのに。神より遥かに弱い存在である自分でさえ、あの人間でも脆弱だと感じる。それなのに、あの重荷は。普通であれば、押し潰される、はずなのに。それでも、きっと潰れないのは罪の意識が強いからだと、償いの意志が強いからだと、納得していた。

 だけど。
世間は忘れても、どれほど嘆いても、罪は消えない。あの人間は、確かに、償い続けたおかげか罪による穢れは落ちているように見える。

その一方で、あの人間に張り付いた罪は一向に消えていない。

 恐らく、あの人間はそのことに気づいている。気付いているのに、人間の定めを書き続けている。手を一切休めせずに。


少しぐらい休めばいいじゃないか。


そう言ってその人間の顔を覗き込んだ時、その人間は泣いていた。泣きながら、ペンを握りしめていた。


ああ、今自分は、余計なことを言ってしまったのか。


そう悟ってはその人間に背を向けた。余計なことを言ってしまった羞恥もある。苦し紛れに唇を噛み締める表情が、この人間が負うべき罪の重さを示しているような気がして。



もう暫くして、神に自分の役割を剥奪するように迫った。

もう、あの人間が行きつく末路を知ってしまったから。
自分が今負うべきものを知ったから。

きっと、神は自分にそれを気付かせるためにこの役割を振ったのだ。少しだけ、すっきりしたような気がした。



神としての役割を一人で果たしていると、近くに誰かが降り立つ気配がする。一旦手を止めてそちらに体を動かせば、私の仕事を任せた人間を補助することを任せた者がいた。前回会った時と違うところと言えば、漸く自分に課されたものが分かった、そんなところだろうか。

「やっといい顔になりましたね。では、再度訊きましょう。あなたがするべきことは?」
「――償う、こと」

何かを覚悟した顔。自分がそう仕向けたとはいえ、どこか複雑な気分だ。


「具体的に何を償うのです?」


更に追い詰めるようにそう問えば、ポツリポツリ、犯してしまった罪を一つ一つ吐き出す。些細なことも含めて。
「そ、れは、――」

全ての罪を吐き出し終わった後の彼の顔は、苦しそうではあったが、それと同時に清々しさも含まれていた。
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