おじいちゃんと狐

おじいちゃん

僕は天狐の子どもらしいけど、詳しいことは分からない。ただ、社会勉強みたいな感じで人間界に行くように言われて、訳も分からぬまま今日まで生きている。


それでも、あるおじいちゃんは僕を見て食べ物をくれるし、居場所まで作ってくれたんだ！
流石にいつもおじいちゃんの家にいるのは迷惑を掛けるかもしれないから、夜は違うところに行っているんだけど。

今日も、暖かい日差しを浴びながらいつも行っている場所へてくてく向かい、昔ながらの木造建築らしい家に着いては定位置で丸くなる。ここは柔らかい日差しを浴びれるし、クッション（というらしい）の上で丸くなれるから好き。

でも、それ以上にこの家の持ち主のおじいちゃんと一緒に日向ごっこして、背中を撫でてもらうのが好きなの！
だって、撫でてもらう手はゴツゴツしてるけど、すごい優しいんだよ！

……それが気持ちよくて、よく寝落ちしかけちゃうのは内緒だけどね。

今日もおじいちゃんと日向ごっこだけど、今日は何故かおじいちゃんの膝の上がよかった。
ほんとに、何でか分からないんだけど。

四本脚でおじいちゃんの膝の上に乗っかると、背中とか頭とか思う存分撫でてもらって嬉しさのあまりぶんぶんと尻尾を振る。
まるで僕が犬みたいだとか言って笑っていたけど、別にいいもん、僕が何であったって。だって、こうしていられるのも僕の特権なんだから！

でも、おじいちゃんはもうすぐでお別れって言ったの。
お別れって、一緒に入れないってことだよね？
やだ、ずっとおじいちゃんの隣がいいもん！

おじいちゃんの手に鼻を押し付ければ、頭から背中にかけて撫でてくれた。ひどく優しく撫でる手は好きだけど、悲しそうに目を細めるのを見ては僕も悲しくて耳と尻尾を垂らす。

いつの間にか僕を撫でる手も離れていて、おじいちゃんに引っ付いていないとどこかに行っちゃう気がして、体全体をおじいちゃんの体にこすりつけた。
でも、すぐにいなくなるわけじゃないんだよって言われても、寂しいし悲しい。

このときが続いてほしいから、まだもう少しはあるって言葉に期待してしまう。でも、今はそれでいいんだよね？

胸のあたりがムズムズして、その日はおじいちゃんの傍から離れるのがまずいんじゃないか、とも思えてしまって。その日だけはおじいちゃんの横で丸まりながら寝ることになった。

そんな心配しなくても、と笑っていたけど、僕にとっては心配なの！

でも、そのときからあった不快なざわめきが本当に実現するとは思わなくて。朝目覚めておじいちゃんの手に鼻を擦り付けたとき、全く反応がなかった。

それだけならば、よかったのに。

おじいちゃんからは、全く体温を感じられなかったのだ。


ああ、これがおじいちゃんが言っていたことなのか。


そう思っても、信じたくない気持ちが勝ってしまう。

ねえ、いつものように頭を撫でてよ。

おじいちゃんの頬を舐めたり、手に頭を擦り付けたりするが、全く反応を得られなくて。ようやく、現実を受け入れられた。でも、受け入れてしまえば、涙が溢れてやまない。これまでおじいちゃんの優しさを受けてきたから、忘れられるわけもなくて。一日中、わんわんと一人で泣き続けていた。