【kindleセルフ出版するため、12/20頃、全編公開を終了予定】巻き戻りの転生者は、腐女子と共にハッピーエンドを取りに行く!

たいよう一花

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一章 転生人生一周目

1-3 束の間の幸福 1

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 チェレステは幼いころから植物や鉱物に興味を示し、アイテム生成せいせいと呼ばれる作業に夢中だった。
 アイテム生成とは、自然から採取した素材などを何種類か適宜てきぎ配合し、様々なアイテムを生み出すことだ。それを生業とする者もいるし、研究者もいる。ポーション生成師や魔道具職人など、生成系には様々な専門分野があるが、中でも多方面に精通し多種多様なアイテムを生み出すことのできるアイテム生成士は、人々の尊敬を集める職業として人気がある。

 そのアイテム生成士を目指し始めたのは、まだチェレステが物心ついたばかりのころ。生まれつき忍耐強さや発想力に長けていた彼は、幼い頃からその才能を発揮していた。
 両親はチェレステの得意分野を伸ばす教育を惜しまなかった。その甲斐もあって、十五歳の頃には国の主催するコンテストで数々の賞を取り、周囲から将来を嘱望されるようになる。
 二十二歳の今は、アイテム生成士としての正規の資格も取り、これから多方面に活躍するだろうと生成士業界から熱い期待を寄せられているところだ。

 そんなチェレステのために、トリスタンは公爵邸に生成作業専用の研究室兼工房アトリエを用意してくれていた。最新の機材はすべて揃っていて、中にはチェレステが長年欲しいと思っていた高価な魔道具もある。
 チェレステはなぜトリスタンがこんなにも自分に親切にしてくれるのかわからず最初こそ戸惑ったが、そのうちどうでもよくなった。何もかもどうでもよくなるほど、チェレステにとってそのアトリエは素晴らしい贈り物だったのだ。

(なんだぁ……公爵って、噂と全然違う、良い人だったんだなぁ)

 チェレステはトリスタンに対する認識を改めた。
 彼がなぜ、チェレステの前に九人も次々と、結婚と離婚を繰り返したのかは知らないが、きっと何か理由があってのことだろう――チェレステはそう思い、深く考えないことにした。もっとも、考える時間すらなかった。最高の環境でのアイテム生成に、夢中になっていたからだ。

 その後も、トリスタンの親切は続いた。
 公爵領内ならどこでも採取に出かけてよいと、言ってくれたのだ。
 それを聞いてチェレステの興奮と歓喜は一層高まった。

 公爵領の中には立入制限の厳しい鉱石窟こうせきくつや森林がある。珍しい素材が採取できるその地域に、トリスタンはチェレステのために採取要員と護衛を何人も付けて送り出してくれた。そのおかげで、今まで未着手だった分野のアイテム生成に挑戦することが叶い、チェレステは気が狂いそうなほどの幸福に満たされた。

 そんなある日、「女神の裾野」と呼ばれる聖域を訪れたチェレステは、ふと、目の前に広がる風景に見覚えがあるような気がした。

(あれ……? 初めて来るのに……。まただ、この感覚……)

 チェレステは辺りを見回し移動すると、足元に目を留めた。

(やっぱりあった。この植物……貴重なササギリマグワート。そうだ、違いない。今まで手にしたことないのに、なぜここに植わってるってわかったんだろう?)

 ふと頭に浮かんでくる、既視感。

 それはチェレステがごく幼い頃から経験している、奇妙な感覚だった。知っているはずのないことを知っていたり、行ったことのない場所の鮮明な地図が頭に浮かんだり、何をどれぐらい加えれば、調合に成功するか知っていたり。チェレステのアイテム生成が高精度なのも、その既視感が大いに貢献していた。

 そして時には、こことはまったく違う、おかしな世界の光景が頭に浮かぶこともある。見たこともない不思議な建物、路上を走る奇妙な乗り物、そして、「女性」と呼ばれる人間の雌。いずれも、チェレステが今生きているこの「フージョシファナティカ」という世界には存在しないものだ。それらは単なる想像とは思えないほど、細部に至るまでくっきりと、チェレステの頭の中に再現された。そしてそれらはいつも、正体不明の違和感を伴ってチェレステの心をかきまわす。

 トリスタンと暮らすようになってからは、その違和感とよく似た別の感覚も襲ってくるようになった。
 チェレステはトリスタンと一緒にいると、時折「懐かしい」と感じることがあった。確かによく知っている、でも思い出せない。そんな感覚に襲われる。

(なんだろう、これ……。あの違和感とはまた違う、別の、変な感覚……もやもやする)

 思い出したいのに思い出せない、もどかしさ。
 知っているはずの何かが、抜け落ちてしまっている。
 どこか遠くから俯瞰ふかんするように、心はそれを認識していた。
 それが湧き起こるたび、チェレステは焦燥感に駆られた。
 
 しかしどれだけ考えても、いつも答えは出ない。
 不可解なこの現象を解明しようと頭の中を探ると、いつも決まって頭痛が起こり、気分が悪くなってくる。考えれば考えるほど泥沼にはまっていくようで、チェレステはもう、この感覚には深く触れないことにした。頭を振り払い、アイテム生成に集中する。そうすればすぐに気分が良くなった。

(うん、今はアイテム生成が先決! 公爵にいつ離縁されるかわかんないしな。今のうちに、たくさん採取して、じゃんじゃん生成するぞ!)

 チェレステの毎日は、充実していた。

 それから三週間ほどが過ぎた、夜。
 遅くまで研究に没頭していたチェレステは、遂に睡魔に勝てなくなって自室に戻ると、ベッドに倒れ込んだ。

 さあ眠ろうとした、そのとき。なんとトリスタンが訪れた。
 
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